食品の安全性評価の迅速化・高度化に資する造精機能障害の新規ハザード評価体系の基盤構築

文献情報

文献番号
202323039A
報告書区分
総括
研究課題名
食品の安全性評価の迅速化・高度化に資する造精機能障害の新規ハザード評価体系の基盤構築
研究課題名(英字)
-
課題番号
21KA3001
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
横田 理(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター毒性部)
研究分担者(所属機関)
  • 齊藤 洋克(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
2,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、食品安全行政面からヒトへの迅速な健康影響の予測性向上に資する実験動物を用いた新規ハザード評価体系の基盤構築を行うことを目的とした。今年度は、先行研究において我々が見出した精子形成障害モデルとしてのビタミンA過剰(VAE)マウスの精巣組織切片を活用した実験、ならびに、過去に雄性不妊作用が報告されている綿実種子に含有されるゴシポールの単回経口投与実験を新たに実施した。
研究方法
今年度は、昨年度まで解析を行っていたサンプルの中から、先行研究(Yokota et al., 2021)の過程で採取したビタミンA過剰(VAE)マウス精巣組織切片を対象として、より詳細な解析を行った。加えて、過去に雄性不妊作用が報告されている綿実種子に含有されるゴシポールを用いた予備実験を昨年度終了したため、今年度はその本実験を実施した。
結果と考察
まず、昨年度までに実施した蛍光標識PNAレクチン抗体を用いた解析により、VAE群における精子形成サイクルの異常および精細管の各ステージにおいて構成される生殖細胞系列の数に影響が認められ、従来のHE染色やPAS染色を用いた病理組織学的評価では見逃されていた精子形成障害を組織学的に明らかにすることに成功している。昨年度後半から今年度にかけて、同法に、SYCP-3およびMEIOSINの雄性生殖細胞系列マーカー抗体との二重免疫染色を行い、Control群と比較してVAE群では、精細管ステージVII, VIIIにおけるSYCP-3陽性細胞数の有意な減少を明らかにし、さらにMEIOSINの発現時期の変化による減数分裂開始過程への影響が認められたことから、VAEはPreleptotene Spermatocyte以降において精子形成を障害する可能性が示唆された。本結果と精子形成サイクルの異常との全貌は未解明であるが、本研究の遂行により精細管ステージに着目した精巣毒性評価法の有用性を示した。一方、昨年度の研究報告において実施した中間径フィラメントマーカーであるVIMENTINに着目したセルトリ細胞の機能評価において、Control群とVAE群の間で、精細管横断面の表面積に対するVIMENTIN陽性(染色)領域が占める面積比に差は認められなかった。そこで、今年度は精細管ステージに着目したVIMENTINの形態学的評価を新たに実施した。その結果、Control群においては、構成する細胞の特徴から精細管ステージを大きく3つに分けた場合に、各ステージにおけるVIMENTIN発現パターンに特徴的な周期性が認められた。しかしながら、VAE群では各精細管ステージにおけるVIMENTIN陽性領域の周期的な変化は検出されなかった。すなわち、VAE群において精子形成サイクルに依存したVIMENTIN発現パターンの異常が生じていることが示唆された。
次に、昨年度予備検討を実施したゴシポールのマウス単回経口投与(100, 300 mg/kg 体重)実験を実施し、投与後2, 7週と経時的な解剖を実施した。マウスの体重推移や生殖器の重量において、投与による影響は認められなかった。次にHE染色による精巣の組織学的解析を実施した結果、Control群と比較して投与後2週の最高用量300 mg/kg 群において異型遺残体を含む精細管の割合が有意に亢進することが明らかとなった。しかし、投与後7週経過時においては曝露によるその病理学的所見は認められなかった。異型遺残体の数の増加はセルトリ細胞の貪食能の低下に起因すると考えられ、そこでこれまでに確立したVIMENTINに対する抗体を用いたセルトリ細胞の機能評価を実施した。精細管横断面の表面積に対して、VIMENTIN陽性領域が占める面積の割合を算出した結果、ゴシポール投与2週間経過および7週間経過いずれのサンプルについても、Control群と比較して、VIMENTIN陽性領域が占める面積比に有意な差は認められなかった。続いて、精細管ステージ依存的にVIMENTINの発現パターンを詳細に解析していくと、ゴシポール投与(100, 300 mg/kg)後2週経過時においては、Control群で認められたようなセルトリ細胞でのVIMENTIN発現様式の周期性が認められなくなった。また、ゴシポール投与2週経過時で精巣毒性が認められたため、投与後7週経過時において精子性状解析(運動・形態)を実施したところ、ゴシポール投与による毒性は全く検出されなかった。
結論
本研究で開発した精子形成サイクルに着目した組織学的評価は、食品安全行政面からヒトへの迅速な健康影響の予測性向上に資する実験動物を用いた早期の雄性生殖ハザード評価として有用であることを示した。

