文献情報
文献番号
202323020A
報告書区分
総括
研究課題名
食品媒介感染症被害実態の推計に基づく施策評価のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23KA1001
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
窪田 邦宏(国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部第二室)
研究分担者(所属機関)
- 砂川 富正(国立感染症研究所 実地疫学研究センター)
- 八幡 裕一郎(国立保健医療科学院疫学部)
- 上間 匡(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部 第四室)
- 熊谷 優子(和洋女子大学家政学部健康栄養学科)
- 小関 成樹(北海道大学大学院 農学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
5,627,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究では感染症サーベイランスシステム(NESID)データ、検査機関におけるアクティブサーベイランスデータ、食中毒を疑わせる事例の疫学調査データ、環境中のウイルスのデータ等を活用することで、散発事例も含めた食品媒介感染症被害実態の推計方法を検討する。さらに複数年度にわたる推計を行うことで食品由来感染症被害の発生動向の把握を可能とし、食中毒対策の検討やその効果の評価に活用する手法とそれに使用する指標や基礎的なデータを精査することで、食品衛生行政での活用方法を検討する。またWHOや他の各国の食品由来疾患被害実態推計研究との情報交換を行うことで研究の推進および国際対応への準備を行う。
研究方法
宮城県および全国における積極的食品由来感染症病原体サーベイランスならびに下痢症疾患の実態把握では、2022年度に関する臨床検査機関を対象としたアクティブサーベイランスデータを用い、検査機関の住民カバー率、および宮城県で以前に行った夏期および冬期の2回の電話住民調査の結果から求めた検便実施率および医療機関受診率を推定モデルに導入することで、Campylobacter、Salmonella、Vibrio parahaemolyticusの3菌について、モンテカルロシミュレーション法により宮城県における当該菌による食品由来下痢症実患者数の推定を行なった。これらの推定値から、全国での当該菌による食品由来下痢症患者の発生率が宮城県での発生率と同じであると仮定した時の全国の当該菌による食品由来下痢症患者の数を推定した。ウイルス性食中毒を疑わせる事例の疫学調査データ等からの詳細な実態把握 手法等の研究ではこれまで、感染症サーベイランスシステム(NESID)データ、検査機関におけるアクティブサーベイランスデータ、食中毒を疑わせる事例の疫学的調査データ等を活用することで、食品由来のノロウイルス感染症の推計方法を検討してきたが、一自治体において4年間の情報収集を行い、ノロウイルス感染症事例に占める食中毒(疑いを含む)の割合を分析した。広域に発生する主に細菌性疾患の疫学情報とゲノム情報の分析と監視に基づく疾病負荷軽減策の検討研究では、広域の食品媒介感染症の疫学情報を複数の情報源から収集し、特性を検討した。また、海外での広域の食品媒介感染症の探知方法、疫学情報収集方法、解析結果の活用方法についての情報収集を行った。ノロウイルスの感染実態推計に向けた環境検体調査研究では、下水検体や河川に生息する二枚貝を検体としてノロウイルス遺伝子がどの程度検出されるかについて検証した。食品由来感染症被害対策及びその効果評価の手法等の研究では国内外における食品由来感染症への対策に関する情報を収集し、整理、分析した。より現場で活用しやすくまた一般に理解が得られやすい指標の検討では、食品由来疾患の被害実態の推計のための指標の一つとして用いられているDisability-adjusted Life Years (DALYs)に代わる、分かりやすい新たな指標策定を検討するために、世界的な動向を調査した。
結果と考察
2022年のデータを収集し、全国における食品由来下痢症実患者数の推定を行い、宮城県データからの全国推定値との比較を行った。ノロウイルス感染症事例に占める食中毒(疑いを含む)の割合1割を切る程度の低率であった。新型コロナウイルス感染症パンデミックの影響を受けていた時期であることや、食材検査の導入がなされていなかったことから過小評価となっていた可能性があった。広域の食品媒介感染症の疫学情報の収集は共通化した調査票は迅速性があるが、データの解析までには効率化が必要課題であった。食品由来感染症被害対策及びその効果評価の手法等の研究では欧米では全ゲノムシークエンシング法(WGS法)が導入され、食品由来感染疾患のアウトブレイクの調査における原因食品の特定に有用であることが確認された。より現場で活用しやすくまた一般に理解が得られやすい指標の検討では諸外国では食中毒によって受けた被害を経済損失(コスト)として計算評価する取り組みが盛んになされていることが明らかになった。
結論
米国での効率化ツールの利用が一つの選択肢と考えられた。また、調査の迅速性や情報の質を向上には最小限の情報収集について検討が今後必要となる可能性があった。食品由来感染症被害対策及びその効果評価の手法等の研究では安全な食品を提供するための方策に関する費用対効果分析結果は、食品等事業者における食品安全対策の強化のインセンティブを高める要素の一つ事が確認された。より現場で活用しやすくまた一般に理解が得られやすい指標の検討では世界的な新たな潮流になり得る指標として、日本でも本格的に検討を進める必要があることが示された。
公開日・更新日
公開日
2025-01-15
更新日
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