慢性炎症性脱髄性多発神経炎の臨床情報・生体試料バンクの構築

文献情報

文献番号
200936072A
報告書区分
総括
研究課題名
慢性炎症性脱髄性多発神経炎の臨床情報・生体試料バンクの構築
課題番号
H21-難治・一般-017
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
小池 春樹(名古屋大学 医学部附属病院(神経内科))
研究分担者(所属機関)
  • 祖父江 元(名古屋大学 大学院医学系研究科(神経内科))
  • 楠 進(近畿大学 医学部(神経内科))
  • 桑原 聡(千葉大学 大学院医学研究院(神経生理学、神経免疫学))
  • 高嶋 博(鹿児島大学 大学院・医歯学総合研究科(神経病学))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(以下CIDP)は,自己免疫機序の関与する末梢神経疾患である.臨床的多様性が特徴であり,それゆえ本質的な病態解明が困難とされることから,多数例を収集しての解析が不可欠である.本研究ではCIDPの臨床的多様性に関与する臨床電気生理解析とともに,宿主側の治療反応性にかかわる因子の関連性の解明を目指す.
研究方法
全国より収集したCIDPの臨床情報をもとに診断妥当性を検討し,診断基準を満たす312例について臨床電気生理的解析を治療反応性に対応して施行.また,10例のCIDP症例の病変部末梢神経についてAffymetrix社のGeneCHIPを用いた遺伝子発現解析を施行した.さらに100例のCIDP症例のDNAをもとに,MALDI-TOF法によるsingle nucleotide polymorphism (以下SNP)のgenotypingを行い,治療反応性にかかわる候補遺伝子についてハプロタイプ/ディプロタイプ解析を行った.
結果と考察
治療抵抗/不良例 (nonresponder)の臨床的特徴として,筋萎縮と四肢CMAPの有意な低下が明らかとなった.Axon-Schwann cell interactionにかかわる候補分子として,node〜juxtaparanodeに分布が報告される分子のSNPの相関解析を施行したところ,治療反応性に関連してTAG-1の統計的有意性が明らかとなった.遺伝子発現解析からは,治療反応性に対応した統計的に有意な変動を示す遺伝子は明らかではなかったが,他の遺伝子に比較してTAG-1の差異は顕著な差異を示した.
結論
CIDPの治療反応性をはじめとする臨床的多様性を説明する病態として,脱髄を背景とした軸索障害機序の重要性が確認された.SNP解析からTAG-1のnonsynonymous SNPsの関連性が統計的に有意であるとともに,治療反応性に応じた遺伝子発現量の変動が,TAG-1については他の候補遺伝子に比較して大きいことから,治療反応性には主にjuxtaparanodeに分布する分子が強くかかわっていることが示唆される.今後はこの部位を標的にした病態解析がCIDPの多様性を解明する有用な手がかりになると期待される.

公開日・更新日

公開日
2010-05-28
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936072C

成果

専門的・学術的観点からの成果
疾患頻度がまれな上、多彩な臨床像を特徴とする本疾患の、臨床ならびに生体試料の蓄積を可能にするシステムが構築された。本研究により病態の多様性を規定する因子として軸索障害機序の関与の重要性が明らかにされた。またこれがIVIg治療反応性を規定する臨床因子であることが明らかとなった。さらに遺伝子多型解析から、juxtaparanodeに分布が報告される分子のSNPが関連することが明らかとなった。以上から、CIDPの病態解明に向けての研究の方向性が得られたと考える。
臨床的観点からの成果
CIDPの治療法としては、現時点でIVIg、ステロイド、血液浄化療法が確立しており、本邦における状況からは、IVIgが効果ならびに利便性・安全性から第一選択の位置にある。ただしこれらに反応しないnonresponderの存在を多数例の解析から明確にした点はインパクトがあるといえる。今後は症例数を増やすとともに治療反応性に対応する関連分子のSNPを明らかにすることが可能になれば、治療法選択の順位決定や、事前の治療反応性の予測などへの応用が期待される。
ガイドライン等の開発
本研究の当初の目的にガイドライン開発は含まれていない。現行のCIDPの診断ならびに治療ガイドラインとしては2002年の神経治療学会と日本神経免疫学会の作成したものがあり、国内外とも現時点においてはおおむねそれに沿った診療が行われていると考えられる。むしろ典型的な所見をとらない臨床像の症例への対応をとりきめる必要性が指摘されていることから、今後は難治例や治療抵抗例に対するエビデンスをもった新規治療法の開発が必要であり、本研究はそれに寄与するものと期待される。
その他行政的観点からの成果
我々の行った一連の研究成果から、CIDPの国内における有病率と発症率が明らかとなり、疾患の母集団の大枠が規定された。また発症年齢や性差、電気生理所見等の臨床像以外にも、治療反応性を規定する臨床的特徴と遺伝子背景の関与が明らかとされた。このようにCIDPの疫学、臨床像が明確にされたことは、行政施策を決定する上で重要な情報であり、近年開始された特定疾患の対象疾患に加えられたことにも影響したと考えている。
その他のインパクト
本研究期間は比較的短期間に終了したため、実質的な研究成果は本研究終了後、それとは独立して継続されている各施設の研究から報告されつつある。国内より海外から本研究の成果は注目されており、なかでも特定の遺伝子背景が治療反応性や病態多様性に影響するというコンセプトや、ガングリオシドをはじめとする新たな自己抗体の関与の可能性などについては複数の海外の研究施設から問い合わせや講演の依頼があるなどインパクトを与えている。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kaida K, Kusunoki S
Antibodies to gangliosides and ganglioside complexes in Guillain-Barré syndrome and Fisher syndrome: Mini-review.
Journal of Neuroimmunology  (2010)
原著論文2
Kuwabara S
Put the right person in the right place: Segmental evaluation of the peripheral nerve for a diagnosis of CIDP.
Clinical Neurophysiology , 121 , 1-2  (2010)
原著論文3
Iijima M, Tomita M, Morozumi S, et al
Single nucleotide polymorphism of TAG-1 influences IVIg responsiveness of Japanese patients with CIDP.
Neurology , 73 , 1348-1352  (2009)
原著論文4
Taniguchi J, Sawai S, Mori M, et al
Chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy sera inhibit axonal growth of mouse dorsal root ganglion neurons by activation of Rho-kinase.
Ann Neurol , 66 , 694-697  (2009)
原著論文5
Kaida K, Kusunoki S
Guillain-Barré syndrome: update on immunobiology and treatment.
Expert Rev Neurother , 9 , 1307-1319  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
2016-06-20