精神活性物質の化学構造に基づく乱用危険性予測に関する研究

文献情報

文献番号
202324014A
報告書区分
総括
研究課題名
精神活性物質の化学構造に基づく乱用危険性予測に関する研究
課題番号
23KC1002
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
舩田 正彦(湘南医療大学 薬学部)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋 秀依(東京理科大学 薬学部)
  • 富山 健一(国立精神神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部)
  • 栗原 正明(湘南医療大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
8,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国では、新規精神活性物質である危険ドラッグの流通により、その乱用に基づく事件事故が多発している。新しい危険ドラッグ乱用による健康被害の発生は依然として大きな社会問題となっている。こうした危険ドラッグに関して、迅速かつ包括的な薬物検出および有害作用の評価法の導入が必須となっている。合成カンナビノイド、フェンタニル誘導体の流通に加え、最近は催幻覚作用を示すLSD誘導体などのセロトニン受容体作用薬による健康被害の発生が問題となっている。こうした危険ドラッグの標準品として関連の誘導体のライブラリーを作製し、有害作用の評価や機器分析による微量分析法について検討することが急務である。本研究では、細胞を利用して、危険ドラッグの検出とその毒性を同時に検出する手法の開発を試みた。また、危険ドラッグの化合物ライブラリーを作製し、機器分析による微量分析法について検討した。
研究方法
本研究では、細胞を利用して、セロトニン受容体作用薬の検出とその有害作用を同時に検出する手法の開発を試みた。更に、検出の機動性を高める目的で、持ち運び可能な細胞利用による薬物検出器の作製を実施した。また、ヒトへの健康被害を推定するために重要であるヒト神経細胞を利用した毒性評価および危険ドラッグの包括指定の範囲を決めるデータを供する目的で、コンピュータを用いた化学計算によるインシリコ活性予測を行った。さらに、危険ドラッグの化合物ライブラリーを作製し、機器分析による微量分析法について検討した。
結果と考察
セロトニン受容体作用薬の作用点である5HT2A受容体発現細胞にカルシウムセンサータンパク質GCaMPを導入して、自立蛍光検出細胞となるCHO-5HT2A-GCaMP細胞を構築した。本細胞を利用して、N-Methoxybenzyl-phenethylamines (NBOMes:25I-NBOMe、25B-NBOMe、25P-NBOMe)について解析した。その結果、評価薬物は強力なセロトニン5HT2A受容体作用を示した。次に、細胞を利用した薬物検出法の実効性と利便性を高める目的で作製した、持ち運び可能な小型蛍光検出器での検出を確認した。ヒトiPS由来ドパミン神経細胞を用いて、覚醒剤であるメタンフェタミン添加による神経毒性を検討したところ、添加24時間後に細胞生存率は濃度依存的に低下しており、細胞毒性の発現が確認された。コンピュータを用いた化学計算によるインシリコ活性予測では、現在までにすでに指定薬物あるいは麻薬原料になっているLSD誘導体から2部位の置換基に着目した包括的危険予測範囲の検証に利用するためのマトリックスを作成した。精神活性化作用が予測される化合物ライブラリーの作製では、LSD誘導体の化学合成経路を精査し、最適化した。続いてLSD誘導体の光安定性を調べ、光によって比較的容易に分解することがわかった。また、アミン化合物であることから、酸性塩形成による安定化が有効と考え、各種の酸との塩形成を検討した結果、酒石酸塩が最適とわかった。これらの知見を基に、置換基が異なるLSD誘導体を合成し、薬理活性や細胞毒性を検討した。その結果、インドール部位の窒素の置換基の種類によって安定性が異なることがわかった。この部位の置換基は生体内で化学的、もしくは酵素的に脱離する可能性があり、LSD誘導体はプロドラッグ化されている可能性が示唆された。並行して、これらの化合物ライブラリーの微量分析にも取り組み、ラマン分光法による網羅的分析を行い、危険ドラッグ類の化合物ライブラリーデータベースに追加した。同様に、化学合成した化合物については、化合物ごとにNMR、IR、MSを測定し、データベースを作成した。
結論
本研究では、危険ドラッグであるセロトニン受容体作用薬の薬理作用の解析並びに検出用細胞としてCHO-5HT2A -GCaMP細胞を樹立した。本細胞はセロトニン受容体作用薬に関して、化学構造特性に依存しない包括的検出に応用可能である。また、覚醒剤類似のカチノン系化合物については、ヒトドパミン神経細胞による細胞毒性の検討が可能となった。コンピュータシミュレーションに関する研究では、LSD誘導体の解析準備が整い、今後、動物実験および細胞実験から得られたデータをもとに、QSAR解析を行いセロトニン受容体への活性予測を行い、包括対象とすべき置換部位について検証する予定である。危険ドラッグ関連化合物の合成及びライブラリー構築に関する研究では、50種類のフェンタニル誘導体および3種類のLSD誘導体の合成を行い、ライブラリー化した。本研究成果は、新規化学構造を有する危険ドラッグが次々に登場する状況に対応するための、総合的な薬物有害作用評価システムおよび検出システムとして、重要な役割を果たすと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2024-06-19
更新日
-

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公開日・更新日

公開日
2024-06-19
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文献番号
202324014Z