オルガノイドおよびその共培養系を用いた化学物質の新規in vitro有害性評価手法の確立

文献情報

文献番号
202325005A
報告書区分
総括
研究課題名
オルガノイドおよびその共培養系を用いた化学物質の新規in vitro有害性評価手法の確立
課題番号
22KD1001
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
戸塚 ゆ加里(日本大学薬学部 環境衛生学)
研究分担者(所属機関)
  • 藤岡 正喜(公立大学法人大阪 大阪公立大学 大学院医学研究科 分子病理学)
  • 成瀬 美衣(国立研究開発法人国立がん研究センター 研究所動物実験施設)
  • 美谷島 克宏(東京農業大学 応用生物科学部)
  • 広川 佳史(三重大学医学研究科腫瘍病理学講座)
  • 西村 有平(三重大学 大学院医学系研究科統合薬理学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
22,115,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
化学物質の開発には安全性評価が不可欠であり、そのために実験動物を用いた反復投与試験等の実施が必要とされる一方で、動物愛護3Rs (Replacement・Reduction・Refinement)の観点から、化学物質の発がん性予測等の安全性評価の動物実験代替法が求められている。本研究では、マウス肺及び肝臓オルガノイドおよび免疫系や間質細胞等との共培養系を用いた化学物質の新規in vitro有害性評価手法の確立を目指し、さらに、一次線毛発現がオルガノイドを用いた新規評価系の有用なエンドポイントとなり得るかどうかについても検討する。
研究方法
昨年度開発したドーム型培養法で市販のマウス肝臓由来オルガノイドにフェノバルビタール(PB)、カルバミン酸エチル(EC)、モノクロタリン(MCT)クマリン(CMR)を暴露し、毒性評価を行った。回収したRNAを用いて遺伝子発現解析を行うとともに、形態学的な変化を観察した。エピゲノムに対する影響については、マウス肺由来オルガノイドにEC処置を施したものを用い1塩基レベルのメチル化変化及び染色体全体におけるメチル化の亢進傾向をRRBS解析により同定した。また、オルガノイドによる評価系の妥当性検討のためのin vivo毒性試験を実施した。一次線毛の分子基盤解析とオルガノイド評価系への応用検討では、化学物質の暴露による一次線毛の形態変化を様々な組織において評価できるゼブラフィッシュを作製し、その定量的解析法を確立した。さらに、化学物質を暴露したラット組織における一次線毛の発現について、蛍光免疫染色により評価した。
結果と考察
市販のマウス肝由来オルガノイドにPB, EC, MCT,CMRを曝露した24時間後の細胞毒性について検討した結果、いずれの被検物質も濃度依存的に細胞生存率の低下が確認された。また、複数回暴露では細胞の形態変化が認められたが、共通の変化は認めなかった。一方、本試験により回収したRNAを用いた遺伝子発現解析の結果、Hepatic Steatosisなどの炎症に起因する疾患の機能が亢進している事が明らかになった。また、EC処置により、マウス肺オルガノイドに1塩基レベルのメチル化変化、染色体全体におけるメチル化亢進傾向が生じることを明らかにした。領域でのメチル化変化ではないため、遺伝子発現に影響を与えるかどうかについてはさらに検証を必要とする。一塩基レベルのメチル化変化部位の、バイサルファイトシーケンス後のクローニングによる結果の確認、また進行中のRNA seqの結果と合わせることで、より詳細な解析を行う。今後、マウス組織由来オルガノイドおよび免疫/間質細胞との共培養系を用いることで、例えば肝細胞と肝星細胞との相関や肝細胞とクッパー細胞との相関など、より生体を模倣した影響が評価できると期待される。化学物質による毒性、発がん性は共存する間質細胞に依存することが報告されており、in vitro共培養での検証が有用だと考えられる。現在、共培養系の準備を進めている。オルガノイドによる評価法の妥当性検討のためのin vivo毒性試験では、今年度は肝臓並びに肺毒性の陽性対照物質を用いて、標的組織における影響を把握することを試みた。陽性対照物質の投与により標的臓器である肝臓において、いくつかの毒性パターンを有する病態が得られた。今後はオルガノイド試験より新たに得られた指標について評価し、in vitro評価系の妥当性を検証していく予定である。
一方、発がん性化学物質を曝露したラットの肝臓組織標本を用いた、一次線毛に対する蛍光免疫染色の結果、化学物質の処置/無処置に関係なく肝細胞では一次線毛発現はほとんど見られなかったが、化学物質無処置の胆管上皮細胞の管腔側に一次線毛発現が認められ、いずれの化学物質処理によってもこの陽性シグナルの減弱と陽性細胞の減少が認められた。薬物や毒物などにより障害をうけた肝臓では,成熟した肝細胞自体の増殖が阻害される。そのため,未分化性をもつ特殊な肝前駆細胞の活性化が誘導された可能性が考えられる。マウス、ラット、ヒトの間で統一された肝前駆細胞マーカーは確立されていないが、ラットで最適とされるマーカーを選択し、一次線毛との二重染色を今後検討していく。
結論
培養条件を確立したため、研究分担者の各施設において、同一条件で既知の化学物質を使用した検討を行うことで、オルガノイドを用いた化学物質のin vitro有害性を検証することが可能となった。また、一次線毛の分子基盤解析とオルガノイド評価系への応用検討に関しては、今年度確立したゼブラフィッシュ一次線毛定量的解析法を用いて、化学物質の曝露による一次線毛の形態変化を、様々な実験動物などの組織に応用して観察することができると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2024-10-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-10-03
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202325005Z