トランス脂肪酸の新規毒性分子基盤に基づく食品の毒性リスクの検討

文献情報

文献番号
202323055A
報告書区分
総括
研究課題名
トランス脂肪酸の新規毒性分子基盤に基づく食品の毒性リスクの検討
研究課題名(英字)
-
課題番号
23KA3004
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
平田 祐介(東北大学 大学院薬学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 目代 恵美子(佐藤 恵美子)(東北大学 薬学部)
  • 伊藤 隼哉(東北大学 大学院農学研究科 食品機能分析学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
2,056,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
トランス脂肪酸は、循環器系疾患との疫学的関連が報告されている。食品安全委員会は健康影響を評価しした結果、日本人の平均的な摂取量は総摂取エネルギーの約0.3%で、WHOの目標値(1%)未満であったことから、日本人の通常の食生活では健康への影響は小さいとしている。一方、脂質に偏った食事をしている人に対しては留意が必要とし、厚生労働省は栄養バランスのよい食事を心がけるようウェブサイト上に注意喚起を行っている。トランス脂肪酸に関して、疫学的知見は多い一方、分子・細胞レベルでの解析例に乏しく、詳細な疾患発症機序については長らく不明であった。最近代表者らは、トランス脂肪酸が、細胞外ATP(自己由来の起炎性因子)やDNA損傷で誘導される細胞死・炎症を促進する、強力な”病態増悪因子”として作用することを新たに発見し、その作用機構を分子レベルで解明した。この独自に確立した毒性の作用機構・評価系を基に、ウシなどの反芻動物で産生される「天然型」ではなく工業的な食品製造過程で産生される「人工型」のみが強力な毒性を有することをすでに明らかにしている。また、トランス脂肪酸の有害影響が、一部のシス型脂肪酸(DHA・EPAなど)や抗酸化物質(アンチオキシダント)によって著しく軽減される一方、酸化促進物質(プロオキシダント)は毒性を増強するなど、食事中に共存する物質の含有量が毒性に大きく影響することも発見している。こで本研究では、代表者らの試験系で、実際に疫学で有害影響が観察されている量から日本人が摂取している量の範囲で、各種脂肪酸摂取の影響がどう反映されるかを確認することで、試験系の妥当性や解釈方法を検討することとした。その上で、各種脂肪酸やアンチ/プロオキシダント等の組み合わせの影響を検討することで、日本人の実際の食生活の文脈におけるトランス脂肪酸の影響、リスク評価に関する科学的根拠の提供を目指した。
研究方法
本年度はまず、「1)トランス脂肪酸の標的部位・臓器における存在量の把握」として、マウスにヒト血中濃度(10 µM程度)と同程度になるように代表的な「人工型」であるエライジン酸を一定期間摂取させた上で、標的部位・臓器である血管・脳・肝臓などにおける存在量をGC-MS/MSによって経時的に測定し、以降の細胞レベルの実験で使用する適切な処置時間域を算定した。この結果を元に、「2)広範なトランス脂肪酸種・細胞種を対象とした影響調査」を行い、食品中に含まれる代表的な5種類のトランス脂肪酸として、人工型2種類(エライジン酸、リノエライジン酸)、天然型3種類(トランスバクセン酸、ルーメン酸、パルミトエライジン酸)を選定し、毒性影響の調査を行った。さらに、「3)毒性発現に影響する脂肪酸、アンチ/プロオキシダントの網羅的探索・同定」として、食品中に含まれる様々な脂肪酸やアンチ/プロオキシダントのトランス脂肪酸毒性への影響を調査した。
結果と考察
1)で測定した各標的臓器におけるエライジン酸の蓄積量を元に、細胞実験でのトランス脂肪酸処置濃度を決定した。2)の解析の結果、人工型2種類では著明な毒性影響が認められた一方、天然型3種類には、そのような影響は全く認められなかった。3)の解析の結果、DHA・EPAなどの高度不飽和脂肪酸、エライジン酸の幾何異性体にあたるオレイン酸などのシス型脂肪酸による毒性軽減作用と、その作用機構が明らかになった。一方、アンチ/プロオキシダントについては、食品中に含まれる約30個の化合物を評価対象として選定し、トランス脂肪酸毒性への影響を調査したが、選定した30化合物の中に、毒性に顕著な影響を与える化合物は存在しなかった。
結論
1)2)については、研究計画通り実施・完了した。1)については、ヒト臓器中のエライジン酸の存在量を推定する上で参考となる重要な基礎データが得られた。次年度は、エライジン酸以外のトランス脂肪酸についても同様の評価を行い、組織分布を比較検討する予定である。2)については、人工型トランス脂肪酸特異的な毒性影響が確認できたことで、さまざまな病態との関連が示唆されてきた人工型トランス脂肪酸の疫学的知見を支持する重要な知見になったとともに、天然型トランス脂肪酸については、人工型ほど過度にリスクを見積もる必要がないことを示唆する結果となった。次年度は、ヒト血管細胞を用いた毒性検討も行い、人工型トランス脂肪酸の毒性影響や作用機構についても調査をする予定である。3)について、シス型脂肪酸をトランス脂肪酸と同時に摂取することで、トランス脂肪酸毒性の軽減に効果的であることを示唆する結果が得られた。毒性に影響を及ぼす食品中アンチ/プロオキシダントについては、検討対象化合物を拡大して現在も探索を継続中で、次年度には具体的な毒性軽減・増悪に関わる化合物の同定を目指す。

公開日・更新日

公開日
2024-12-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-12-26
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202323055Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,672,000円
(2)補助金確定額
2,672,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,049,237円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 6,763円
間接経費 616,000円
合計 2,672,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2025-04-08
更新日
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