法規制薬物の分析と鑑別等の手法開発に向けた研究

文献情報

文献番号
202324010A
報告書区分
総括
研究課題名
法規制薬物の分析と鑑別等の手法開発に向けた研究
課題番号
22KC1004
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
田中 理恵(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部)
研究分担者(所属機関)
  • 花尻 瑠理(木倉 瑠理)(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部)
  • 三澤 隆史(国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
5,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は,麻薬・向精神薬取締法,覚せい剤取締法,大麻取締法及びあへん法などで厳しく規制される薬物及び植物の効果的な鑑別法を薬物取締行政に提示するために実施する.令和6年3月時点で,医薬品医療機器等法下,指定薬物として規制されている薬物は2442種類となった.また,指定薬物から麻薬に規制強化された薬物は79種類にも及ぶ.これら薬物は,所持・使用が禁止されているが,構造類似体が多く存在し,また,ほとんどの薬物において代謝物情報が未知であるため,特に,生体試料中薬物の鑑別は困難を極めている.そこで,この研究では,主に生体試料中規制薬物及び代謝物の迅速で高感度,かつ選択性の高い鑑別法開発に焦点をあて,新規に開発された質量分析装置等を用いた検討を行う.また乱用される植物について,成分分析及び遺伝子分析による鑑別法の開発を行う.以上,本研究は,法規制薬物及び植物について効果的な鑑別を行うための手法を確立することを目的としている.
研究方法
Δ9-及びΔ8-THC,またはそれらの3位にC5を除くC3からC8までの直鎖状アルキル鎖を有し,指定薬物として包括規制された構造類似10化合物の計12化合物について,GC-QTOF MS及びLC-QTOF MSを用いた一斉分析法を検討した.大麻尿試験においてGC注入口で誘導体化するIPD-TMS誘導体化法の検討を行った.Δ9-THC-COOH,Δ8-THC-COOH及びCBD代謝物である7-COOH-CBD対象物質としスプリットレス注入法を用いたIPD-TMS誘導体化について検証した.インターネット上等で流通するTHCアナログの含有を標榜する製品の流通実態調査を行い,THCのアルキル側鎖の長さが異なる化合物を製品より単離精製した.またHHCPOの含有を標榜する製品の分析をおこなった.天然由来カンナビノイドの含有を標榜するオイル状製品について,GC-MS,LC-MS分析,NMR分析を行った.THC類縁体のΔ8-THCH/Δ9-THCHおよびΔ8-THCPを効率的かつ高純度に合成できるルートの検討を行い, 高純度標準品の確保を目指した.
結果と考察
法規制薬物の鑑別に関する研究では,Δ9-及びΔ8-THCの構造類似10化合物の計12化合物の一斉分析法を検討した結果,GCではHP-5MSカラム,LCではCortecs C18カラムを用いて,対象12化合物を明確に分離することが可能であった.GC-QTOF MSのEIマススペクトルでは,異性体であるΔ9-及びΔ8-体が明確に識別可能であったが,LC-QTOF MSのESIマススペクトル及びプロトン付加分子イオンをプレカーサーとしたプロダクトイオンでは,識別することが困難であった.LC-MSは各構造類似体のΔ9-及びΔ8-体は,保持時間が近く,マススペクトルでの識別が困難であることから,標準品を用いたピークの確認,またGC-MS等での確認が必要と考えられた.大麻尿試験においてGC注入口で誘導体化するIPD-TMS誘導体化法の検討した結果,GC注入口温度250℃,スプリットベント時間1.5分,試料溶媒としてアセトニトリルを用いることが最適な条件であった.実試料を想定した添加回収試験でスプリットレス注入法を用いたIPD-TMS誘導体化も大麻尿試験に有効であることが示された.THCjdの含有を標榜する製品からΔ8-THCまたはΔ9-THCの3位のアルキル側鎖がC8のオクチル基であるΔ8-THCjdとΔ9-THCjdを同定した.HHCPOの含有を標榜する製品から,HHCより3位のアルキル側鎖が二つ長いヘプチル基のHHCPの1位水酸基がアセチル化された化合物である9(R)-HHCPOと9(S)-HHCPOを同定した.2種類の天然由来カンナビノイドの含有を標榜するオイル状製品からCBT,CBCを同定した.Δ8-THCHおよびΔ8-THCPの合成で異性体であるΔ9体が副生したが,精製したフラクションごとに純度を確認することで異性体の除去が可能であることが明らかになった.また,原料由来の不純物からΔ8-THCが生成し,THCHおよびTHCPの有害性を正しく評価できない可能性が示唆された.HPLC精製を行うことでΔ8-THCを除去することが可能であることを示し,Δ8-THCHおよびΔ8-THCPを高純度に合成できた.Δ9-THCHの合成においてΔ8-iso-THCHを生成しない合成経路としてCBD誘導体のCBDHを合成し分子内環化反応を行うことでΔ9-THCHを高純度に合成することに成功した.得られた各THC類縁体を標品として提供した.
結論
本研究は,厚生労働省の薬物取締行政に直接貢献する研究であり,国の乱用薬物対策に即したものである.また今後出現しうる新規の乱用薬物の鑑別についても有用であると考えられる.

公開日・更新日

公開日
2024-06-19
更新日
-

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収支報告書

文献番号
202324010Z