食中毒原因細菌の検査法の整備のための研究

文献情報

文献番号
202323006A
報告書区分
総括
研究課題名
食中毒原因細菌の検査法の整備のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21KA1006
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
工藤 由起子(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
研究分担者(所属機関)
  • 大岡 唯祐(鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科 感染防御学講座 微生物学分野)
  • 伊豫田 淳(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 大西 貴弘(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
21,341,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、病原大腸菌を原因とする食中毒が多発しており、令和2年には、児童生徒等3,453人の患者をともなうastA(腸管凝集付着性大腸菌耐熱性エンテロトキシン1;EAST1をコードする遺伝子)保有大腸菌による大規模食中毒が発生した。また、他大腸菌による食中毒の発生も続いている。これらの病原大腸菌の食品等での検査法は国内外で確立されていないため、本研究では増菌培養法、分離培養法、遺伝子検出法を主にして病原大腸菌の効率的かつ特異的な検査法を開発する。また、菌株の病原因子遺伝子等の解析、食品等での汚染実態も明らかにする。さらに、令和3年6月に富山市保健所管内で発生した給食等を原因とする大規模食中毒において分離された大腸菌について特性、病原性等を解析する。これらの研究によって、食中毒発生原因となっている病原大腸菌による食中毒の対策に資する成果を得ることを目的とする。
研究方法
(1)研究代表者:工藤は、astA保有大腸菌の食中毒対応に有用な食品での検査法を確立した。特異的な遺伝子検出法については、研究分担者と協力して特徴的病原因子を指標にしてこれら病原大腸菌の検査法を確立した。また、令和3年6月に富山市保健所管内で発生した給食等を原因とする大規模食中毒において、患者検体および牛乳から分離された血清型・遺伝子型別が同一の大腸菌について病原性等を解析した。(2)研究分担者:大岡は、各病原型(astA保有菌,EAEC,EPEC)に特有の病原因子(新規因子を含む)を網羅的に同定し、新規因子はその機能も明らかにした。また、各病原型の指標に適する因子を対象とした検査法の開発に貢献した。(3)研究分担者:伊豫田は、2020年埼玉県で分離された大規模食中毒事例由来astA保有大腸菌株を含め、病原大腸菌の食中毒事例に於ける菌株の病原因子遺伝子等の解析および精査を行った。(4)研究分担者:大西は、病原大腸菌の食品等での汚染実態を明らかにし、主な食品群における増殖挙動を検討した。
結果と考察
(1)工藤は、astA特異的リアルタイムPCRを開発し、この系はastA保有株の中で配列上完全なastAバリアントの保有大腸菌株のみ陽性であり、配列上不完全なastAバリアント保有株では陰性であり、特異性が高かった。食品培養液での感度試験では、検出限界が3 log CFU/mL未満と優れた。また、自然汚染検体から分離されたastA陽性大腸菌は、病原因子としてはastAを単独で保有し、Og型は多様であった。また、富山市大規模食中毒由来非定型病原大腸菌は、プラスミドを保有し、このプラスミド脱落株はマウス致死性の減少およびコモンマーモセットでの腸管定着の消失が認められ、このプラスミドが病原性の一端を担っている可能性が示された。
(2)大岡は、機能しうると予測される完全なastA遺伝子バリアントを保有する395株について共通する病原因子の同定は困難であった。集団感染事例由来株に共通するastA遺伝子バリアントおよび共通な病原関連遺伝子の同定では、β-ラクタム系に対する耐性遺伝子を保有頻度が高かった。また、臨床的に重要と考えられるバリアントについて、細胞障害性に優位な差は検出されなかった。
(3)伊豫田は、O166:H15株のプラスミド導入株の細胞付着性の解析により付着関連遺伝子が染色体上に存在する可能性を明らかにした。完全長ゲノム配列の解析からは、集団感染由来O166が属するST2914が、埼玉県集団感染由来O7:H4株と類似するプラスミドを有することを明らかにした。富山市の大規模食中毒由来株については、Caco-2細胞への付着性、ETECの付着因子CFA/IIIの保有、百日咳菌の毒素遺伝子の保有を明らかにした。
(4)大西は、astA遺伝子保有大腸菌の平均汚染菌量(MPN/100g)を推定し、オクラでは342、ヤングコーンでは947、豚内臓肉では756、鶏肉では883であった。検体によっては非常に高濃度の汚染が認められた。astA遺伝子保有大腸菌の増殖挙動では、オクラでの25℃では接種2日後まで菌数が増加したのち平衡状態になり、1週間後まで維持された。
結論
astA遺伝子の食品での検出法については、既存法および新規開発の方法を比較し、現状の知見の範囲で地方自治体で正確な検査ができる方法を示した。しかし、今後、病原性の有無の指標となる因子を解明する必要があると考えられた。富山市で発生した大規模食中毒原因物質が非定型病原大腸菌であることを示した。

