文献情報
文献番号
202323024A
報告書区分
総括
研究課題名
広域食中毒発生時の早期探知のための調査の迅速化及びゲノム解析技術を利用した調査法の確立に資する研究
研究課題名（英字）
-
課題番号
23KA1005
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
明田 幸宏(国立感染症研究所 細菌第一部)
研究分担者(所属機関)
- 中村 佳司(九州大学 大学院医学研究院)
- 砂川 富正(国立感染症研究所 実地疫学研究センター)
- 廣瀬 昌平(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
- 平井 晋一郎(国立感染症研究所 感染症危機管理研究センター)
- 大西 真(沖縄県衛生環境研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
39,605,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書（概要版）
研究目的
食中毒は国民に対して甚大で直接的な影響を及ぼす。そのため食中毒の発生予防や発生した際には迅速な原因究明を実施し、その健康被害の拡大抑止が必要不可欠である。特に腸管出血性大腸菌（EHEC）による食中毒は、その届出数や重症度も相まって日本の食中毒対策として最も警戒が必要となっている。本研究では迅速な原因究明、アラート発出に資する技術基盤及び情報収集能力向上を目指すことを目的とする。
研究方法
本研究班では、ゲノムシークエンスデータを用いた解析パイプライン構築、臨床由来、食品由来、家畜由来株等のゲノム情報によるデータベース拡充、MLVA法の精度管理、食中毒アラートシステムの改良・感染源の関連性解析、自治体レベルでの解析を試行し、コホート内での原因株の動きを明らかにする離島コホート研究を実施する。
結果と考察
ゲノム解析パイプライン構築、評価を実施するために、ゲノム解析各解析コンポーネントのducker化前の解析パイプラインについて機能の評価や改善を行った。その結果、事前に設定した値（カバレッジやコンタミネーションの割合等）に対して自動的にQCを行い結果を表示する機能を追加した。また、SNP解析に関しては、結果の評価に必要なコアゲノムサイズ等を自動的に計算してレポートを出力する機能を追加した。またゲノム情報収集、データベース拡充化では、研究班内で取得された菌株などを利用してゲノム情報を取得した。計226の臨床由来EHEC菌株に関して、平均740 Mb (387〜1,368 Mb)のショートリード配列を取得した。代表的なEHEC菌株であるO157 Sakai株ゲノムの全長（5.6 Mb）に対し、平均132xカバレッジ（69x~244x）のデータ量であったことから、WGS解析に十分なデータ量がいずれの菌株においても取得されていると考えられた。またMLVA型別とそのデータ蓄積において3308株について分子型別解析を実施した。このうち2923株についてMLVA法による解析を実施した。解析依頼施設数は延べ94施設であった。各血清群において同定された型数は、O157が862、O26が148、O111が72、O103が62、O121が16、O145が12、O165が3、O91が38であった。このMLVA法について、全国の地衛研を対象にMLVA法の精度管理試験を実施したところ、全体的に高い検査精度であった。またこれまでの精度管理試験で把握した情報を基にトラブルシューティング集を作成した。離島コホート研究では、EHEC感染症の発生頻度の市町村比較、ウシ飼養数・飼養戸数の市町村比較等を実施するとともに当該地域におけるウシ糞便検体からの菌株分離を試みた。食中毒アラートシステムの改良においては、2018年までのデータをベースに広域食中毒アラートの設定を行い、食中毒とは別システムである感染症発生動向調査のレベルで散発事例を広域事例として探知する仕組みを整えた。
結論
コロナ禍において報告数の減少がみられたEHEC感染症を含む食中毒、食品由来感染症もコロナ収束とともに増加へ転じている。EHEC菌株の解析精緻化、迅速化が原因究明の要となることから、本研究で開発、改良している解析パイプラインや現行型別法であるMLVA法の精度管理をすすめると共に、これまで以上に幅広い対象物よりEHEC菌株を分離し、その遺伝学的性状を明らかにすることは、迅速な食中毒アラートの発出に有用であることは自明であり、さらに研究開発を進める必要がある。
公開日・更新日
公開日
2025-01-15
更新日
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