胎児・新生児障害の原因となる自己抗体陽性女性の妊娠管理指針の作成

文献情報

文献番号
200936096A
報告書区分
総括
研究課題名
胎児・新生児障害の原因となる自己抗体陽性女性の妊娠管理指針の作成
課題番号
H21-難治・一般-041
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
村島 温子(国立成育医療センター 周産期診療部母性内科)
研究分担者(所属機関)
  • 高崎 芳成(順天堂大学医学部 膠原病内科)
  • 住田 孝之(筑波大学大学院 人間総合科学研究科疾患制御医学専攻臨床免疫学)
  • 和氣 徳夫(九州大学医学部婦人科学産科学)
  • 中山 雅弘(大阪府立母子保健総合医療センター 検査科)
  • 和栗 雅子(大阪府立母子保健総合医療センター 母性内科)
  • 堀米 仁志(筑波大学大学院 人間総合科学研究科小児内科学)
  • 前野 泰樹(久留米大学医学部 小児科)
  • 林   聡(国立成育医療センター 周産期診療部胎児診療科)
  • 山岸 良匡(筑波大学大学院 人間総合科学研究科社会健康医学)
  • 山口 晃史(国立成育医療センター 周産期診療部母性内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
母体の自己抗体が胎児へ移行して引き起こす難治性の病態である新生児ループスと新生児バセドウ病の実態を明らかにし、抗SS-A抗体ならびにTSHレセプター抗体陽性女性の妊娠中の管理指針を作成する。
研究方法
抗SS-A抗体陽性妊娠症例の集積施設を明らかにするために一次調査を行った。日本リウマチ学会関連施設、日本周産期・新生児医学会研修施設宛に調査用往復ハガキを郵送した。症例集積施設を対象に行う症例調査がより効果的なものとなるように、網羅的かつ詳細な調査項目を盛り込んだ調査票を試作し、班員所属施設の自験例を対象とした症例調査を試行した。
新生児・胎児甲状腺機能異常の血清学的発症予測法の確立を目的に新生児バセドウ病母体の臨床的および血清学的特徴を検討した。胎児エコーによる甲状腺機能異常の診断方法の確立を目的として胎児エコーによる妊娠20週、30週の甲状腺周囲径を測定した。
結果と考察
新生児ループスの一次調査では、内科系、産科系を合わせて1245施設に調査票を送付、そのうち10年間で10例以上の症例を持つのは43施設であった。これらから本疾患の年間発生数はおおよそ100例と予測できた。
試作した調査票を用いて班員所属施設の自験例を対象とした症例調査を施行した。これにより今後の全国調査で使う調査票の改良につなげることができた。
新生児バセドウ病については、共同研究者である百渓らによる、甲状腺専門施設および周産期施設で経験した新生児甲状腺機能異常発症時の母体の症例解析から母体の抗TSHレセプター抗体(第一世代・コスミック3)とTSAb(ヤマサ旧法、18%PEG)法で、新生児バセドウ病の発症が予測できることがわかった。しかし、後者は現在一般的には測定できず、今後の検討を要する。
胎児エコーにおける正常甲状腺周囲径は、妊娠20週で平均34.8mm、30週の甲状腺周囲径は平均52.8mmであった。これらはヨーロッパの報告(妊娠20週で中央値25mm 、妊娠30週で中央値 40mm)に比べ大きい傾向にあった。
結論
新生児ループスならびに新生児バセドウ病は自己抗体が経胎盤的に胎児に移行して引き起こす典型的な病態である。本研究によって、症例集積施設ならびに発症推定数を明らかにすることができた。また、各分担研究者の挙げた成果をもとにして「診断基準または治療指針」を作成したが、これはこれまでの混沌とした状況からの小さな一歩である。今後は症例データベースを構築し、詳細な解析を行うことによって、発症のリスク、予防方法などについて明らかにし、包括的な妊娠管理指針の作成へと発展させることを目指すべきである。

公開日・更新日

公開日
2010-05-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936096C

成果

専門的・学術的観点からの成果
新生児ループスの原因と考えられている抗SS-A抗体陽性妊娠症例の集積施設が明らかになったことにより、効率のよい症例調査を行うことができる。また、詳細な症例調査を行うための調査票を試作し、研究者所属施設で予備調査を行い、その問題点を把握し、改正ができたことにより、今後の全国調査を有効に行うことができる。胎児超音波により新生児バセドウ病の診断を行うための甲状腺の大きさの基準値が設定でき、今後の胎児超音波による診断法の普及のきっかけをつくることができた。
臨床的観点からの成果
抗SS-A抗体陽性女性から新生児ループス(心ブロック)が発症する可能性は1%と低いにもかかわらず、重症な病態であり、抗SS-A抗体陽性妊婦の扱いをどうすべきかは長年の課題であった。従来の散在する報告から発症のリスクが推測されていたが、今回の予備調査で多くは肯定されず臨床の現場ですぐに参考にできる情報を提示できた。ごく一部の専門家を除くと新生児バセドウ病の予測は難しかったが、客観的な予測方法を提示することができ、今後の臨床に役立てることができる。
ガイドライン等の開発
本研究において各分担研究者の挙げた成果をもとにして作成した「診断基準または治療指針」は、これまでの混沌とした状況からの小さな一歩であるが大きな前進であると総括することができる。今後は、症例集積施設を重点として症例データベースを構築し、詳細な解析を行うことによって、新生児ループス(特に心ブロック)や新生児バセドウ病発症のリスク、予防方法などについて明らかにすることにより、自己抗体陽性女性の妊娠管理指針の作成につなげ、さらにはより包括的な妊娠管理指針の作成へと発展させることを目指すべきである。
その他行政的観点からの成果
母体がもつ抗SS-A抗体や抗TSHレセプター抗体などの自己抗体が胎児へ移行して引き起こされる重症な病態を関係する内科、産科、小児科が合同で研究した初めての例である。ハイリスク妊娠でありながら各科の狭間にあり、置き去りにされがちな分野に初めて光が当たったという点でも大きな成果である。今後、発症予測、発症予防、発症した際の適切な胎児管理や新生児管理につなげることで、当該症例の減少ならびに発症した場合であっても児の予後の改善が可能になると考える。
その他のインパクト
当該症例にどのような対応をしてよいのか、内科医ならびに産科医の間で診療指針の整備が待ち望まれてきた。これらの課題に答えるためには多施設共同で症例を詳細に調査する方法が有効と思われるが、今までこのような調査研究はなかった。本研究が関連各分野の専門家から期待されていることは一次調査の返答に激励の言葉がつづられていたことからもうかがわれる。国際的にも米国のグループを除き当該領域における多施設共同研究は行われておらず、特に日本の実情に合った妊娠管理指針の作成につなががるという点でこの研究の意義は大きい。

発表件数

原著論文(和文)
1件
日本医事新報
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
第54回日本リウマチ学会総会・学術集会(2010.4.22-4.25) 第62回日本産科婦人科学会学術講演会 (2010.4.23-4.25)
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
鎌倉洋樹、山岸良匡、 村島温子
抗SS-A抗体陽性女性の妊娠症例の把握
日本医事新報 ,  (4491) , 62-64  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-