ナノマテリアルの胎盤毒性解析とその評価基盤の構築

文献情報

文献番号
202325002A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノマテリアルの胎盤毒性解析とその評価基盤の構築
課題番号
21KD1002
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
堤 康央(大阪大学 薬学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 中島 彰俊(富山大学 学術研究部医学系)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
16,610,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、胎盤毒性発現メカニズムを考慮したリスク解析基盤を確立することで、化学物質による胎盤毒性を判断できるよう、(1)胎盤動態、(2)胎盤ハザード、(3)胎盤毒性に係るメカニズムなどの各段階への影響を各々解析し、(1)〜(3)の情報を総合集積することで、統合的に評価できるスキームを構築することを目指す。そのうえで、近年のナノテクノロジーの進展に伴い、香粧品や食品領域をはじめ、既に様々な産業分野の製品に実用化されているナノマテリアルなどの毒性未知化学物質の胎盤毒性情報の収集を試みる。
研究方法
胎盤毒性が疑われる既存化学物質をポジティブコントロール候補として用い、統合的評価スキームの構築と妥当性を検証することで、定量的・高感度な試験法を確立し、これらを組み合わせた「統合的胎盤毒性評価スキーム」を構築する。
結果と考察
令和5年度研究では、粒子径10 nmの銀ナノ粒子(nAg10)をモデルナノマテリアルとして供し、その胎盤毒性を探索(スクリーニング)したところ、マウス胎盤形成期に静脈内投与することで、❶nAg10は胎盤に移行し得ることを示した。また、❷合胞体化の進行過程において、nAg10はエンドサイトーシス経路からヒト妊娠性絨毛癌細胞株であるBeWo細胞内に取り込まれることを見出した。さらに、❸銀ナノ粒子がヒストン脱アセチル化酵素の活性を抑制し、その作用は粒子径が小さくなるほど強い傾向を示すことが明らかとなった。これら知見は、未だ十分に理解されていないナノマテリアルの生殖発生毒性の理解に向けて、胎盤毒性の観点からのリスク解析の必要性を初めて示すものである。加えて近年、一部のナノマテリアルは絨毛細胞の酸化ストレス誘導に関わることが報告されており、また妊娠高血圧腎症の発症には合胞体栄養膜細胞に対する酸化ストレスが関与するとされる。そこで、細胞内恒常性維持機構としてのオートファジー経路において酸化ストレスとの関与について検討したところ、❹オートファジー抑制が合胞体栄養膜細胞の酸化ストレス耐性を減弱させることを確認した。さらに、❺妊娠高血圧腎症の発症予測に臨床応用されているsFlt-1/PlGF比に着目し、オートファジー抑制が絨毛におけるsFlt-1/PlGF比を上昇させることを明らかにした。現在、ナノマテリアルの種類・サイズ・修飾の違いによる絨毛細胞への酸化ストレス誘導能およびそれに対抗するオートファジー能の評価法を開発すると共に、ex vivoの胎盤評価系の確立を目指している。
結論
胎盤毒性メカニズムを考慮した統合的評価スキームの構築に向けて、ナノマテリアルや化学物質曝露と胎盤毒性に関する科学的根拠の収集と分子メカニズムの解明につながる点で、当初年次計画の予定通り達成できた。また、研究の質的担保、検証過程の確保に加え、利害関係者からの意見聴取を目的として、種々業界関係者と連携し、研究成果に関する意見交換を実施すると共に、論文・学会での成果公表を推進している。

