ウエルシュ菌食中毒の制御のための検査法の開発及び汚染実態把握のための研究

文献情報

文献番号
202323012A
報告書区分
総括
研究課題名
ウエルシュ菌食中毒の制御のための検査法の開発及び汚染実態把握のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22KA1002
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
大西 貴弘(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
研究分担者(所属機関)
  • 渡辺 麻衣子(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
  • 岡部 信彦(川崎市健康福祉局 川崎市健康安全研究所)
  • 三澤 尚明(宮崎大学 農学部 獣医学科 獣医公衆衛生学研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
9,521,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
大規模な食品の汚染実態調査を実施し、エンテロトキシン産生性ウエルシュ菌の汚染源を明らかにするとともに、汚染食材からのウエルシュ菌除去法や食材中の増殖挙動を検討する。また、ウエルシュ菌の高感度迅速検査法を作製し、食中毒発生時の原因食材の同定を容易にする。以上の研究結果を総合し、ウエルシュ菌食中毒予防法を提案する。
研究方法
食品におけるエンテロトキシン遺伝子(cpe)保有ウエルシュ菌の汚染実態調査を継続するとともに、家畜・家禽腸内容物からのウエルシュ菌の検出、都市部河川水からのウエルシュ菌の検出、分離株の分子疫学的解析、食品中におけるウエルシュ菌の増殖挙動の解析を行った。
結果と考察
ウエルシュ菌食中毒はカレーやシチュー、煮物などで多く発生している。特に肉類を使用した料理で発生しやすいと考えられてきた。昨年度の調査では、鶏肉1検体からcpe保有株が検出されたのを除き、牛肉、豚肉からcpe保有株は検出されなかった。その一方で、香辛料、カレー粉、貝、海産乾物などからcpe保有株が多数検出された。この結果から、ウエルシュ菌食中毒における食肉の重要性は高くないことが示唆された。今年度は、牛、豚、鶏の腸内容物587検体およびひき肉について調査を行ったが、cpe非保有株は検出されるが、cpe保有株は検出されなかった。昨年度および今年度の結果から、食肉、特に牛肉および豚肉がウエルシュ菌食中毒の原因となる可能性は低いと考えられた。しかし、ウエルシュ菌食中毒は食肉を使用した料理で多発している。そこで、ウエルシュ菌の増殖における食肉の影響を調べるために、カレー中における、ウエルシュ菌の増殖挙動を検討した。その結果、牛肉の添加は、ウエルシュ菌の増殖を強力に促進することが明らかになった。この結果から、cpe保有株の汚染源としての牛肉の重要性は高くないが、ウエルシュ菌の増殖を著しく促進するため、食肉(牛肉)の添加はウエルシュ菌食中毒の予防を考える上で、非常に重要な要素であることが明らかになった。今後、豚肉や鶏肉を使用した場合についても検討を行いたい。今回、牛肉の添加によってウエルシュ菌の増殖が促進したが、その原因を明らかにすることはできなかった。ウエルシュ菌はタンパク質を好む細菌であるため、牛肉が栄養源として働いた可能性が考えられた。また、食肉の添加は、酸化還元電位を低下させると考えられているため、嫌気度を上昇させることによっても増殖をサポートしている可能性が考えられた。
昨年度の調査では、貝や海産乾物からcpe保有株が多く検出された。今回の結果から、下水の河川流入域でcpe保有株が検出された。この結果から、河川中のcpe保有株が貝や海産乾物を汚染している可能性が示唆された。海外の研究では、cpe保有株はヒトが保菌しており、下水に汚染された河川が、cpe保有株の汚染源であるとの報告がある。今回の結果は、我が国でも同様の汚染が生じている可能性を示唆するものである。今後、河川におけるウエルシュ菌の汚染状況を詳細に調査し、我が国ににおけるウエルシュ菌の汚染源を明らかにしていきたい。
分離株の全ゲノムシーケンスおよび分子系統解析の結果、患者由来株のみで構成されたハプロタイプが存在した一方で、患者由来株と近縁なalleleを持つ食品由来株および環境由来株が存在することも示された。これらが食中毒の発生と関連した菌株である可能性が考えられた。今後は、分離株とウエルシュ菌食中毒患者由来株の遺伝子解析およびジェノタイピングを、より解像度の高い解析方法によって実施し、菌の動態を疫学的に考察することによって、ヒトに食中毒を起こすリスクが高い食品や、食中毒原因株の汚染源を特定していく予定である。
結論
今回の調査結果は、香辛料・カレー粉や海産乾物がウエルシュ菌食中毒の汚染源として重要であることを示唆した昨年度の結果を裏付けるものである。一方、今回の結果から、ウエルシュ菌の増殖を促進するという食肉の新たな重要性が明らかになった。今後、食肉とウエルシュ菌の増殖についてさらに検討を行い、ウエルシュ菌が増殖しにくい調理法の開発に繋げていきたいと考える。

公開日・更新日

公開日
2025-01-18
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-01-18
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202323012Z