添付文書における腎機能指標の統一に係る研究

文献情報

文献番号
202324036A
報告書区分
総括
研究課題名
添付文書における腎機能指標の統一に係る研究
課題番号
23KC2004
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
石井 伊都子(国立大学法人千葉大学 医学部附属病院薬剤部)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 貴明(山梨大学 医学部附属病院薬剤部)
  • 内田 雅士(千葉大学 医学部附属病院薬剤部)
  • 淺沼 克彦(千葉大学 大学院医学研究院)
  • 相澤 昌史(君津中央病院 腎臓内科)
  • 川崎 洋平(埼玉医科大学 医学部)
  • 仕子 優樹(埼玉医科大学 リサーチアドミニストレーションセンター)
  • 新井 さやか(千葉大学 医学部附属病院薬剤部)
  • 中村 友紀(国立大学法人千葉大学 医学部附属病院薬剤部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
7,693,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 腎機能を示す指標は、血清クレアチニン値、Ccr、eGFR 等と様々であり、それぞれの指標が意味するところや適用する際の注意点等も異なっていることから、医薬品の添付文書における腎機能指標の表記も統一されていない。具体的には、医薬品ごとに用いられている指標が異なっていたり、「高度」「中等度」「軽度」等の具体的な数値で表記されていない医薬品も存在したりする。そのため、医療現場では、得られた検査結果を用いて医薬品ごとに適切な腎機能指標に変換した上で、その指標の特徴を踏まえて症例ごとに投与の適切性を判断している。
 一方、日本腎臓学会が発行しているガイドラインにおいて腎機能指標としてeGFRが採用されていることを踏まえ、脂質異常症治療薬の添付文書における腎機能指標をeGFRに統一するよう日本動脈硬化学会が見解を示しているほか、諸外国においても腎機能指標としてeGFRを使用することが推奨されている。これらの状況を踏まえると添付文書における腎機能指標については、eGFRに統一することが有用であると考えられる。しかしながら、統一にあたっては、その妥当性の検証や、個別の変換方法、変換した場合の安全性の確認を実施する必要がある。具体的には、以下のような観点で調査・検証を行い、添付文書における腎機能指標の変更に関する提言を行う。
研究方法
令和5年度の研究として、以下を行った。
・脂質異常症治療薬の添付文書における腎機能指標の記載の現状調査
・添付文書における腎機能指標の記載の現状調査
・eGFRとCcrの相関関係に関する調査
・自拠点データを用いたMID-NETデータ利活用に向けた予備検討
(倫理面への配慮)
本研究は、千葉大学大学院医学研究院倫理審査委員会の承認を受け実施した(承認番号M10649)。
結果と考察
研究結果
・脂質異常症治療薬の添付文書における腎機能指標の記載の現状調査
 腎機能に応じた用量設定に関する記載は11成分であった。腎機能に応じた用量設定が具体的に記載されていた医薬品はフェノフィブラート、ベザフィブラート、ペマフィブラート、ロスバスタチンの4成分であり、承認時の臨床試験や使用成績調査、承認後の製造販売後臨床試験時に用いられた腎機能指標を用いて設定されていた。
・添付文書における腎機能指標の記載の現状調査
 腎機能に応じた具体的な用量設定がなされている医薬品は血清クレアチニン14成分、Ccr60成分、eGFR 19成分であった(重複あり)。シスタチンCは該当がなかった。Ccrで用量設定が行われている薬剤のうち、2020~2021年の国内売り上げが上位である、千葉大学医学部附属病院の2014~2022年の外来処方における腎機能と用量に関する疑義照会が多い、動脈硬化学会からの指標統一の要望がある、主排泄経路が腎排泄である等の条件に当てはまる23薬剤について、今後、用量設定の指標をeGFRに変更した場合の安全性の検討を行うこととした。
・eGFRとCcrの相関関係に関する調査
 若年者において、推算クレアチニンクリアランス(酵素法)を0.789倍することで個別eGFR(mL/min/body)として評価する方法がある。シミュレーションの結果、年齢にかかわらず、性別、体格情報、血清クレアチニン値の組み合わせによっては、個別eGFRと推算クレアチニンクリアランスの比は0.789とは大きく乖離することが示された。
・自拠点データを用いたMID-NETデータ利活用に向けた予備検討
 eGFRを用いた場合の安全性の確認に必要と考えられる体格情報、検体検査の経時的な結果値、処方内容の抽出ができた。

考察
 本邦の医療用医薬品の添付文書において用量設定の指標として最も用いられているのはCcrであった。一般にeGFRは糸球体ろ過、Ccrは糸球体ろ過と尿細管分泌に基づく腎機能の推測値であり、薬剤によってどちらの指標を用いるのが適切かは薬物の性質により異なることが想定される。またeGFR/Ccr比は一定ではなく単純な換算は容易ではないと考えられた。このように用量調節の指標としてCcrが用いられる薬剤の指標をeGFRに単純に置き換えるのは難しいことが示唆されており、今後、リアルワールドデータでの検討によりどのような薬剤なら置き換えが可能か検討する必要がある。
結論
 腎機能指標のeGFRへの統一は容易ではないことが示唆された。今後、リアルワールドデータを用い、実現可能性について検討する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2024-06-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-06-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202324036Z