公開日・更新日

公開日
2025-01-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2025-01-15
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202323006B
報告書区分
総合
研究課題名
食中毒原因細菌の検査法の整備のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21KA1006
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
工藤 由起子(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
研究分担者(所属機関)
  • 大岡 唯祐(鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科 感染防御学講座 微生物学分野)
  • 伊豫田 淳(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 大西 貴弘(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、病原大腸菌を原因とする食中毒が多発しており、令和2年には、児童生徒等3,453人の患者をともなうastA(腸管凝集付着性大腸菌耐熱性エンテロトキシン1;EAST1をコードする遺伝子)保有大腸菌による大規模食中毒が発生した。また、他大腸菌による食中毒の発生も続いている。これらの病原大腸菌の食品等での検査法は国内外で確立されていないため、本研究では増菌培養法、分離培養法、遺伝子検出法を主にして病原大腸菌の効率的かつ特異的な検査法を開発する。また、菌株の病原因子遺伝子等の解析、食品等での汚染実態も明らかにする。さらに、令和3年6月に富山市保健所管内で発生した給食等を原因とする大規模食中毒において分離された大腸菌について特性、病原性等を解析する。これらの研究によって、食中毒発生原因となっている病原大腸菌による食中毒の対策に資する成果を得ることを目的とする。
研究方法
(1)研究代表者:工藤は、新興食中毒細菌Escherichia albertiiの食品での検査法をコラボレイティブスタディにて評価した。また、astA保有大腸菌の食中毒対応に有用な食品での検査法を確立した。特異的な遺伝子検出法については、研究分担者と協力して特徴的病原因子を指標にしてこれら病原大腸菌の検査法を確立した。さらに、令和3年6月に富山市保健所管内で発生した給食等を原因とする大規模食中毒において、患者検体および牛乳から分離された血清型・遺伝子型別が同一の大腸菌について病原性等を解析した。(2)研究分担者:大岡は、各病原型(astA保有菌,EAEC,EPEC)に特有の病原因子(新規因子を含む)を網羅的に同定し、新規因子はその機能も明らかにした。また、各病原型の指標に適する因子を対象とした検査法の開発に貢献した。(3)研究分担者:伊豫田は、2020年埼玉県で分離された大規模食中毒事例由来astA保有大腸菌株を含め、病原大腸菌の食中毒事例に於ける菌株の病原因子遺伝子等の解析および精査を行った。(4)研究分担者:大西は、病原大腸菌の食品等での汚染実態を明らかにし、主な食品群における増殖挙動を検討した。
結果と考察
(1)工藤は、食品でのE. albertii検査法のコラボレイティブ・スタディを実施し、優れた方法を示した。また、astA保有大腸菌の食品検査法を検討し、優れた増菌培地や分離培地を明らかにした。さらに、食品からのastA遺伝子検出に優れるリアルタイムPCR法を開発した。加えて、富山市大規模食中毒由来非定型病原大腸菌は、プラスミドを保有し、このプラスミドが病原性の一端を担っている可能性が示された。(2)大岡は、astA遺伝子の多様性と大腸菌進化系統における分布など、astA遺伝子の特性を明らかにした。しかし、EAST1が単独で病原性に寄与することは示されなかった。(3)伊豫田は、astA保有大腸菌は系統的に多様であること、血清型がO166:H15であるastA陽性大腸菌は細胞付着性を示すこと、ST2914が病原性系統である可能性を明らかにした。(4)大西は、鶏肉、豚内蔵肉、輸入野菜など多くの食品でastA保有大腸菌が高率に分離された。しかし、これらの食品が原因と考えられるastA保有大腸菌による食中毒事例はほとんどないと思われる。このためastA自体は病原性に関与していない、あるいは病原性を発現するためにはastAに加えて他の因子が必要である可能性が示唆された。
結論
日本では、これまで病原性が不確実とされていたastA遺伝子保有大腸菌による大規模食中毒が近年発生し、病原性を保有する重要な食中毒原因菌であるとの認識が高まった。その重要性に初めて着目して研究を進めた。本研究では、astA遺伝子保有大腸菌が食品から少なくない頻度で検出されることが明らかになり、食中毒を引き起こすような病原性のある株とない株があることが推察された。研究班内では病原性の有無の指標となる因子の解明にはまだ至ってないが、astA遺伝子の食品検査での検出法については、既存法および新規開発の方法を比較し、現状の知見の範囲で地方自治体で正確な検査ができる方法を示した。また、富山市で発生した大規模食中毒原因物質の解析に貢献し、非定型病原大腸菌であることを示した。この非定型病原大腸菌の病原因子を解明し、同様の大腸菌による食中毒発生の可能性について本研究を通じて地方衛生研究所や保健所に新たな知見を示した。今後、連携を行い、共同での解析など貢献していきたい。

公開日・更新日

公開日
2025-01-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-01-15
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202323006C

収支報告書

文献番号
202323006Z