食品を介したダイオキシン類等の人体への影響の把握とその治療法の開発等に関する研究

文献情報

文献番号
202323036A
報告書区分
総括
研究課題名
食品を介したダイオキシン類等の人体への影響の把握とその治療法の開発等に関する研究
課題番号
21KA2003
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
辻 学(九州大学病院 油症ダイオキシン研究診療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 中原 剛士(九州大学大学院 医学研究院 )
  • 冬野 洋子(九州大学大学院 医学研究院 )
  • 山村 和彦(九州大学病院)
  • 香月 進(福岡県保健環境研究所)
  • 小野塚 大介(大阪大学)
  • 申 敏哲(シン ミンチョル)(熊本保健科学大学 保健科学部 リハビリテーション学科)
  • 園田 康平(九州大学大学院 医学研究院 )
  • 藤原 稔史(九州大学 整形外科)
  • 鳥巣 剛弘(九州大学 医学部)
  • 太田 千穂(中村学園大学 栄養科学部)
  • 加藤 聖子(九州大学大学院医学研究院 生殖病態生理学)
  • 辻 博(北九州若杉病院 西日本総合医学研究所)
  • 岡本 勇(九州大学病院呼吸器科)
  • 緒方 英紀(九州大学病院 脳神経内科)
  • 石井 祐次(九州大学 大学院薬学研究院)
  • 室田 浩之(国立大学法人 長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 上松 聖典(長崎大学病院 眼科)
  • 川崎 五郎(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科展開医療科学講座口腔腫瘍治療学分野)
  • 戸高 尊(公益財団法人北九州生活科学センター 生体ダイオキシン類分析室)
  • 前田 英史(九州大学大学院歯学研究院)
  • 友清 淳(北海道大学)
  • 貝沼 茂三郎(富山大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
193,959,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
PCB類・ダイオキシン類の生体への影響、生体内動態を把握し、ダイオキシン類の毒性を緩和する治療法・対処法を見いだす。
研究方法
油症検診DBの集積:健康実態調査、検診の実施、検診結果を集積した患者DBの更新。患者の血中のPCDF類の実態調査。死因調査として、油症患者の55年間の追跡調査の結果を解析。油症患者、2世3世に健康調査を実施、年次的な推移を検討。血液検査結果は他覚的統計手法などを用いて統計学的に解析、経年変化の傾向について調査。基礎的研究では、油症患者における臓器障害、機能障害を細胞や動物を用いた実験で検証、ダイオキシンの毒性や細胞におけるAH Rの役割を明らかにする。PCBやダイオキシン類の慢性毒性の機序の解明、ダイオキシン類の毒性を緩和しうる薬剤の探索。
結果と考察
1.漢方セミナーの動画を油症ダイオキシン研究診療センターのHPに令和4年3月16日に公開。
2.油症認定患者の生存情報および死亡情報をアップデートし、死亡リスクの再評価を目的として、油症認定患者を対象とした55年間の追跡調査を実施。
3.2022年度に実施された油症検診受診者の傾向把握のため、検診票を収集し集計。検診受診者数は570人(認定及び同居家族認定337人、未認定233人)だった。
