ファンコニ貧血とその類縁疾患の生体試料収集に関する研究

文献情報

文献番号
200936116A
報告書区分
総括
研究課題名
ファンコニ貧血とその類縁疾患の生体試料収集に関する研究
課題番号
H21-難治・一般-061
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
矢部 みはる(東海大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 矢部 普正(東海大学 医学部)
  • 加藤 俊一(東海大学 医学部)
  • 高田 穣(京都大学放射線生物研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ファンコニ貧血(FA)をはじめとする先天性骨髄不全症候群(CBMFS)などの稀少疾患の病態解明には種々の生体試料の採取体制と、系統的な検体保存体制が必要である。血液細胞以外に骨髄幹細胞や皮膚線維芽細胞をライブラリー化することにより、DNA解析、機能解析に加えて幹細胞レベルでの病態解明の研究に活用することができる。FAとその類縁疾患の患者生体試料(血液、骨髄、皮膚)の採取を行い、リンパ球やBリンパ球細胞株および骨髄造血幹細胞や間葉系細胞、皮膚線維芽細胞を培養して保存する。
研究方法
染色体脆弱試験とFANCD2モノユビキチン化の障害でFAの診断を確定後、造血細胞移植前の末梢血液細胞、骨髄細胞、皮膚細胞の採取、収集を行う。末梢血から血球分離を行い、リンパ球、DNA、RNAおよび一部のリンパ球ではEBウイルスでトランスフォームしたB細胞株作成を試みる。骨髄細胞と線維芽細胞を含む骨髄間葉系細胞の培養細胞と皮膚線維芽細胞も培養し、凍結保存を行う。これら疾患の遺伝子解析は、研究分担者である高田穣教授の下で行う。また、FAは発ガン性の高い疾患であり、病態解明のために移植後の放射線治療、化学療法の影響を受けた本人由来の細胞保存も行う。
結果と考察
東海大学の医の倫理委員会で「ファンコニ貧血とその類縁疾患の原因遺伝子解析および生体資料収集とその利用」の申請が承認された。2009年8月から2010年3月までに6症例の骨髄有核細胞、骨髄線維芽細胞、皮膚線維芽細胞の保存が行われた。3症例のFA遺伝子解析が終了し、いずれもA群に属しており、1例は末梢血リンパ球ではモザイキズム(復帰変異)のため、FAの診断が確定できなかった症例であり、骨髄線維芽細胞などの体細胞解析の有用性が示された。また新規の変異を認めた症例が2例あり、日本人の症例解析が新しい知見をもたらす可能性が示唆された。
結論
6症例の細胞保存ができ、従来リンパ球で行われていた遺伝子解析も体細胞で行うことにより、リンパ球で診断不可能であったモザイクの患者でもより確実に診断が可能となった。FA患者の中にはこのような体細胞モザイクを呈し、末梢血リンパ球の染色体断裂や遺伝子検索で診断不可能な症例が存在するため、より診断が確実な皮膚や骨髄の線維芽細胞の確保が重要と思われる。今後、iPS細胞の作成、各研究資源バンクへの細胞保存や細胞寄託についても検討中である。

公開日・更新日

公開日
2010-05-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936116C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ファンコニ貧血は染色体脆弱を伴い、骨髄不全、奇形、白血病、固形腫瘍などを発症する極めて稀な疾患である。2009年8月から2010年3月までに6症例の細胞保存が可能であった。3症例のFA遺伝子解析が終了し、いずれもA群に属しており、1例は末梢血リンパ球ではモザイキズム(復帰変異)のため、FAの診断が確定できなかった症例であり、骨髄線維芽細胞などの体細胞解析の有用性が示された。新規の変異も2症例に確認され多数の遺伝子解析により、日本人のFAの原因遺伝子の基盤が作られると思われる。
臨床的観点からの成果
稀少疾患であるファンコニ貧血を診断から治療、さらに生体試料の採取・保存まで一連の作業を同一施設で行うことにより、臨床的貢献と他に類を見ない保存効率を実現することが出来た。白血病へ移行した症例の骨髄細胞や骨髄線維芽細胞の保存も可能であったことより、今後、白血病化の解明にも期待がもたれる。移植成績は国際的にも評価を受け、移植後の発癌のリスクや女性の妊孕能については国際シンポジウムでの発表を予定している。
ガイドライン等の開発
本研究は稀少疾患であるファンコニ貧血とその類縁疾患の生体試料収集に関する研究であるため、ガイドライン等の開発はないが以下の審議が行われた。
ファンコニ貧血およびその類縁疾患の遺伝子解析および生体試料収集、東海大学医学部研究資源バンクでの保存、独立行政法人医薬基盤研究所生物資源研究部(難病研究資源バンク)に関して、東海大学医学部の医の倫理委員会に申請を行い承認された(2009年8月18日)。保存に関しては「ファンコニ貧血とその類縁疾患の生体資料収集のための指針」を作成した(2009年9月)。
その他行政的観点からの成果
ファンコニ貧血は稀少疾患であり、通常のバイオバンクでは入手困難な骨髄細胞、間葉系細胞、皮膚細胞などを用いることにより、幹細胞レベルでの病態解明やiPS細胞を用いた遺伝子治療などの新規治療法の開発に道を開くことが期待され、難治性疾患克服事業における行政的効果にも寄与できる。現在、iPS細胞の作成、各研究資源バンクへの細胞保存や細胞寄託について検討中である。
その他のインパクト
ファンコニ貧血は発がん性の高い疾患であり、その病態解明のために、細胞の保存は造血細胞移植前と造血細胞移植後の放射線や化学療法を受けた患者由来の細胞も保存することを目標とした。その結果3症例において移植後の皮膚や骨髄の線維芽細胞の保存も可能であり、がん化の解明にも期待がもたれる。また、「ヒト未分化造血幹細胞およびその分離方法ならびに分離装置」の特許が取得され、細胞保存への応用が期待される。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
12件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
ヒト未分化造血幹細胞およびその分離方法ならびに分離装置
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-