文献情報
文献番号
202324002A
報告書区分
総括
研究課題名
危険ドラッグ等の乱用薬物の迅速識別に関する分析情報の収集及び危害影響予測のための研究
課題番号
21KC1002
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
花尻 瑠理(木倉 瑠理)(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部)
研究分担者(所属機関)
- 田中 理恵(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部)
- 出水 庸介(国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部)
- 諫田 泰成(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
- 石井 祐次(九州大学 大学院薬学研究院)
- 森 友久(星薬科大学 薬品毒性学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
5,187,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
指定薬物制度に対応し,具体的な化合物や植物を指定薬物として指定する際に考えられる問題点を科学的に解決し,規制化に必要な評価手法及び科学的データを監視指導・麻薬行政に提供することを目的とする.
研究方法
新規流通危険ドラッグについて,国連等の国際公的機関が発信する海外薬物情報を広く収集するとともに,問題となりうる製品を入手し,新規流通化合物の構造決定及び分析用標品の準備,各種分析データの整備,識別法等を検討した.一方,危険ドラッグの中枢神経系への影響を検討するために,in vitro及びin vivoの新規評価法を検討した.また,危険ドラッグのマウス脳メタボロームに及ぼす影響を解析した.さらに,危険ドラッグ市場に流通する植物製品のDNA分析による基原種同定及び活性成分分析を行った.
結果と考察
令和5年度に入手した危険ドラッグ製品から,新規流通7化合物を検出・同定した.その他,シート状製品から,新規LSD類縁体1T-LSD(1D-LSDと表示して販売)を単離・同定した.オイル状製品から,大麻活性成分∆9-THCの還元体HHCとアルキル基の長さが異なるHHCHジアステレオマー,HHCB,合成副生成物を検出・同定し,合成経路を推測した.Δ9-及びΔ8-THC,HHCのアルキル基の長さがC3からC8までの化合物と,それらの1位水酸基のアセチル化体,CBD,CBNとCBN-O-acetateを加えた計25化合物について,GC-QTOF MS及びLC-QTOF MSを用いた分離分析法を確立し,流通製品の分析に適用した.危険ドラッグ製品からの検出も散見されるPDE-5阻害活性を有するED治療薬類似体のジアステレオマーについて,SFC-QTOFMSによる分離識別法を検討するとともに,キラルカラムを用いてエナンチオマーの識別法を検討し,製品中から検出される化合物の異性体含有比を検討した.HHCとアルキル基の長さが異なるHHCHのジアステレオ異性体(2023年12月指定薬物個別規制),及びHHCPのジアステレオ異性体(2024年1月指定薬物包括規制)を新たに合成し,分析用標品として確保した.
一方,危険ドラッグの中枢作用を科学的に評価することを目的として,新規活性評価法を検討した.ヒトiPS細胞由来神経細胞を用いて,多点電極アレイ(MEA)システムによる危険ドラッグの新たな薬理評価法を検討した.メトキセタミン等解離性幻覚薬3化合物をヒトiPS細胞由来神経細胞に添加し,投薬前後のスパイクデータに基づいてスパイクの頻度を示すMFR,バーストの頻度を示すBurst frequencyの変化率を算出した結果,神経活動低下と神経毒性に相関性があった.また,これまで評価した15化合物について10パラメーターに対する影響と既知の神経作用を照合した結果, MFRとBurst frequencyの上昇・減少が各々神経興奮作用・神経抑制作用のメカニズムと対応しており,MEAシステム法のパラメーターにもとづいて,危険ドラッグを作用点別に分類できる可能性が示唆された.合成カンナビノイドCUMYL-PeGACLONE及び5F-CUMYL-PeGACLONEについて,マウス行動への影響を検討した結果,CB1受容体活性化だけでなく,異なる経路で薬理効果を発現し得る可能性を示した.また,両化合物は脳由来神経栄養因子レベルを変化させることによって認知機能を阻害することが示唆された.合成カンナビノイドの作用は種類,用量,使用タイミングに依存し,重篤かつ長時間の行動障害を引き起こす可能性があるため,時間枠的アプローチが重要であることを示した.メトカチノンの誘導体についてマウスの多次元的行動薬理学評価を行った結果,フェニル基の4位へハロゲン等が置換された薬物は,精神刺激薬様の弁別刺激効果あるいは自発運動行進作用の少なくともどちらかが認められ,危険ドラッグに対する乱用の予測において,自発運動促進効果あるいは精神刺激薬様の弁別刺激効果のみでの評価は必ずしも十分ではないことが再確認された.
植物系危険ドラッグ7製品のDNA分析を行った結果,DMT検出4製品からDMT含有植物Acacia confusaまたはMimosa tenuifloraのDNAが検出された.その他,LSAを含有する植物種Ipomoea nervosaのDNAが1製品で検出された.
一方,危険ドラッグの中枢作用を科学的に評価することを目的として,新規活性評価法を検討した.ヒトiPS細胞由来神経細胞を用いて,多点電極アレイ(MEA)システムによる危険ドラッグの新たな薬理評価法を検討した.メトキセタミン等解離性幻覚薬3化合物をヒトiPS細胞由来神経細胞に添加し,投薬前後のスパイクデータに基づいてスパイクの頻度を示すMFR,バーストの頻度を示すBurst frequencyの変化率を算出した結果,神経活動低下と神経毒性に相関性があった.また,これまで評価した15化合物について10パラメーターに対する影響と既知の神経作用を照合した結果, MFRとBurst frequencyの上昇・減少が各々神経興奮作用・神経抑制作用のメカニズムと対応しており,MEAシステム法のパラメーターにもとづいて,危険ドラッグを作用点別に分類できる可能性が示唆された.合成カンナビノイドCUMYL-PeGACLONE及び5F-CUMYL-PeGACLONEについて,マウス行動への影響を検討した結果,CB1受容体活性化だけでなく,異なる経路で薬理効果を発現し得る可能性を示した.また,両化合物は脳由来神経栄養因子レベルを変化させることによって認知機能を阻害することが示唆された.合成カンナビノイドの作用は種類,用量,使用タイミングに依存し,重篤かつ長時間の行動障害を引き起こす可能性があるため,時間枠的アプローチが重要であることを示した.メトカチノンの誘導体についてマウスの多次元的行動薬理学評価を行った結果,フェニル基の4位へハロゲン等が置換された薬物は,精神刺激薬様の弁別刺激効果あるいは自発運動行進作用の少なくともどちらかが認められ,危険ドラッグに対する乱用の予測において,自発運動促進効果あるいは精神刺激薬様の弁別刺激効果のみでの評価は必ずしも十分ではないことが再確認された.
植物系危険ドラッグ7製品のDNA分析を行った結果,DMT検出4製品からDMT含有植物Acacia confusaまたはMimosa tenuifloraのDNAが検出された.その他,LSAを含有する植物種Ipomoea nervosaのDNAが1製品で検出された.
結論
指定薬物総数は令和6年5月末時点で2458となった.本研究成果の一部は,令和5年度に8回実施された指定薬物指定の根拠資料の一部として用いられた.また,分析データは監視指導・麻薬対策課長通知として発出されるとともに,国立衛研違法ドラッグ閲覧システムに登録され公開された.本研究結果は危険ドラッグの規制化に有用な情報を提供し,国の監視指導行政に直接貢献するものである.
公開日・更新日
公開日
2024-06-19
更新日
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