文献情報
文献番号
202323016A
報告書区分
総括
研究課題名
国内流通食品に検出されるカビ毒に対する安全性確保の方策の確立に資する研究
課題番号
22KA1006
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
吉成 知也(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部第四室)
研究分担者(所属機関)
- 服部 一夫(東京農業大学 応用生物科学部)
- 渡辺 麻衣子(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
- 渋谷 淳(国立大学法人東京農工大学大学院 農学研究院動物生命科学部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
9,585,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
オクラトキシンA(OTA)は、麦類、種実類、豆類を汚染するカビ毒である。今後、デオキシニバレノール(DON)に加えてOTAの基準値が設定されるため、輸入検疫においてDONに加えOTAの検査も実施する必要が生じ、現場の負担の増加が懸念されている。そこで本研究においては、小麦におけるDONとOTAの同時分析法を開発し、公定法の候補として提唱する。また、OTAの効率的な検査のためのスクリーニング法の検討を合わせて実施し、公定法として採用可能かを判断するデータを得る。一方、モニリフォルミン(MON)は、新興カビ毒に分類される化合物で、平成29年に公表された欧州食品安全機関(EFSA)の評価結果において、実験動物において致死毒性を示すこと、様々な穀類に検出されることが公表され、国際的な関心が高まっており、さらなる情報の収集が望まれている。そこで本研究においては、MONが日本人の健康に対してリスクを有するかを判断し、将来的に規格基準を設定する必要があるかを議論するためのデータを得るために、食品中のMONの分析法の開発、マウスにおける毒性評価、MON汚染の原因となる因子の解明を行う。
研究方法
小麦中のDONとOTAの同時分析は、多機能固相カラムによる精製とLC-MS/MSによる定量により行った。国内の9分析機関による試験から得られた回収率等のパラメーターを評価し、妥当性を確認した。OTAの簡易分析法については、OTA非汚染の小麦、ライ麦又は大麦の破砕物に、OTA標準品を終濃度3、5又は 10 µg/kgとなるよう添加した検体を用いて6種の市販のOTA測定用イムノクロマトキットの性能評価を行った。穀類中のMONの分析については、昨年度開発した分析法の妥当性を単一試験室で評価した。マウスを用いた毒性評価については、28日間反復投与試験を実施し、MONを10、20及び40 mg/kg体重の用量で、各群10例のマウスに経口投与を行い、一般状態の確認や病理組織学的検査を実施した。MON汚染の原因解明について、MON陽性穀類からFusarium属菌の分離とMON産生性の検証を行った。
結果と考察
小麦中のDONとOTAの同時分析法の開発について、多機関共同試験の結果で得られたパラメーターは、全てAOACが公表するクライテリアを満たしていたことから、妥当性が示された。OTAを対象にして、現時点において日本で入手可能な市販イムノクロマトキットを用いて、その性能を評価した結果、3種のキットにおいて測定が可能と考えられた。穀類中のMONの分析法については、6種の穀類で適用可能であることが示された。来年度以降はこの分析法を用いて汚染調査を実施する。毒性試験については、40 mg/kg群の腎臓皮質における再生尿細管と肝臓における肝細胞肥大が認められたことより、MONは腎臓を毒性標的とする可能性が考えられた。10 mg/kg群にMONの影響と考えられる変化は認められず、無毒性量は10 mg/kgと判断された。MON汚染の原因については、小麦からF. avenaceumとその近縁種、ライ麦からF. oxysporum、トウモロコシからF. fujikuroiとその近縁種がMON産生菌として検出された。
結論
小麦からの抽出液を多機能固相カラムで精製し、LC-MS/MSで定量を行うDONとOTAの同時分析法を開発した。多機関共同試験において良好な結果が得られたことから、その分析法は小麦中のDONとOTAの同時分析に使用可能であることが示された。6種類の市販イムノクロマトキットを用いて、大麦、小麦、ライ麦を用いた添加回収試験を行い、その適応性を検討した。その結果、3種類のキットについて、小麦と大麦への適応性が示された。6種類の穀類中のMONの分析法を開発し、単一試験室による妥当性評価を実施した結果、良好な結果が得られた。マウスにおける毒性試験を実施した結果、MONは腎臓を毒性標的とし、無毒性量は10 mg/kgと判断された。食品におけるMON汚染の原因を解明するために、MON汚染穀類中のFusarium属菌を解析した結果、日本国内で流通する穀物のMON汚染原因菌の菌種は穀物種毎に違いがあることが明らかとなった。今回判明した穀物毎の汚染原因菌の情報を元に、国内に流通する穀物におけるFusarium属菌の汚染状況を把握することで、MON汚染のリスク評価に関する知見を蓄積することができた。
公開日・更新日
公開日
2024-09-09
更新日
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