特発性局所多汗症の疫学調査、脳血流シンチの解析による病態解析及び治療指針の確立

文献情報

文献番号
200936075A
報告書区分
総括
研究課題名
特発性局所多汗症の疫学調査、脳血流シンチの解析による病態解析及び治療指針の確立
課題番号
H21-難治・一般-020
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
横関 博雄(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科皮膚科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 田中智子(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科皮膚科学分野)
  • 玉田康彦(愛知医科大学 皮膚科)
  • 片山一朗(大阪大学 皮膚科)
  • 水澤英洋(東京医科歯科大学 神経内科)
  • 佐々木成(東京医科歯科大学 腎臓内科)
  • 河原和夫(東京医科歯科大学 政策科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本人に適した原発性局所多汗症の診断基準、重症度基準、診療ガイドラインを作成して重症度にあった適切な治療法の確立を目指した。その診断基準で全国的な疫学調査を施行し局所多汗症の有病率を明らかにするとともに局所多汗症の病態も解析した。  
研究方法
(1)疫学調査:全国の企業、学校、施設の健康診断時などに5,750人を対象としてアンケート用紙を記入してもらい多汗症の発症頻度を解析。
(2)多汗症診療ガイドライン作成:皮膚科、神経内科、精神科、血管外科、呼吸器外科の多汗症の治療に精通した専門医を主体として多汗症診療ガイドライン作成委員会を発足させ多汗症診療ガイドラインを作成。
(3)労働生産性の解析:大阪大学、東京医科歯科大学、愛知医科大学に受診した多汗症患者にWPAI-HISを用いて多汗症患者の労働生産性に関して解析。
(4)脳血流シンチ(SPECT)を用いて局所多汗症の原因病巣の脳における局在を解析
(5)ヒトエクリン汗腺のアクアポリン5(AP5)の解析:QP5に着目し、発汗時の細胞内シグナル伝達系がどのように細胞内動態や機能制御に関わるかを検討。
結果と考察
当初の目的である診断基準、重症度、治療指針に関しては多汗症診療ガイドラインの4回の会議でほぼ100%近く策定できたのは班員とは異なる多汗症専門家による委員会を立ち上げたことが非常に効率がよい結果を導いたと思われる。疫学調査では、欧米では局所多汗症は2-3%の発症頻度と考えられていたが本邦では原発性掌蹠多汗症は5.3%の高い有病率であった。また、常時、耐えがたい苦痛を感じている重症原発性掌蹠多汗症は日本国民の0.64 %(80.12万人)近くを占めることさらに、保存的治療法に抵抗する難治性重症原発性掌蹠多汗症(重症原発性多汗症の5.6%) 4.5万人存在する希少性疾患であることも明らかにしたことは有意義である。WPAIS-ASを用いた労働生産性の解析では48%の労働生産性が低下するという驚異的なデーターも非常に大切な結果である。多汗症による経済損失試算が1970億円・月と驚く数値である。そのほか、SPECT解析、アクアポリン5解析も現在行っているが病態解析はまだ、研究班ができて半年であることもあり達成度は不十分と考えられた。
結論
今後のさらなる研究班継続による病態解析の研究が必要である。

公開日・更新日

公開日
2010-05-13
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936075C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本邦初の汗のアンケート調査は、日本人の多汗症は発症頻度が世界の多汗症の頻度と比べ非常に高いことが明らかにされた点で非常に有意義である。欧米では局所多汗症は2-3%の発症頻度と考えられていたが本邦では原発性掌蹠多汗症は5.3%の発症頻度であった。難治性重症原発性局所多汗症の病因は不明であったが、SPECTを用いた解析で多汗症発症時に前頭葉の血流量の増加が見られた発見は前頭葉の左下前頭回に病因があることを示す上で非常に学術的に重要な所見で国際的に注目された。
臨床的観点からの成果
原発性局所多汗症は、現在本邦では難治性疾患と認識されておらず、未治療もしくは美容クリニック、エステなどで不適切な医療がなされていた。今年度策定された適切な診断基準、診療ガイドラインにより重症度に応じた段階的な治療がなされ今後、さらに難治性重症原発性多汗症の発症病態も解明されることにより発汗異常で精神的に苦しんでいる多くの患者が精神的苦痛から解放されることが期待できる。
ガイドライン等の開発
診断基準として局所的に過剰な発汗が明らかな原因がないまま6ヶ月以上認められ、以下の6症状うち2項目以上あてはまる場合を多汗症と診断。1)最初に症状がでるのが25歳以下、2)対称性に発汗がみられること、3)睡眠中は発汗が止まっていること、4)1週間に1回以上多汗のエピソードがあること、5)家族歴、6)それらによって日常生活に支障をきたすこと。自覚症状により重症度も策定。多汗症診療ガイドラインは、手掌多汗症、足多汗症、腋窩多汗症、に分けて治療指針のアルゴリズムを作成した
その他行政的観点からの成果
労働生産性に関して多汗症患者では驚異的な労働生産性の低下(48%)が認められた点は社会的な労働生産性において多汗症の根本的な治療が早急に必要であることを明らかにした。多汗症のうち原因不明で常時、耐えがたい苦痛を感じている重症原発性掌蹠多汗症は日本国民の0.64 %(80.12万人)近くを占めることが明らかになっており、原発性掌蹠多汗症を治療することにより54万人近くの労働者、学生の労働生産性が倍増することになり日本経済の発展に寄与することが大きい。
その他のインパクト
「重症者は80万人、多汗症、厚労省が初の疫学調査」京都新聞、高知新聞、神戸新聞、中部新聞、秋田さきがけ、下野新聞、信濃新聞、岩手新聞、中部経済新聞、岐阜新聞、福井新聞、南日本新聞、沖縄タイムス、山口新聞、山梨日日新聞、福島民友、新潟新聞、佐賀新聞の18新聞で2010年5月3日から5月28日まで報道。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
18件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
16件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tanaka T, Satoh T,Yokozeki H
Dental infection associated with nummular eczema as an overlooked focal infection.
J Dermatol. , 36 (8) , 462-465  (2009)
原著論文2
Yui N, Okutsu R, Sohara E, et al.
FAPP2 is required for aquaporin-2 apical sorting at trans-Golgi network in polarized MDCK
Am J Physiol Cell Physiol. , 297 (6) , 1389-1396  (2009)
原著論文3
Ohta E, Itoh T, Nemoto T, et al.
Pancreas-specific aquaporin 12 null mice showed increased susceptibility to caerulein-induced acute pancreatitis.
Am J Physiol Cell Physiol. , 297 (6) , 1368-1378  (2009)
原著論文4
Yamashita N, Tamada Y, Kawada M, et al.
Analysis of family history of palmoplantar hyperhidrosis in Japan.
J Dermatol. , 36 (12) , 628-631  (2009)
原著論文5
Kawada M, Tamada Y, Simizu H, et al.
Reduction in QSART and vasoactive intestinal polypeptide expression in the skin of Parkinson's disease patients and its relation to dyshidrosis.
J Cutan Pathol. , 36 (5) , 517-521  (2009)
原著論文6
Murota H, Kitaba S, Tani M, et al.
Effects of non sedative antihistamines on productivity of patients with pruritic skin diseases.
Allergy.  (2009)
原著論文7
横関博雄・田中智子
特集/新しい皮膚科検査法 実践マニュアル発汗機能検査
MB Derma , 151 , 197-201  (2009)
原著論文8
田中智子、横関博雄
掌蹠多汗症最新の治療;皮膚科的アプローチ
発汗学 , 16 (2) , 25-29  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
2016-06-20