筋萎縮性側索硬化症患者の遺伝子・生体試料バンクの構築

文献情報

文献番号
200936074A
報告書区分
総括
研究課題名
筋萎縮性側索硬化症患者の遺伝子・生体試料バンクの構築
課題番号
H21-難治・一般-019
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
祖父江 元(名古屋大学 大学院医学系研究科(神経内科))
研究分担者(所属機関)
  • 青木 正志(東北大学 病院(神経内科))
  • 森田 光哉(自治医科大学(運動ニューロン疾患、神経遺伝学))
  • 和泉 唯信(徳島大学 病院(臨床神経科学))
  • 田中 章景(名古屋大学 大学院医学系研究科(神経内科))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は根治的治療法の存在しない神経難病である。ALS患者のゲノム遺伝子を大規模に蓄積し、ALSの発症、病像の多様性、進行などに影響する遺伝子多型を探索し、その生物学的意義を確認していく研究は病態解明の突破口になりうる。本研究はALS患者遺伝子リソースの構築を行い、我が国の研究者が共同で利用可能な研究資源を構築することを目的とした。
研究方法
全国21施設で検体登録可能な体制を構築した。各実施医療機関において文書による同意を得られた患者から採血を行い、連結可能匿名化を行った後、外部委託施設に血液検体を送付し、DNA抽出およびB-cell line化を行った。これら検体は検体保存センターにて一括保存した。臨床データシートはDNAと同じ匿名符号を付記し、検体と連結可能な形でデータベース化した。検体リソースは、我が国の研究者に開かれたものとした。運営委員会を組織し、解析研究プロジェクトは、研究計画を運営委員会が審査し、検体提供の是非を判断した。解析研究計画は解析担当施設倫理委員会の承認を前提とした。
結果と考察
378名のALS患者を登録し、同数のゲノム遺伝子を保存した。独立行政法人理化学研究所ゲノム医科学研究センターにおけるゲノムワイド関連解析、自治医科大学神経内科における既知のALS関連遺伝子異常スクリーニング、徳島大学医学部神経内科における新規ALS関連遺伝子候補のバリデーションの3つのプロジェクトに匿名化されたALS患者DNAを提供し、共同研究を推進した。理研ゲノム医科学研究センターとの共同研究で約5万SNPsを用いたゲノムワイド関連解析から、p=7.6×10-10で有意なALSとの関連を示す遺伝子多型が見出された。
結論
ALSについて大規模遺伝子検体リソースを構築でき、運営委員会と各施設倫理委員会の管理のもと解析研究に供することのできる体制がつくられた。これらは今後、我が国発のALS病態解明、治療法開発研究に大きく貢献すると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2010-05-28
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936074C

成果

専門的・学術的観点からの成果
筋萎縮性側索硬化症(ALS)について、378例の患者を登録し、遺伝子検体の蓄積を行った。独立行政法人理化学研究所ゲノム医科学研究センターとの共同研究により、一塩基多型(SNPs)を用いたゲノムワイド関連解析を推進し、p=7.6×10-10で有意なALSとの関連を示す遺伝子多型が見出された。その他に、集積された検体を用いて既知のALS関連遺伝子異常スクリーニング、新規ALS関連遺伝子候補のバリデーションを推進した。
臨床的観点からの成果
これまでALSの治療薬開発は、主にSOD1遺伝子変異によるALSモデル動物を用いて行われてきた。しかしながら、このモデル動物で有効性が確認された薬剤が、ヒトへの治験では無効であるという事例が相次ぎ、より孤発性ALSの病態に近いALSモデル動物の開発が求められている。本研究により蓄積されたALS患者遺伝子検体を用いた解析で、孤発性ALS関連分子が見出されつつあり、よりヒトの病態に近いモデルの開発につながりうる。
ガイドライン等の開発
 ALS患者の多くは孤発性であるが、一部の患者は家族歴を有し、発症の原因となりうる遺伝子変異が複数同定されてきている。我が国のALS患者において、これらのALS関連遺伝子変異がどの程度発症に寄与しているか、本研究により蓄積された遺伝子検体リソースを用いてスクリーニングが進行中である。その結果は我が国におけるALSの診断、診療に寄与するものであり、改訂が予定されている日本神経学会ALS治療ガイドラインの参考資料の一つになりうる。
その他行政的観点からの成果
 ALSは代表的な神経難病であり、全国に1万人程度の患者が存在し、その約3割は気管切開、人工呼吸器装着状態で療養している。今後高齢化社会の進行に伴い患者数のさらなる増加が見込まれ、どのようにこれらの患者を支え、QOLを確保していくかが行政的に大きな課題である。ALS患者の生体試料を蓄積し、治療法開発への道筋をつける体制を構築できたことは、今後の行政にとっても大きく寄与する可能性がある。
その他のインパクト
 ALS患者遺伝子検体の蓄積により、病態に迫るアプローチは世界の各国で行われつつある。本研究で蓄積された約400例のALS患者検体リソースは世界的にも有数の規模であり、世界レベルの研究に寄与しうる。また、遺伝子多型研究は異なる人種による検証が必要となるが、その点についても我が国の研究リソースが構築できた点が重要な意義を持つ。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Iguchi Y, Katsuno M, Niwa J et al.
TDP-43 depletion induces neuronal cell damage through dysregulation of Rho family GTPases.
J Biol Chem. , 284 , 22059-22066  (2009)
原著論文2
Sone J, Niwa J, Kawai K et al.
Dorfin ameliorates phenotypes in a transgenic mouse model of amyotrophic lateral sclerosis.
J Neurosci Res. , 88 , 123-135  (2009)
原著論文3
Atsuta N, Watanabe H, Ito M et al.
Age at onset influences on wide-ranged clinical features of sporadic amyotrophic lateral sclerosis.
J Neurol Sci , 276 , 163-169  (2009)
原著論文4
Kamada M, Maruyama M, Tanaka E et al.
Screening for TARDBP mutations in Japanese familial amyotrophic lateral sclerosis.
J Neurol Sci , 284 , 69-71  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-