ドライクリーニングからウェットクリーニングへの転換に関する研究

文献情報

文献番号
199700675A
報告書区分
総括
研究課題名
ドライクリーニングからウェットクリーニングへの転換に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
門脇 武博(全国クリーニング環境衛生同業組合連合会クリーニング綜合研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 健康地球研究計画推進研究事業
研究開始年度
平成7(1995)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
4,625,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、ドライクリーニングにおいて使用されている有機溶剤には、テトラクロロエチレン、石油系溶剤、フロン(CFC-113、1,1,1-トリクロロエタン)などがあるが、このうちフロンは平成8年に生産が全廃されたこともあり使用量は激減している。一方、テトラクロロエチレン及び石油系溶剤は逆に増加傾向にあるが、これらの有機溶剤は、その有害性による健康被害防止等の観点から、廃棄物の処理及び清掃に関する法律により特別管理産業廃棄物に指定されている。また、テトラクロロエチレンは、その腎毒性、肝毒性、蓄積性等により化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律により第2種特定化学物質に指定さるとともに、大気汚染防止法、水質汚濁防止法などの規制を受けている。しかし、これらの法規制の趣旨に反し、ほとんどのクリーニング所で、水洗いが可能なものまで、ひとまとめにドライクリーニングされており、そのため有機溶剤の使用量の抑制は困難な状況となっている。このため、クリーニング所におけるウエットクリーニング(取扱がドライクリーニングのみと表示された繊維製品を水洗いすること)の機会拡大を図り、ドライクリーニングによる有機溶剤の使用量を抑制し、健康被害や環境汚染防止に寄与することを目的とし、ウェットクリーニングの適用範囲や手法の検討を行い、クリーニング業者を対象としたウエットクリーニングの適用ガイドラインを作成する。
研究方法
平成7年~8年度に行った試験により、ウエットクリーニングは、ドライクリーニングに比し、洗浄力、収縮性、乾燥性、接着芯地への影響、風合い等に問題が伺われたが、このうち収縮性、接着芯地への影響、風合いについては、機械のドラム回転数、回転速度を調整することにより、かなり改善することが判明している。本年度は、これらの結果を踏まえ、以下の事項について検討を行った。
1 試験布による試験
ウェットクリーニングにおける、洗浄力の問題と収縮性等の問題に対する、洗濯方法等ソフト面での対応による解決
(1) 洗浄力改善の検討
洗浄力の改善を目的とし、温水を用いた場合の洗浄力、収縮率等への影響
(2) 収縮性、接着芯地への影響、風合い、しわ等に対する対策
防縮剤の使用、仕上げ処理(プレス又はアイロン等の処理)の効果
2 製品を用いた試験
取扱がドライクリーニングのみ(ウェットクリーニングは不可)と表示された背広やジャケット等の市販の繊維製品への応用
(1) 各種製品を対象とした乾燥方法及びその乾燥条件
(2) 各種製品を用いてのウェットクリーニングの実施
3 1~2の調査検討結果を基にした、ウェットクリーニングの適用ガイドラインの作成
結果と考察
1 試験布による試験
(1) 洗浄力の検討
洗浄温度を55℃に上げることによりドライクリーニングとほぼ同等の洗浄力を示したが、収縮率、しわの増加、表面の毛羽立ち等の問題が伺われた。
(2) 収縮性、接着芯地への影響、風合い、しわ等の検討
防縮剤の使用によりかなり改善が得られ、かつ仕上げにプレス又はアイロン等の処理を施すことにより、(1)の場合を含め十分な改善が得られた。
2 製品を用いた試験
(1) 製品を用いた乾燥方法及びその乾燥条件の調査
タンブラー(回転)乾燥とスチームボックス(吊下げ)乾燥の両者で検討を行った。タンブラー乾燥では毛羽立ちが認められるが、スチームボックス乾燥では、小じわが発生したが、仕上げで十分に修正が可能な程度であった。
(2) 各種製品を用いたウェットクリーニングの調査
取扱がドライクリーニングのみと表示された繊維製品63点について、事前に、収縮率、色の変化、しわ、パッカリング(型くずれ)、その他の外観変化について評価基準(収縮率、色の変化、しわ、パッカリング(型くずれ)、その他の外観変化について、客観的に判断して許容しうる範囲とした)を定め、実際にウェットクリーニングを行った。その結果、全項目について合格した製品は、63点中6点であった。
3 本試験の結果、ウェットクリーニングに不適と思われる製品
レーヨンフロックおよびレーヨン製ベロア,レーヨンを基布とする合成皮革、絹サテン地。なお、本試験では調査しなかったが、ウェットクリーニングに不適と判断されるものは、天然皮革、天然毛皮、和服及び和装品、天然繊維のしわ加工品及びプリーツ加工品、絹製ネクタイ等が考えられる。
3 本試験の結果より、次の項目及び内容から成るウェットクリーニングの適用ガイドラインを作成した。
(1) ウェットクリーニングの標準的な洗浄条件について
(2) ウェットクリーニングの標準仕上げ条件について
(3) ウェットクリーニング可能な繊維製品の適用範囲について
(4) 繊維製品に対するウェットクリーニング可否の判断基準について
結論
取扱がドライクリーニングのみと表示された繊維製品についても、次の事項に留意すれば、十分にウエットクリーニングが可能であると考えられる。
1 編物は変形、綿、麻はしわへの影響が大きいことより、 機械力(MA値)を低減した洗浄が必要であること
2 収縮、しわ、パッカリング、変形などは、乾燥状態になると修正が困難になることより、やや水分を残した状態での仕上げが必要であること。また、そのためには、乾燥する製品の選別処理(厚手、薄手、素材別など)が必要であること
3 ドライクリーニングに比し、ウェットクリーニングは収縮,しわ,パッカリングなどへの影響があるが、防縮剤の使用、プレス又はアイロン等の仕上げによりかなり改善すること
実際に市販繊維製品を使用した試験では、評価基準をすべてクリアーしたものは、63点中6点と1割程度であったが、参考のため、不合格の製品のうち33点につき、ドライクリーニングを行ったところ19点(約58%)が不合格であったため、評価基準が厳しすぎたことも影響しているものと思われ、1~3の事項に留意すれば、とくに装飾的な縫製がしてあるものや高級な衣料等を除けば、ウェットクリーニングも十分可能であることが伺われる。仮にこの6点について、すべてウェットクリーニングがなされたとすれば、テトラクロロエチレンの年間使用量8,000トンのうち約1,000トンが削減されると推定される。今後は、現在ドライクリーニングが行われている綿100%のシャツ等の水洗いの可能なものを含め、水洗いへの切り換えが推進されるよう、本試験で作成したガイドラインを基に、クリーニング業者に推奨していくとともに、現在一般的に使用されているクリーニングに関する機械は、乾燥処理やプレス等の仕上げ等ほとんどのものがドライクリーニングを対象に考案されたものであるので、ウェットクリーニングの場合も使用が簡便な機械の開発についても求めて行く所存である。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)