文献情報
文献番号
202323053A
報告書区分
総括
研究課題名
NMRに基づく化学物質のデジタル化とその利活用に関する研究
研究課題名（英字）
-
課題番号
23KA3002
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
西崎 雄三(国立医薬品食品衛生研究所 食品添加物部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
2,521,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書（概要版）
研究目的
HifSA（1H Iterative functionalized Spin Analysis）は、NMR反復計算ソフトを活用して、1H-NMRデータから化学物質の化学シフトとスピン‐スピン結合定数から成る1Hスピン情報を精密に決定する手法である。最近では、NMR Solutions Ltd.が開発したCosmic Truth（CT）など、NMR反復計算ソフトが容易に利用できるようになった。米国薬局方（USP）では、NMR反復計算ソフトから得た1Hスピン情報を活かし、磁場の大きさに依存しない参照NMRスペクトルを作成し、これを抗ウイルス薬Remdesivirの確認試験に応用している。
また、定性分析に加えて、1Hスピン情報を基準にした線形フィッティングを用いた定量分析も期待されている。1Hスピン情報が既知であれば、NMR装置の磁場の大きさに依存せず、60MHz、400MHz、800MHzなどの磁場の大きさにかかわらず一斉定量が理論的に可能となる。本研究課題では、HifSAを日本で発展させる基盤を築くことを目指す。具体的には、デジタルな1Hスピン情報を基にした定性・定量分析法の実例を積み重ね、HifSAの普及啓発を進める。さらに、1Hスピン情報を活用した化学物質の確認試験や定量試験を公的分析法へ実装することを積極的に進める。
また、定性分析に加えて、1Hスピン情報を基準にした線形フィッティングを用いた定量分析も期待されている。1Hスピン情報が既知であれば、NMR装置の磁場の大きさに依存せず、60MHz、400MHz、800MHzなどの磁場の大きさにかかわらず一斉定量が理論的に可能となる。本研究課題では、HifSAを日本で発展させる基盤を築くことを目指す。具体的には、デジタルな1Hスピン情報を基にした定性・定量分析法の実例を積み重ね、HifSAの普及啓発を進める。さらに、1Hスピン情報を活用した化学物質の確認試験や定量試験を公的分析法へ実装することを積極的に進める。
研究方法
NMRスペクトル上で2種の立体異性体混合物として観測される農薬ジフェノコナゾール（DFZ）をモデル化合物としてHifSAの検討を行う。NMR反復計算ソフトを用いて、(2RS, 4RS)-DFZと(2RS, 4SR)-DFZの1Hスピン情報を明らかにする。1Hスピン情報は、磁場の大きさに依存しない物質固有の情報である。800 MHz、600 MHz、400 MHzさらに小型NMR（80 MHz）の3台のNMR装置から得た実測のNMRスペクトルを、磁場の大きさに応じてシミュレーションしたスペクトルと比較し、1Hフルスピン情報の保存性を明らかにする。さらに、1Hスピン情報を基準にして、(2RS, 4RS)-DFZと(2RS, 4SR)-DFZの分離定量を行い、異性体比を算出する。得られた結果を、別にキラルクロマトグラフィーで算出した異性体比と比較し、1Hスピン情報を基準にした定量法の精度を評価する。
結果と考察
(2RS, 4RS)-DFZと(2RS, 4SR)-DFZの1Hスピン情報を明らかにした。これらの1Hスピン情報が異なる磁場においても不変であることを確認することとした。1Hスピン情報から80、400、600、800 MHzの参照NMRスペクトルを作成し、それぞれの磁場での実測スペクトルと照合した結果、全ての磁場で参照スペクトルと実測スペクトルが一致した。このことから、1Hスピン情報は磁場の大きさによらない情報であることが確認できた。
また、(2RS, 4RS)-DFZと(2RS, 4SR)-DFZの1Hスピン情報を基準にした定量分析を実施した。これらの化合物はNMRスペクトル上で重なり合うが、1Hスピン情報に基づく線形フィッティングを行うことで、両者を良好に分離定量することができた。定量分析は80、400、600、800 MHzで実施し、全ての磁場において、参照値との誤差が2%以内で、(2RS, 4RS)-DFZと(2RS, 4SR)-DFZを定量することができた。
また、(2RS, 4RS)-DFZと(2RS, 4SR)-DFZの1Hスピン情報を基準にした定量分析を実施した。これらの化合物はNMRスペクトル上で重なり合うが、1Hスピン情報に基づく線形フィッティングを行うことで、両者を良好に分離定量することができた。定量分析は80、400、600、800 MHzで実施し、全ての磁場において、参照値との誤差が2%以内で、(2RS, 4RS)-DFZと(2RS, 4SR)-DFZを定量することができた。
結論
本研究は、1Hスピン情報が該当物質の確認試験や定量試験の標準品として機能することを示した。1Hスピン情報はデジタル情報であるため、従来にはなかったデジタルリファレンススタンダード（dRS）として機能し、NMR装置があれば、既知の1Hスピン情報を基準にして、世界中で統一した試験を瞬時に実施することが可能となる。実例データを蓄積するために、DFZ以外の物質についても引き続き検討を進めていく必要がある。
公開日・更新日
公開日
2024-09-13
更新日
2024-12-05