公開日・更新日

公開日
2024-10-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-10-03
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202325002B
報告書区分
総合
研究課題名
ナノマテリアルの胎盤毒性解析とその評価基盤の構築
課題番号
21KD1002
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
堤 康央(大阪大学 薬学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 中島 彰俊(富山大学 学術研究部医学系)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
妊娠維持、胎児の健やかな成長には、胎盤の正常な維持と発達が命綱的に不可欠であり、実際に多くの胎児発育不全は胎盤の異常や発育の障害を伴ってしまうことが産婦人科領域でも示されている。従って、化学物質の生殖発生毒性評価にあたっても、胎盤への毒性も考慮すべきである。しかし現状では、化学物質による胎盤毒性の評価は極めて限定的であるうえ、胎盤に焦点をあてた、確立された代替試験法は無い。化学物質の生殖発生毒性の評価に際して、胎児と母体を両輪で解析することは言うまでも無く、そのうえでさらに、「母体と胎児をつなぐ胎盤」に関する影響解析も集中的になされるべきであり、特に、受精卵/胎児の成長の基盤となる胎盤への毒性の理解が必須と言える。そこで本研究では、胎盤毒性発現メカニズムを考慮したリスク解析基盤を確立し、化学物質による胎盤毒性を判断できるよう、(1)胎盤動態、(2)胎盤ハザード、(3)胎盤毒性に係るメカニズムなどの各段階への影響を各々解析し、それら情報を総合集積することで、統合的に評価できるスキームの構築を試みた。
研究方法
胎盤毒性が疑われる既存化学物質をポジティブコントロール候補として用い、統合的評価スキームの構築と妥当性を検証することで、定量的・高感度な試験法を確立し、これらを組み合わせた「統合的胎盤毒性評価スキーム」を構築する。
結果と考察
令和3〜5年度における研究成果において、❶胎児に対する毒性兆候が報告されているバルプロ酸が、ヒト絨毛がん細胞株(BeWo)における、HIF-1 Pathwayを介した胎盤ホルモンhCGの産生増加やグルコースの取り込み低下を引き起こすことを初めて明らかとするなど(J. Toxicol. Sci., in press)、バルプロ酸が、胎児直接的だけでなく、胎盤を介して間接的にも毒性を引き起こすことを国内外で先駆けて明らかにすると共に、「新たな生殖発生毒性の評価手法」の開発に資する切り口を得た。そこで、これら「新たな生殖発生毒性の評価手法」の検証を兼ね、銀ナノ粒子をモデルナノマテリアル(NM)として供し、その胎盤毒性を探索(スクリーニング)したところ、マウス胎盤形成期に静脈内投与することで、❷胎盤に移行し得ることや、❸胎盤の低形成を誘導し得ることを示した。また、❹BeWoにおけるforskolin誘導性の合胞体化の進行を抑制することや(Nanotoxicology 2022)、❺合胞体化の進行過程においてエンドサイトーシス経路から細胞内に取り込まれることを見出した。さらに、❻非晶質ナノシリカが、BeWoにおけるCGBの遺伝子発現量を減少し、forskolin誘導性の合胞体栄養膜細胞の形成を抑制し得ることを示した(BPB Reports 2022)。これら知見は、未だ十分に理解されていないNMの生殖発生毒性の理解に向けて、胎盤毒性の観点からのリスク解析の必要性を初めて示すと共に、バルプロ酸による胎盤毒性研究を通じて得られた新たな生殖発生毒性評価手法の有用性、特にNM等の化学物質に係る胎盤毒性の探索と新規同定に有効であることを示唆するものである。加えて近年、一部のNMは絨毛細胞の酸化ストレス誘導に関わることが報告されており、また妊娠高血圧腎症の発症には合胞体栄養膜細胞に対する酸化ストレスが関与するとされる。そこで、細胞内恒常性維持機構としてのオートファジー経路において酸化ストレスとの関与について検討したところ、❼オートファジー抑制が栄養膜細胞における分化や融合を抑制すること(Reprod. Med. 2022)、❽合胞体栄養膜細胞において抗酸化酵素HO-1が高発現し酸化ストレス耐性を示し、オートファジー抑制がp62-NBR1-Nrf2-HO-1経路を通して合胞体栄養膜細胞のHO-1発現を低下させること(J. Reprod. Immunol. 2023)、❾オートファジー抑制による合胞体栄養膜細胞におけるHO-1発現低下が、低酸素条件下でのsFlt-1/PlGF比を上昇させることを見出した。現在、NMの種類・サイズ・修飾の違いによる絨毛細胞への酸化ストレス誘導能およびそれに対抗するオートファジー能の評価法を開発すると共に、ex vivoの胎盤評価系の確立を目指している。
結論
胎盤毒性メカニズムを考慮した統合的評価スキームの構築に向けて、ナノマテリアルや化学物質曝露と胎盤毒性に関する科学的根拠の収集と分子メカニズムの解明につながる点で、当初年次計画の予定通り達成できている。また、研究の質的担保、検証過程の確保に加え、利害関係者からの意見聴取を目的として、種々業界関係者と連携し、研究成果に関する意見交換を実施すると共に、論文・学会での成果公表を推進している。

