文献情報
文献番号
202323052A
報告書区分
総括
研究課題名
水産物におけるリステリアのリスク評価及び防除に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23KA3001
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
中村 綾花(国立大学法人 東京海洋大学 食品生産科学部門)
研究分担者(所属機関)
- 高橋 肇(東京海洋大学 食品生産科学部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
1,539,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
Listeria monocytogenes (LM)は、ヒトのリステリア症の原因菌であり、主に高齢者や妊娠中の女性といった免疫不全者に対し敗血症や髄膜炎などの深刻な症状を引き起こす。LMは、0~10℃といった低温条件下でも増殖が可能であるため、食品が本菌に汚染された場合、低温管理による増殖制御は困難である。欧米諸国では、生乳やサラダ、チーズなどの非加熱喫食食品 (Ready-to-eat: RTE) 中におけるLMを原因とする集団食中毒が数多く報告されており、重要視されている。日本では独自の食文化で、明太子やいくらといった水産加工食品を生の状態で喫食する機会が多いが、RTE水産加工食品におけるLMの汚染実態に関するデータは乏しい。本研究では、RTE水産加工食品におけるLMの分布状況の調査を行い、MPN法を組み合わせることにより、定量的な汚染実態の把握を目指すこととした。
研究方法
RTE水産加工食品のうち、たらこ、明太子、いくら及びすじこ、まぐろのたたき、スモークサーモンの5品目についてLMの分布調査を行った。各品目について100検体ずつ小売店より購入し、合計で500検体のRTE水産加工食品を対象とした。サンプルは購入後、冷蔵品は4℃、冷凍品は-20℃で保存した。冷蔵品については、賞味期限または消費期限当日~3日前の範囲内で試験を行った。冷凍品については0℃で調温後、サンプル量が100 g以内になるように取り分け、4℃で5日間保存した後、定性試験を行った。全てのサンプルのpH, 水分活性を測定し、塩分濃度は栄養成分表示の食塩相当量から取得した。LMの検出標準試験法(定性法)は、通知法(NIHSJ-08)に準拠し行った。Listeria属の判定には16SrRNA遺伝子のシーケンス解析を用い、LMの判定には、β溶結性及び炭水化物分解能を用いた。LMが陽性であったサンプルについては、MPN法を用いた定量試験を行った。サンプル10 gをストマッカー袋に量り取り、緩衝リステリア増菌ブイヨンを90 mL加えた。230 rpmで30秒間のストマッカー処理を行い、均一化した。各希釈液について、10 mLを3本の空試験管、1 mL、0.1 mLを各3本の各培地10 mL加試験管に接種し、37℃で培養を行った。24時間後と48時間後にそれぞれPALCAM寒天培地に画線を行い、37℃で48時間培養後、典型コロニーの形成からMPN値を求めた。また、確認試験として、PALCAM培地上に形成されたコロニーを釣菌し、CHROMagarTM Listeriaに画線し、37℃で48時間培養後に培地上に形成されたコロニーの発色を確認した。
結果と考察
500検体を対象にLMの分布調査を行った結果、たらこ、明太子、いくら及びすじこ、まぐろのたたき、スモークサーモンにおける陽性率はそれぞれ、3.0, 4.0, 9.0, 22.0および2.0%であった。2008年に当研究室で実施されたRTE水産加工食品におけるLMの分布調査の結果では、たらこ、明太子、いくら及びすじこ、まぐろのたたき、スモークサーモンにおける陽性率はそれぞれ、10.5, 11.7, 8.2, 18.1および3.0%であった。これらの結果を比較すると、たらこ及び明太子では陽性率が減少しており、いくら及びすじこ、スモークサーモンでは同程度であった。マグロのたたきに関しては最も汚染率が高く、分布率わずかに増加していることが示された。LMが陽性であった検体についてMPN法を用いて定量試験を行ったところ、どの検体においても比較的菌数が低く、最も高いものであっても46 MPN/g程度であった。LMの発症菌数は比較的高いと報告されているが、喫食者の免疫状態により発症菌数が異なることや、特にまぐろのたたきなどは喫食量が多くなることに注意を払う必要がある。また、RTE水産加工食品は、スモークサーモンを除いて基本的には賞味期限が短いのが一般的であるが、菌数が著量に付着していた場合や、温度不備があった場合、流通・保管中にLMが増殖する可能性も考えられる。そのため、今後は、LMのRTE水産加工食品中での増殖能力についても詳細に解析を行う予定である。
結論
本研究により、RTE水産加工食品におけるLMの分布率が明らかとなった。まぐろのたたきでは分布率が22%と最も高く、スモークサーモンは2.0%と最も低かった。一方で、MPN法を用いた定量試験の結果、その付着量は0.3-46 MPN/g以下と比較的低い値であった。令和5年度の研究により、RTE水産加工食品から40株のLMが分離されており、今後は分離株を用いて性状試験、次世代シーケンサーを用いた株識別や病原性遺伝子の有無、国際的にアウトブレイクを引き起こした株との比較などを行う予定である。
公開日・更新日
公開日
2024-09-13
更新日
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