公開日・更新日

公開日
2024-09-12
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202323039B
報告書区分
総合
研究課題名
食品の安全性評価の迅速化・高度化に資する造精機能障害の新規ハザード評価体系の基盤構築
研究課題名(英字)
-
課題番号
21KA3001
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
横田 理(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター毒性部)
研究分担者(所属機関)
  • 齊藤 洋克(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食品成分の濃縮や抽出、製剤化により、従来の食経験では安全性が担保できないことがあること、また、生理活性成分を含む食品等を過剰摂取すること、等による有害影響が危惧される。その中でも特に、ホルモン様作用を有する食品等は内分泌器官への影響が懸念されるが、生殖の有害影響はその評価特性からヒトでの把握は容易ではない。このため、食品安全行政面からヒトへの迅速な健康影響の予測性向上に資する実験動物を用いた新たな生殖ハザード評価の基盤構築が喫緊の課題となる。
研究方法
本研究では、先行研究において精子形成障害が生じることを報告しているビタミンA過剰(VAE)・欠乏(VAD)、ビタミンE欠乏(VED)マウス精巣組織切片を活用し、精巣毒性評価法の構築を行った。次に、雄性不妊作用が報告されている綿実油成分ゴシポールの単回経口投与実験を行い、本法の有用性について検証した。
結果と考察
精巣毒性評価において、蛍光標識PNAレクチン抗体を用いSpermatidのアクロソーム(先体)を高感度に可視化し精子stepを判別することにより、精細管ステージの迅速判定法を確立した(Yokota et al., Andrology., 2021)。またVAE過剰マウス精巣切片に対し、同法に、PLZF、SYCP-3およびMEIOSINの雄性生殖細胞系列マーカー抗体との二重免疫染色を行い、Control群とVAE群との間に、PLZF陽性細胞(Spermatogonia)数の変化は認められなかったのに対し、VAE群精巣におけるSYCP-3陽性細胞(Spermatocyte)数はControl群のそれと比較して有意な減少が認められた。さらに、VAE群ではcontrol群と異なり、MEIOSINの発現時期の変化による減数分裂開始過程への影響が認められたことからVAE過剰はPreleptotene Spermatocyte以降の精子形成過程を障害する可能性が示唆された。
一方で、中間径フィラメントマーカーであるVIMENTINに着目したセルトリ細胞の機能評価において、Control群とVAD群またはVED群との間に精細管横断面の表面積に対するVIMENTIN陽性(染色)領域が占める面積比の明確な変化が見出された(Saito and Yokota et al., Acta histochemica., 2023)。しかし、Control群とVAE群の間においては当該差は認められなかった。次に、精細管ステージに着目した解析を実施したところ、Control群においては、構成する細胞の特徴から精細管ステージを大きく3つに分けた場合に、各ステージにおけるVIMENTIN発現パターンに特徴的な周期性が存在することを見出した。一方で、VAE群ではその周期的な発現変化が検出されなかった。すなわち、VAE群において精子形成サイクルに依存したVIMENTIN発現パターンの異常が生じていることを明らかにした。
次に、ゴシポールのマウス単回経口投与(100, 300 mg/kg 体重)実験を行い、投与後2, 7週経過時に解剖を実施した。HE染色による精巣の組織学的解析を実施した結果、Control群と比較して投与後2週の最高用量300 mg/kg 群において異型遺残体を含む精細管の割合が有意に亢進することが明らかとなった。異型遺残体の数増加はセルトリ細胞の貪食能の低下に起因すると考えられ、そこでVAE過剰モデル等で確立したVIMENTINに対する抗体を用いたセルトリ細胞の機能評価を実施した。精細管横断面の表面積に対して、VIMENTIN陽性領域が占める面積の割合を算出した結果、ゴシポール投与後2週経過時および7週経過時いずれのサンプルについても、Control群と比較して、VIMENTIN陽性領域が占める面積比に有意な差は認められなかった。続いて、精細管ステージ依存的にVIMENTINの発現パターンを詳細に解析していくと、ゴシポール投与(100, 300 mg/kg)後2週経過時においては、Control群で認められたようなセルトリ細胞でのVIMENTIN発現様式の周期性が認められなくなった。また、ゴシポール投与後2週経過時で精巣毒性が認められたため、投与後7週経過時において精子性状解析(運動・形態)を実施したところ、ゴシポール投与による毒性は全く検出されなかった。
結論
以上、本研究で開発した精細管ステージに着目した組織学的解析は、早期の雄性生殖ハザード評価として有用であることを示した。本研究成果は、将来的には、食品安全行政面からヒトへの迅速な健康影響の予測性向上に資するものと考えている。