公開日・更新日

公開日
2024-10-03
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202325002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ナノマテリアルを含む化学物質への曝露と胎盤毒性に関する科学的根拠を収集し、胎盤毒性機序を考慮した、新たな生殖発生毒性の評価手法の構築につながる知見を多く見出した。これら知見は、生殖発生毒性学的観点からの化学物質のリスク解析基盤を構築し、リスク管理に係る新たな政策形成に資する知見の提供に大きく貢献するのみならず、化審法における化学物質のリスク評価に資する毒性情報の集積につながるものと期待される。
臨床的観点からの成果
特記事項なし
ガイドライン等の開発
特記事項なし
その他行政的観点からの成果
特記事項なし
その他のインパクト
研究期間において、学会のシンポジウムなどを通じて、研究者やナノ産業界のリスクコミュニケーションを実施しており、国民が納得・安心してナノ素材の恩恵を最大限に享受でき、我が国のナノ産業の育成・発展に直結するのみならず、労働・生活衛生の向上と国民の健康確保など、ナノ素材の社会受容の促進といった国際貢献も期待できる。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
8件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
43件
学会発表(国際学会等)
16件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Furuta A., Shima T., Kawaguchi M. et al.
The autophagy-lysosomal machinery enhances cytotrophoblast-syncytiotrophoblast fusion process.
Reprod. Med. , 3 (2) , 112-126  (2022)
https://doi.org/10.3390/reprodmed3020010
原著論文2
Yamaguchi S., Isaka R., Sakahashi Y. et al.
Silver nanoparticles suppress retinoic acid–induced neuronal differentiation in human-derived neuroblastoma SH-SY5Y cells.
ACS Appl. Nano Mater. , 5 , 19025-19034  (2022)
https://doi.org/10.1021/acsanm.2c04938
原著論文3
Furuta A., Shima T., Yoshida-Kawaguchi M. et al.
Chloroquine is a safe autophagy inhibitor for sustaining the expression of antioxidant enzymes in trophoblasts.
J. Reprod. Immunol. , 155 , 103766-  (2023)
https://doi.org/10.1016/j.jri.2022.103766
原著論文4
Sakahashi Y., Yamamoto R., Kitahara G. et al.
Amorphas silica nanoparticles decrease human chorionic gonadotropin β expression during syncytialization of BeWo cell.
BPB Reports , 5 (6) , 154-158  (2022)
https://doi.org/10.1248/bpbreports.5.6_154
原著論文5
Sakahashi Y., Higashisaka K., Isaka R. et al.
Silver nanoparticles suppressed forskolin-induced syncytialization in BeWo cells.
Nanotoxicology , 16 (9-10) , 883-894  (2022)
https://doi.org/10.1080/17435390.2022.2162994
原著論文6
Kitahara G., Higashisaka K., Nakamoto Y. et al.
Valproic acid induces HIF-1α-mediated CGB expression elevation and glucose uptake suppression in BeWo cell.
J. Toxicol. Sci. , 49 (2) , 69-77  (2024)
https://doi.org/10.2131/jts.49.69

公開日・更新日

公開日
2024-10-03
更新日
-

収支報告書

文献番号
202325002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
21,593,000円
(2)補助金確定額
21,593,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 11,518,634円
人件費・謝金 749,387円
旅費 2,215,643円
その他 2,126,336円
間接経費 4,983,000円
合計 21,593,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2024-10-03
更新日
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