4.2022年度に測定を行った認定患者221名と未認定者215名について集計を行った。認定患者の2,3,4,7,8-PeCDF濃度は平均42 pg/g-fat 、未認定者は平均5.3 pg/g-fatであった。
5.令和5年度油症患者の眼症状の発生及びその経過を調査。受診者の高齢化で、臨床所見は徐々に軽くなっている。
6.R5年度の長崎県油症検診において歯科検診受診患者を対象に口腔粘膜疾患の発生に関する検討を行ったが、油症と口腔粘膜疾患の発生との相関性は認められなかった。
7.カネミ油症発生後に油症患者より出生した児(油症2世)の卵巣機能と油症曝露との関連について追加検討。
基礎的研究
1.気道上皮細胞におけるSIRPα経路の活性化はムチン過剰分泌を抑制するため、油症気道傷害の新たな治療戦略となる可能性が示唆された。
2.246型PCBの1つである2,3,4,2',4',6'-hexachlorobiphenyl (PCB140)につき、ラット、モルモット及びヒト肝ミクロゾーム(Ms)による代謝を調べた。
3.皮膚の慢性炎症に関与するエンドセリン-1 (ET-1)刺激により、ヒトメラノサイトにおけるメラニン関連因子の発現増加がみられたが、AHRリガンドはその発現増加を抑制しなかった。
4.AHR欠損により精巣に認められた重量低下とその関連因子の変動は精巣特異的作用である可能性が示唆された。
5.ベンゾピレンがしびれ等の神経障害を引き起こした可能性があり、TNDはそれを回復させる可能性が考えられた。
6.ヒト歯根膜細胞において、AhRシグナルの活性化によりMMP12遺伝子発現量に加え、タンパク合成量及び分泌量が上昇することが明らかとなった。
7.AhRシグナルの活性化によるTenascin-Cの発現抑制はヒト歯根膜細胞のコラーゲン形成能を抑制することがわかった。
8.ポリアミン類の中でもスペルミジンは抗酸化作用があることが知られており、スペルミジンによる細胞保護効果は油症などの酸化ストレスに防御的に働くことが示された。
9.AhRは骨代謝を制御する破骨細胞と骨芽細胞の分化に従い発現が増加、ベンゾピレンはこれらの分化を阻害することがわかった。
10.膠原病様ケラチノサイトモデルに対するAHRリガンドの抗炎症作用が明らかになった。
11.ヒト末梢感覚神経モデル細胞株ではAHRの高い発現は認められなかった。
結論
ダイオキシン類の慢性影響、生体内動態、毒性機構、次世代への影響について、疫学・臨床医学・基礎医学の観点から多面的に明らかになりつつある。
疫学研究では昨年度より油症2世・3世における健康調査を開始。ダイオキシン類の世代に渡る慢性影響についての研究に着手。また油症2世患者の卵巣機能予備能の低下が示唆された一方、油症患者の口腔内の色素沈着と口腔粘膜疾患の発生には関連が認められなかった。
基礎的研究では、ダイオキシン類の受容体であるAHRの働きに着目。培養細胞・動物実験を用いた実験を継続して行っている。油症患者で症状のみられる皮膚、肺、口腔内、神経といった臓器で様々な基礎研究が行われ、油症に関連する症状のメカニズムが明らかになりつつある。PCBの肝臓における代謝やAHRの骨代謝の役割等も研究が進んでおり、TNDによるベンゾピレンの神経症状における回復効果や、スペルミジンの酸化ストレスに対する防御効果など将来的に治療につながりうる研究も進んでいる。
引き続き、精力的に研究を進め、油症の症状を緩和する新しい治療薬の発見・開発に繋げたいと考えている。