公開日・更新日

公開日
2024-09-12
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202323039C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では、PAS試薬の代替品であるPNAレクチンを用いたマウス精細管ステージの迅速判別法の開発と細胞骨格に着目したセルトリ細胞の機能評価の開発を行った。本研究で開発したこれら新規ハザード評価法は、従来の病理組織学的解析では見逃されていた精子形成サイクル依存的な変化を鋭敏に捉えることにより、早期の雄性生殖ハザードの検出を可能とした。本研究成果は、食品健康影響としての不妊に対する予防策構築に資する基盤データを提供するものと期待される。
臨床的観点からの成果
疫学調査により、生理活性成分の濃縮や抽出、製剤化により、従来の食経験では安全性が担保できない食品成分等の過剰摂取と不妊との関連が一部示唆されている。しかし、ヒトにおけるこれらの因果関係には不明瞭な点も多く残されている。本研究で開発した手法は、早期雄性生殖ハザードの検出法を提案するもので、こうした食品の有害事象の予測に役立つものと考える。さらに、本手法による食品安全性に関する詳細な生殖毒性メカニズムが明らかとなり、より介入的な臨床アプローチへの貢献も見込まれる。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
本手法は、ヒトでは評価困難な早期の雄性生殖ハザード検出を可能とするものであり、本評価系の開発を通し、未だ不妊との関連に決定的なエビデンスがない食品のヒト健康影響評価の迅速化・高度化への活用に寄与することが期待される。
その他のインパクト
本研究成果について、日本薬学会関東支部奨励賞の受賞へと繋がり、ファルマシアに受賞総説の依頼を受け、執筆を終えたところである。本研究成果は、広く薬学研究者(関係者)に周知され、食品衛生学の研究者とも議論を深める場となれば幸いである。その他、食品衛生学会や日本先天異常学会などでも本成果に関する発表を行い、日本先天異常学会では優秀演題賞の受賞にもつながり、食品行政における生殖毒性評価の重要性について非常にインパクトの高い発信を行った。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
9件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
18件
学会発表(国内学会)
32件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
日本薬学会関東支部奨励賞受賞講演、ならびに、大学での食品衛生学関連の講義において本研究成果の一部を紹介した

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Saito H, Yokota S*, Kitajima S
Immunohistochemical analysis of the vimentin filaments in Sertoli cells is a powerful tool for the prediction of spermatogenic dysfunction.
Acta Histochemica. , 125 (5) , 152046-152046  (2023)
https://doi.org/10.1016/j.acthis.2023.152046

公開日・更新日

公開日
2025-06-06
更新日
-

収支報告書

文献番号
202323039Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,400,000円
(2)補助金確定額
2,400,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 663,951円
人件費・謝金 0円
旅費 622,616円
その他 1,113,433円
間接経費 0円
合計 2,400,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2025-09-04
更新日
-