エクソソームRNAを毒性指標とした次世代型催奇形性評価法の開発に資する研究

文献情報

文献番号
202325001A
報告書区分
総括
研究課題名
エクソソームRNAを毒性指標とした次世代型催奇形性評価法の開発に資する研究
課題番号
21KD1001
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
小野 竜一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部 第五室)
研究分担者(所属機関)
  • 桑形 麻樹子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部第二室)
  • 成瀬 美衣(国立研究開発法人国立がん研究センター 研究所動物実験施設)
  • 伊川 正人(大阪大学 微生物病研究所)
  • 落谷 孝広(東京医科大学 医学総合研究所 分子細胞治療研究部門)
  • 平林 容子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
19,908,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、細胞間情報伝達の1つとして、細胞から分泌される小胞であるエクソソームが注目されている。エクソソームは体液中(血液、髄液など)を循環し、細胞特異的なマイクロRNAを内包することから、研究分担者の東京医大・落谷らは、腫瘍細胞に特異的なマイクロRNAを指標にした、血液1滴による13種類の早期がん診断法(精度 95 % 以上)を開発した経験を持つ。

我々は、エクソソームRNAを指標とした迅速かつ高感度な次世代型毒性試験法の開発を、厚労科研・化学物質リスク事業(H30-R2年度)において行い、成獣雄マウスに対して、血液1滴から全身の病理組織学的診断を検出しうる高感度な系の確立に成功している (Ono R. et al., Toxicology Reports 2020)。

本研究は、これまでの実績、経験を活かし、エクソソームRNAを指標にした次世代型の催奇形性評価法の確立と催奇形性の発現メカニズムの解明を目的とする。
研究方法
本研究においては、毒性発現メカニズムを考慮した次世代型の生殖発生毒性評価法を確立することを目的に、以下の概要を行う。

● 妊娠中のばく露により二分脊柱などの催奇形性や生後の自閉症などを発現することが知られるバルプロ酸の妊娠マウスへの投与実験を行い、詳細な外表面観察、および、母動物血清および羊水よりエクソソームの抽出を行い、次世代シーケンサーによる網羅的遺伝子発現解析を行うことで、催奇形性作用のバイオマーカー候補となるエクソソームRNAの単離を行う。

● 肝臓オルガノイドに肝毒性モデル物質である四塩化炭素を添加し、肝臓オルガノイドの培養上清における生化学検査およびエクソソームRNA解析を行うことでin vivoの特性を高度に保存したin vitroモデルとされるオルガノイド3D培養法の培養上清中に細胞より分泌されるエクソソームを毒性指標として利用可能かを検討し、動物実験によらない次世代型代替法の開発を行う。
結果と考察
(1)次世代型催奇形性評価法の開発の一環として、妊娠中のばく露により二分脊柱などの催奇形性や生後の自閉症などを発現することが知られる催奇形性陽性対照物質であるバルプロ酸を妊娠9~11日のマウスに0、300、600、800 mg/kgで経口投与した。その結果、投与したバルプロ酸の濃度依存的に子宮内胎児発達遅延(IUGR)の表現型が有位差を持って観察され、さらに、高濃度群においては、神経管閉鎖不全の胎児の他、指形成異常の表現型を持つ胎児が複数観察された。このことから、本研究で行なったバルプロ酸投与による催奇形性モデル動物の作製は予定通りに成功した。
さらに、バルプロ酸を投与した妊娠マウスの母動物血清、および、羊水よりエクソソームの抽出を行い、次世代シーケンサーによる網羅的遺伝子発現解析を行うことで、催奇形性作用のバイオマーカー候補となるエクソソームRNAの単離に成功した。

(2)肝臓オルガノイドに肝毒性モデル物質である四塩化炭素を添加したところ、用量依存的に、肝臓オルガノイドに細胞死が見られた一方、生化学検査や肝障害のバイオマーカーとなるエクソソームRNAであるmiR-122やmiR-192の挙動はin vivoを反映していなかった。
結論
本研究で行なった催奇形性物質であるバルプロ酸の妊娠動物への投与により、濃度に依存した子宮内胎児発達遅延や、神経管閉鎖不全や指形成不全の催奇形性作用が確認された。ここで、重要なのは、全ての腹で同様に催奇形性作用が確認されたわけではなく、催奇形性の全くでない腹もあれば、ほぼ全てが催奇形性の表原型を持つ腹もあるという事実である。
このような催奇形性発現状況こそが、催奇形性試験に経験豊富なエキスパートが必要な大きな理由の一つと考えられる。そこで、我々は、催奇形性の表原型の有無に関係なく、催奇形性物質投与により、誘導されるエクソソームRNAの発現量を催奇形性の指標とする次世代型毒性評価法の開発を本研究の目的とした所以である。

母動物へのバルプロ酸投与により、胎児における催奇形性作用が確認され、エクソソームを抽出する体液として、母動物の血清、および、胎児の羊水の採取を行い、それらの網羅的遺伝子発現解析を行なった。そこで、バルプロ酸投与に依存的に誘導されるエクソソームRNAの単離に成功した。(Ono R. et al., Fundamental Toxicological Sciences 2024)。

