ヒト腸内細菌フローラ生体試料バンクの確立からの炎症性腸疾患プロバイオティクス開発への基盤的研究

文献情報

文献番号
200936067A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト腸内細菌フローラ生体試料バンクの確立からの炎症性腸疾患プロバイオティクス開発への基盤的研究
課題番号
H21-難治・一般-012
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
日比 紀文(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 金井 隆典(慶応義塾大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
20世紀初頭に出現した難病;炎症性腸疾患 (IBD)(潰瘍性大腸炎・クローン病)は本邦において戦後増加の一途をたどり再燃と緩解を繰り返し生涯にわたり治療の継続を余儀なくされる難病である。我々はこれまでに、1)マウス慢性大腸炎は無菌化することに発症しないこと、2)腸炎惹起性CD4 T細胞の維持に腸内細菌が必須であること、3)ある種の抗生剤は慢性大腸炎の発症を抑制すること、4)腸内細菌抗原はヒト、マウス腸管内マクロファージの活性化に重要であることを証明してきた。本プロジェクトではヒト糞便、腸組織のバンク化を十分なインフォームドコンセントのもと確立し、マウス大腸炎モデルの発症過程における腸内細菌の変化を追跡する基礎的検討を平行して行うことを目的とする。
研究方法
①ヒト健常人、IBD患者腸内細菌フローラバンクの確立
②マウスIBDモデルにおける腸内細菌フローラの分析
③ヒト健常人、IBD患者腸内細菌フローラからプロバイオティクス開発
結果と考察
①慶應義塾大学医学部倫理委員会において、炎症性腸疾患患者、大腸がん患者、健常ボランティア、急性炎症性疾患コントロール(虚血性腸疾患、大腸憩室炎)における糞便腸内細菌採取に関わる臨床研究の承認を取得した。
②SPF下免疫不全マウスにおいて腸炎が発症した腸炎マウス大腸粘膜から採取したCD4+T細胞を新たな無菌下免疫不全マウス移入すると発症しないが、再び、SPF環境下へ移動することによって、慢性大腸炎を発症することを明らかとした。本事実は、腸炎惹起性CD4+T細胞がメモリーT幹細胞として機能をし、さらには、メモリーT細胞の維持因子であるIL-7依存的に、無菌環境下で生存することを証明した。
③①の結論をもとに検討中である。
以上、IBDの病態における腸炎惹起性メモリー細胞にとって、腸内細菌は発症、再燃には重要だが、維持には必須ではないことを明らかとなり、プロバイオティクス開発に当たり、T細胞活性化阻止因子へ標的を絞ることが賢明であることが示唆された。

結論
IBD根治を目指す腸内細菌環境の解明のため、日本という発酵学のメッカから進展する産業化への第一歩といえる研究プロジェクトをスタートさせた。IBDに限らず、他の免疫難病、腫瘍、生活習慣病までをも視野に入れ、IBD根治を目指したプロバイオティクスの基盤概念を確立に今後も推進したい。

公開日・更新日

公開日
2010-07-20
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936067C

成果

専門的・学術的観点からの成果
腸内細菌とIL-7の腸炎惹起性CD4+細胞の維持への役割
SPFでは大腸炎を発症したがGFでは発症しなかった。しかし、GF環境化に6週間維持したのち、SPF環境化へ移行すると再び大腸炎を発症した。さらに、GF環境化における腸炎惹起性CD4 T細胞の維持にIL-7が必須であることをIL-7 KO x Rag KOマウスを用いて明らかとした。このことは、腸炎惹起性CD4+ T細胞はメモリー化し、IBDにおける疾患永続性に免疫記憶が成立することを示唆するデータと言える(J Immunol.)。
臨床的観点からの成果
今後も症例数を圧倒的に増加させることにより、潰瘍性大腸炎、クローン病における腸内細菌パターンの特性を完全に掌握することが期待される。また、得られた情報からプロバイオティクス候補菌の同定へと進むものと考えられる。現在のバンク化にはなお一層の資金を要すものと予想されるが、培養困難なプロバイオティクス探索への一歩としての成果をもたらした。

ガイドライン等の開発
本研究ではガイドライン等の作成に関わるものは含まれていない。
その他行政的観点からの成果
本研究での提言は日本から発するプロバイオティクス産業への波及効果を有するものと考える。本邦の発酵学との連携を行政も十分期待される領域であり産学共同で展開する柱として厚生労働省を中心に発展することを期待する。
その他のインパクト
慶應義塾生命科学シンポジウム「食と医科学、そして健康長寿」にて「食と腸の健康-腸内細菌の関わり-」講演

発表件数

原著論文(和文)
8件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
11件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
小林 拓、日比紀文
Ⅰ.炎症性腸疾患の概念・定義と疫学
日本内科学会雑誌 , 98 (1) , 5-11  (2009)
原著論文2
金井隆典、渡辺 守、日比紀文 他
Ⅱ.炎症性腸疾患の病理・病態生理 1.腸管免疫抑制機構の破綻による炎症性腸疾患の発症
日本内科学会雑誌 , 98 (1) , 12-17  (2009)
原著論文3
緒方晴彦、日比紀文
Ⅳ.潰瘍性大腸炎の管理・治療 3.免疫抑制剤
日本内科学会雑誌 , 98 (1) , 68-74  (2009)
原著論文4
日比紀文
腸管局所免疫機構の解明に基づく炎症性腸疾患に対する新しい治療法の開発
日本内科学会雑誌 , 137 (10) , 60-64  (2009)
原著論文5
久松理一、日比紀文
ヒスチジンの経口投与がマクロファージからの炎症性サイトカインを抑えることでマウス腸炎を抑制する
分子消化器病 , 6 (2) , 83-85  (2009)
原著論文6
日比紀文
IBD診療の新展開と今後
日本大腸検査学会雑誌 , 26 (1) , 29-39  (2009)
原著論文7
久松理一、日比紀文
炎症性腸疾患治療における生物製剤の現状
日本臨床免疫学会会誌 , 32 (3) , 168-179  (2009)
原著論文8
日比紀文、小林 拓
消化管症候群(第2版)下―その他の消化管疾患を含めて― 炎症性腸疾患
総論.別冊日本臨床 新領域別症候シリーズ , 12 , 291-293  (2009)
原著論文9
Sakuraba A, Sato T, Hibi T et al.
Th1/Th17 immune response is induced by mesenteric lymph node dendritic cells in Crohn's disease.
Gastroenterology , 137 (5) , 1736-1745  (2009)
原著論文10
Ishihara T, Tanaka K, Hibi T et al.
Therapeutic Effect of Lecithinized Superoxide Dismutase against Colitis.
J Pharmacol Exp Ther , 328 (1) , 152-164  (2009)
原著論文11
Tomita T,,Hibi T, Watanabe M et al.
IL-7 is essential for lymphopenia-driven turnover of colitogenic CD4(+) memory T cells in chronic colitis.
Eur J Immunol , 39 (10) , 2737-2747  (2009)
原著論文12
Kamada N, Hisamatsu T, Hibi T et al.
Human CD14+ macrophages in intestinal lamina propria exhibit potent antigen-presenting ability.
J Immunol , 183 (3) , 1724-1731  (2009)
原著論文13
Kanai T, Watanabe M, Hibi T et al.
Homeostatic (IL-7) and effector (IL-17) cytokines as distinct but complementary target for an optimal therapeutic strategy in inflammatory bowel disease.
Curr Opin Gastroenterol , 25 (4) , 306-313  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-