公開日・更新日

公開日
2024-09-13
更新日
2024-10-01

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2024-10-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202323036B
報告書区分
総合
研究課題名
食品を介したダイオキシン類等の人体への影響の把握とその治療法の開発等に関する研究
課題番号
21KA2003
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
辻 学(九州大学病院 油症ダイオキシン研究診療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 石井 祐次(九州大学 大学院薬学研究院)
  • 上松 聖典(長崎大学病院 眼科)
  • 太田 千穂(中村学園大学 栄養科学部)
  • 緒方 英紀(九州大学病院 脳神経内科)
  • 小野塚 大介(大阪大学)
  • 貝沼 茂三郎(富山大学)
  • 岡本 勇(九州大学病院呼吸器科)
  • 香月 進(福岡県保健環境研究所)
  • 加藤 聖子(九州大学大学院医学研究院 生殖病態生理学)
  • 川崎 五郎(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科展開医療科学講座口腔腫瘍治療学分野)
  • 古賀 信幸(中村学園大学 栄養科学部)
  • 申 敏哲(シン ミンチョル)(熊本保健科学大学 保健科学部 リハビリテーション学科)
  • 園田 康平(九州大学大学院 医学研究院)
  • 月森 清巳(福岡市立こども病院周産期センター)
  • 辻 博(北九州若杉病院 西日本総合医学研究所)
  • 津嶋 秀俊(九州大学病院整形外科)
  • 戸高 尊(公益財団法人北九州生活科学センター 生体ダイオキシン類分析室)
  • 友清 淳(北海道大学)
  • 鳥巣 剛弘(九州大学病院)
  • 中原 剛士(九州大学大学院 医学研究院 )
  • 濱田 直樹(九州大学病院 呼吸器科)
  • 藤原 稔史(九州大学 整形外科)
  • 冬野 洋子(九州大学 大学院医学研究院)
  • 前田 英史(九州大学大学院歯学研究院)
  • 室田 浩之(国立大学法人 長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 山村 和彦(九州大学病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
PCB類・ダイオキシン類の生体への影響、生体内動態を把握し、それらの生体への毒性を緩和する治療法を見出すことである。
研究方法
油症検診データベースの集積:健康実態調査、一斉検診の実施、検診結果を集積した患者データベースを更新する。患者および健常人の血中のPCDF類の実態調査を行う。死因調査として、油症患者の55年間の追跡調査を実施する。検診を実施し、油症患者の皮膚科、眼科、内科、歯科症状について詳細な診察を行い、年次的な推移を検討する。血液検査、尿検査、骨密度検査、神経学的検査を行う。検査結果は他覚的統計手法などを用いて統計学的に解析し、経年変化の傾向について調査する。基礎的研究では、油症の病態における臓器障害、機能障害を細胞実験・動物実験で再現し、その詳細について解析する。
結果と考察
健康実態調査、一斉検診の実施、検診結果を集積した患者データベースを更新した。患者および健常人の血中のPCDF類の実態調査を行った。R2年度に国内6機関で血液中ダイオキシン類濃度が適切に測定されていることを報告したが、今回、分析法についても検討を行い、従来法と比較して30分程度測定時間の短縮に成功した。2022年度に測定を行った認定患者221名と未認定者215名について結果集計を行ったところ、認定患者の血中2,3,4,7,8-PeCDF濃度は平均42 pg/g-fatであり、未認定者は平均5.3 pg/g-fatであった。
油症検診受診者の傾向把握のため、引き続き検診票を収集、集計した。
R2年度に女性では肝臓がんの発生率が高いことを報告したが、今回の解析で、男性の油症患者では肺がんの死亡リスクが1.59倍、種類を特定しないがんによる死亡リスクが1.22倍、一般の人と比較して高いことがわかった。また、油症患者における頭痛・頭重に関して頭痛を有する群と頭痛の無い群で血中PCB平均濃度を比較したところ,両群間に有意な差は認められなかった。油症検診における眼病変に関する研究では油症患者の眼科領域における臨床所見は徐々に軽くなっていることがわかった。油症患者における口腔内病変に関する研究では油症患者にみられる口腔内の色素沈着と口腔粘膜疾患の発生との相関性は認められなかった。
基礎的研究では、ダイオキシン類の受容体である芳香族炭化水素受容体(AhR)が、薬物代謝に加えて、気道障害、感覚障害、性分化・生殖障害、歯の形成、骨代謝にも重要な働きをしていることが明らかとなった。気道では、気道上皮細胞におけるシグナル制御タンパク質α(SIRPα)経路の活性化は、ムチン過剰分泌を抑制するため、油症気道傷害の新たな治療戦略となる可能性が示唆された。感覚障害では、AhRの抗原であるベンゾピレンがミトコンドリアに何らかの影響を与え、機能不全を起こすことによってしびれなどの神経異常をきたした可能性が考えられた。また、ダイオキシン類は生体に強い酸化ストレスを及ぼすが、ポリアミン類の中でもスペルミジンは酸化ストレスに防御的に働くことが示された。
結論
ダイオキシン類の慢性影響、生体内動態、毒性機構、次世代への影響について、疫学・臨床医学・基礎医学の観点から多面的に明らかになりつつある。これらの結果を踏まえて、将来的に、油症の症状を緩和する新しい治療薬の発見・開発につなげたいと考えている。

公開日・更新日

公開日
2024-09-13
更新日
2024-10-01

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202323036C

収支報告書

文献番号
202323036Z