先天性大脳白質形成不全症の診断と治療に向けた研究

文献情報

文献番号
200936107A
報告書区分
総括
研究課題名
先天性大脳白質形成不全症の診断と治療に向けた研究
課題番号
H21-難治・一般-052
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
井上 健(国立精神・神経センター 神経研究所 疾病研究第二部)
研究分担者(所属機関)
  • 小坂 仁(神奈川県立こども医療センター 神経内科)
  • 黒澤健司(神奈川県立こども医療センター 遺伝科)
  • 高梨潤一(亀田総合病院 小児神経科)
  • 山本俊至(東京女子医科大国際統合医科学インスティテュート)
  • 岩城明子(九州大生体防御医学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
15,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
目的:これまで我が国では、先天性大脳白質形成不全症に関する全国調査研究は行われてこなかった。しかし、個々の研究者は、新たな遺伝子異常の発見、遺伝子診断の技術開発、遺伝型と臨床型との関連、新たな病態の解明等、質の高い研究成果を上げている。さらに、遺伝子診断の臨床への適応など臨床医療での先進的な取り組みも行っている。本研究では、そういった経緯をふまえ、これらの臨床研究者を研究班としてまとめ、先天性大脳白質形成不全症の臨床研究を大きく推進させることを目的とする。
研究方法
1. 臨床の実態の把握調査と診断の推進のための研究
A.全国調査による患者数と診断・治療の実態の把握
B.画像解析と遺伝子診断を含めた診断基準と治療指針の確立
C.遺伝子診断の整備推進と遺伝子変異と臨床表現型との関連解析
2. 治療法開発に向けた基盤整備と基礎研究の推進
A.リンパ芽球および皮膚線維芽細胞など生体試料の登録・保存
B.治療法開発へ向けた基礎研究のための基盤整備
C.国際共同研究による海外の診療および研究実態の把握
結果と考察
1. 疫学班と協力し、日本小児神経学学会専門医所属施設を中心に918施設に郵送によるアンケート調査を行った。一次調査による患者数と診断の把握では、約7割の回収率で、91施設から約150症例を確認した。
2. 先天性大脳白質形成不全症10疾患について、診断基準と治療の指針の作成を行った。さらに、最も患者数の多いPMDの遺伝カウンセリングに関するガイドラインを作成した。
3. 患者家族やケア・養護関係者を対象に、市民公開セミナーを行なった。
4. 主要な疾患遺伝子変異を検索する体制を確立した。5疾患遺伝子解析プロトコールを確立し、自験例を中心に解析を行った。
5.リンパ芽球は自験5例を確立した。また、2例の線維芽細胞を確立し、共同研究者とiPS細胞の作成を開始した。
6. 2系統のPMDモデルマウスを入手・維持し、治療薬効果判定のため行動解析や組織病理などの実験系を確立し、候補治療薬1つを見いだした。オリゴデンドロサイトの初代培養系を確立し、試験管内での病態解明や分子薬理基盤の解明を可能にした。
7.欧米の研究者との共同研究を推進し、ケアに関する情報交換をした。
結論
疫学調査による先天性大脳白質形成不全症の実態の把握、診断基準と治療指針の確立、患者との双方向的情報交換ネットワークの確立、遺伝子診断の推進、治療研究のための基盤整備、国外の研究者との情報交換等の実績を上げ、本疾患の医療を推進することができた。

公開日・更新日

公開日
2010-05-12
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936107C

成果

専門的・学術的観点からの成果
動物や培養細胞での疾患モデル解析は、病態解明と治療法開発のために必須である。我々はPMD動物モデルであるMSDマウスとPLP1-Tgマウスを維持・解析し、これにオリゴデンドロサイト初代培養などを併用し、候補薬スクリーニング、治療効果の評価を行なった。また、動物用MRIを用いた脳画像解析、さらに分子治療法の開発など、多面的に病態解明と治療法開発に向けた基礎研究に取り組んだ。その中で、食品化合物であるクルクミンの効果について検証し、その成果を米国人類遺伝学会や日本小児神経学会などで報告した。
臨床的観点からの成果
臨床的観点からの成果
先天性大脳白質形成不全症には、疾患概念や原因遺伝子が未確定の同類疾患が複数存在すると思われる。我々は、系統的な遺伝子診断システムを構築し、既知遺伝子の変異と表現型の関連を明らかにする体制を整備し、自験例を中心に解析を開始した。すでに、PLP1以外の遺伝子変異を同定し、このうちの一部は論文報告した(in press)。これらの解析により、既知遺伝子を除外された症例については、今後、ゲノム解析を進めることにより、新規疾患原因遺伝子が発見されることが期待される。
ガイドライン等の開発
先天性大脳白質形成不全症に関する画像、臨床、遺伝子診断、遺伝カウンセリングの各専門家からなる班員により、先天性大脳白質形成不全症に関する本邦初の疾患分類と診断基準、治療指針を作成した。また、最も患者数の多いPMDの遺伝カウンセリングに関するガイドラインを作成した。これらのガイドラインは、適切な診断・治療・カウンセリングのための情報を提供し、希少疾患の医療現場での認知の向上に寄与すると思われる。
その他行政的観点からの成果
先天性大脳白質形成不全症の患者数や医療の実態の把握を行なうために、疫学班と協力し、本疾患に関する本邦初の全国疫学調査をおこなった。日本小児神経学学会専門医所属施設を中心に918施設を対象にした一次調査では、約7割の回収率で、91施設から約150症例を確認した。患者数や診断・治療の現状に関する疫学的な知見は、厚生労働行政の基礎資料として重要である。現在行なっている二次調査により、本邦の患者数、障害の程度や臨床経過、検査所見と診断、治療の実態を詳細に把握することができると思われる。
その他のインパクト
先天性大脳白質形成不全症の患者は、稀少疾患であり、また患者会などの患者間ネットワークがないため、社会の中で孤立してしまうことがあった。そこで、本研究班の主催で、患者家族やケア・養護関係者を対象に、先天性大脳白質形成不全症に関する市民公開セミナーを行なった。予想を大きく上回る30家族を含む90名の参加があり、医師・研究者と患者やそのケアスタッフの間のみならず、患者間の交流も生まれた。これを機に、患者会の設立に向けた準備も始まった。この公開セミナーは、年1度の頻度で開催を継続していく予定である。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
27件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
15件
学会発表(国際学会等)
9件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
平成21年7月18日 第1回先天性大脳白質形成不全症 市民公開セミナー 神奈川県立こども医療センター

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-