文献情報
文献番号
202323001A
報告書区分
総括
研究課題名
香料を含む食品添加物の遺伝毒性から発がんに至る毒性評価スキーム確立に向けた基盤的研究
課題番号
21KA1001
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
杉山 圭一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 変異遺伝部)
研究分担者(所属機関)
- 本間 正充(国立医薬品食品衛生研究所)
- 小川 久美子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 病理部)
- 石井 雄二(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 病理部)
- 高須 伸二(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
- 安井 学(国立医薬品食品衛生研究所変異遺伝部)
- 古濱 彩子(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
- 佐々 彰(千葉大学 大学院理学研究院生物学研究部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
24,024,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究では、香料の安全性をin silico、in vitroそしてin vivoで階層的に評価するスキームの開発を目的に、効率的かつ信頼性の高い遺伝毒性・発がん性の包括的評価法の構築を目指す。
研究方法
使用量が多い香料50物質に対して、統計ベースとルールベースのAmes/QSAR予測と遺伝毒性情報の既存情報の調査を行った。更にこれまでに得られた知見を活かしつつ、得られた結果を部分構造ごとに整理した。チミジンキナーゼ(TK)遺伝子突然変異試験をプラットフォームとして、エピジェネティックな変化を定量可能な新規試験法の検出能・定量性の評価を行った。TK遺伝子をレポーターとした試験細胞株LmTK6を用いて、5-aza-deoxycytidineおよびGSK-3484862のDNA脱メチル化作用の配列特異性、ならびに12-O-Tetradecanoylphorbol-13-acetateのエピジェネティック作用を解析した。グルタチオン(GSH)の補充型TK6試験(GSH/GST-TK6試験)を実施しAmes試験のフォローアップが可能か検証した。香料の毒性評価スキームにおけるin vivo試験として、gpt deltaラットを用いた一般毒性・遺伝毒性・発がん性包括試験の有用性を検討するため、本法を用いた2-isopropyl-N-2,3-trimethylbutyramide(ITB)の包括的評価を実施した。階層的評価におけるin vivo評価系として、肝遺伝毒性・発がん性中期包括試験法(GPGモデル)の有用性を検討するため、本法を用いてin silico及びin vitroで遺伝毒性が明らかになった6-methoxyquinoline (6-MQ)を評価した。
結果と考察
使用量が多い香料50物質に対して、統計ベースとルールベースのAmes/QSAR予測と遺伝毒性情報の既存情報の調査を実施し、遺伝毒性の懸念の高さを部分構造ごとに整理できた。チミジンキナーゼ(TK)遺伝子突然変異試験をプラットフォームとして、エピジェネティックな変化を定量可能な新規試験法の検出能・定量性の評価を行い、計3物質の作用を同定した。
細胞を用いたin vitro遺伝毒性試験による遺伝毒性評価の精緻化として、ヒトTK6細胞を用いるグルタチオン補充型遺伝子変異試験(GSH/GST-TK6試験)は、Ames/QSARとAmes実試験の陽性香料物質4-メチル-2-ペンテナール(4MP)をフォローアップ可能であることが示唆された(今後、確認試験を実施予定)。
2-Isopropyl-N-2,3-trimethylbutyramide(ITB)の毒性標的である腎臓についてレポーター遺伝子変異原性試験を実施した結果、変異体頻度の変化は認められず、腎臓の遺伝毒性評価は陰性と判断した。また、肝臓の発がん性評価は陰性であった。
In silicoおよびin vitroで遺伝毒性が明らかになった6-methoxyquinoline (6-MQ)について、肝遺伝毒性・発がん性中期包括試験法(GPGモデル)による評価を継続した。その結果、6-MQの肝発がん性評価は陰性であった。また、OECD TG488に準拠した6-MQのin vivo変異原性試験を実施し、本モデルにおける遺伝毒性評価の妥当性を確認した。
細胞を用いたin vitro遺伝毒性試験による遺伝毒性評価の精緻化として、ヒトTK6細胞を用いるグルタチオン補充型遺伝子変異試験(GSH/GST-TK6試験)は、Ames/QSARとAmes実試験の陽性香料物質4-メチル-2-ペンテナール(4MP)をフォローアップ可能であることが示唆された(今後、確認試験を実施予定)。
2-Isopropyl-N-2,3-trimethylbutyramide(ITB)の毒性標的である腎臓についてレポーター遺伝子変異原性試験を実施した結果、変異体頻度の変化は認められず、腎臓の遺伝毒性評価は陰性と判断した。また、肝臓の発がん性評価は陰性であった。
In silicoおよびin vitroで遺伝毒性が明らかになった6-methoxyquinoline (6-MQ)について、肝遺伝毒性・発がん性中期包括試験法(GPGモデル)による評価を継続した。その結果、6-MQの肝発がん性評価は陰性であった。また、OECD TG488に準拠した6-MQのin vivo変異原性試験を実施し、本モデルにおける遺伝毒性評価の妥当性を確認した。
結論
香料の遺伝毒性と発がん性を同時に検証することを計画している本研究は、食品の安全性確保に資するものであり、成果は厚生労働行政の施策等に直接反映できると考える。Ames/QSARを活用した化学物質のアラート構造から安全性評価を進める研究は、効率的な香料を含む食品添加物の安全性確保を可能とする基盤構築となる。TK6試験によるAmes試験のフォローアップは、動物愛護管理法が定める3Rに直接資する研究となる。本研究におけるin vivo試験による評価は、精緻な発がん性予測を可能とする基幹技術となる。エピジェネティックな変化を誘発する化学物質の検出系の構築は、ゲノム安定性確保の観点から、より精緻に食品の安全性を評価可能とする。これら研究成果は、今後の香料の遺伝毒性と発がん性評価の精緻化と効率化に直接寄与するものと考える。
公開日・更新日
公開日
2024-09-12
更新日
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