本研究で開発に成功した母動物の血清および胎児羊水中のエクソソームRNAを毒性指標とする次世代型毒性評価法は、動物実験における使用匹数の大幅な削減に貢献するだけでなく、オルガノイドなどの培養系におけるin vivoを反映しているのかという鋭敏な指標にもなりうると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2024-10-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2024-10-03
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202325001B
報告書区分
総合
研究課題名
エクソソームRNAを毒性指標とした次世代型催奇形性評価法の開発に資する研究
課題番号
21KD1001
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
小野 竜一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部 第五室)
研究分担者(所属機関)
  • 桑形 麻樹子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部第二室)
  • 成瀬 美衣(国立研究開発法人国立がん研究センター 研究所動物実験施設)
  • 伊川 正人(大阪大学 微生物病研究所)
  • 落谷 孝広(東京医科大学 医学総合研究所 分子細胞治療 研究部門・)
  • 平林 容子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、細胞間情報伝達の1つとして、細胞から分泌される小胞であるエクソソームが注目されている。エクソソームは体液中(血液、髄液など)を循環し、細胞特異的なマイクロRNAを内包することから、研究分担者の東京医大・落谷らは、腫瘍細胞に特異的なマイクロRNAを指標にした、血液1滴による13種類の早期がん診断法(精度 95 % 以上)を開発した経験を持つ。

我々は、エクソソームRNAを指標とした迅速かつ高感度な次世代型毒性試験法の開発を、厚労科研・化学物質リスク事業(H30-R2年度)において行い、成獣雄マウスに対して、血液1滴から全身の病理組織学的診断を検出しうる高感度な系の確立に成功している (Ono R. et al., Toxicology Reports 2020)。

本研究は、これまでの実績、経験を活かし、エクソソームRNAを指標にした次世代型の催奇形性評価法の確立と催奇形性の発現メカニズムの解明を目的とする。
研究方法
本研究においては、毒性発現メカニズムを考慮した次世代型の生殖発生毒性評価法を確立することを目的に、以下の概要を行う。

● 妊娠中のばく露により二分脊柱などの催奇形性や生後の自閉症などを発現することが知られるバルプロ酸の妊娠マウスへの投与実験を行い、詳細な外表面観察、および、母動物血清および羊水よりエクソソームの抽出を行い、次世代シーケンサーによる網羅的遺伝子発現解析を行うことで、催奇形性作用のバイオマーカー候補となるエクソソームRNAの単離を行う。

● 肝臓オルガノイドに肝毒性モデル物質を添加し、肝臓オルガノイドの培養上清における生化学検査およびエクソソームRNA解析を行うことでin vivoの特性を高度に保存したin vitroモデルとされるオルガノイド3D培養法の培養上清中に細胞より分泌されるエクソソームを毒性指標として利用可能かを検討し、動物実験によらない次世代型代替法の開発を行う。
結果と考察
(1)次世代型催奇形性評価法の開発の一環として、妊娠中のばく露により二分脊柱などの催奇形性や生後の自閉症などを発現することが知られる催奇形性陽性対照物質であるバルプロ酸を妊娠マウスに投与し、バルプロ酸の濃度依存的に子宮内胎児発達遅延(IUGR)の表現型が有位差を持って観察され、さらに、高濃度群においては、神経管閉鎖不全の胎児の他、指形成異常の表現型を持つ胎児が複数観察された。さらに、バルプロ酸を投与した妊娠マウスの母動物血清、および、羊水よりエクソソームの抽出を行い、次世代シーケンサーによる網羅的遺伝子発現解析を行うことで、催奇形性作用のバイオマーカー候補となるエクソソームRNAの単離に成功した。

(2)肝臓オルガノイドに肝毒性モデル物質であるアセトアミフェンおよび四塩化炭素を添加したところ、用量依存的に、肝臓オルガノイドに細胞死が見られた一方、生化学検査や肝障害のバイオマーカーとなるエクソソームRNAであるmiR-122やmiR-192の挙動は、アセトアミノフェンにおいてはin vivoと同様の傾向を示したが、四塩化炭素においてはin vivoを反映していなかった。
結論
本研究で行なった催奇形性物質であるバルプロ酸の妊娠動物への投与により、濃度に依存した子宮内胎児発達遅延や、神経管閉鎖不全や指形成不全の催奇形性作用が確認された。ここで、重要なのは、全ての腹で同様に催奇形性作用が確認されたわけではなく、催奇形性の全くでない腹もあれば、ほぼ全てが催奇形性の表原型を持つ腹もあるという事実である。
このような催奇形性発現状況こそが、催奇形性試験に経験豊富なエキスパートが必要な大きな理由の一つと考えられる。そこで、我々は、催奇形性の表原型の有無に関係なく、催奇形性物質投与により、誘導されるエクソソームRNAの発現量を催奇形性の指標とする次世代型毒性評価法の開発を本研究の目的とした所以である。

母動物へのバルプロ酸投与により、胎児における催奇形性作用が確認され、エクソソームを抽出する体液として、母動物の血清、および、胎児の羊水の採取を行い、それらの網羅的遺伝子発現解析を行なった。そこで、バルプロ酸投与に依存的に誘導されるエクソソームRNAの単離に成功した。(Ono R. et al., Fundamental Toxicological Sciences 2024)。

本研究で開発に成功した母動物の血清および胎児羊水中のエクソソームRNAを毒性指標とする次世代型毒性評価法は、動物実験における使用匹数の大幅な削減に貢献するだけでなく、オルガノイドなどの培養系におけるin vivoを反映しているのかという鋭敏な指標にもなりうると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2024-10-03
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202325001C

収支報告書

文献番号
202325001Z