院内の医療安全管理体制を定量的に評価する指標の確立と実装を行う研究

文献情報

文献番号
202321054A
報告書区分
総括
研究課題名
院内の医療安全管理体制を定量的に評価する指標の確立と実装を行う研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22IA2002
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
長尾 能雅(国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学医学部附属病院 患者安全推進部)
研究分担者(所属機関)
  • 南須原 康行(北海道大学医学部・歯学部附属病院医療安全管理部)
  • 兼児 敏浩(三重大学 医学部附属病院)
  • 浦松 雅史(東京医科大学 医療の質・安全管理学分野)
  • 平松 真理子(三宅 真理子)(名古屋大学 医学部附属病院)
  • 梅村 朋(名古屋大学 医学部附属病院)
  • 植村 政和(名古屋大学医学部附属病院 患者安全推進部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
4,320,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究においては、これまでの医療安全教育およびリスク評価技術の研究成果を基に、医療安全評価指標を確立し、複数の医療機関で試験的に導入を行うとともに、本格的な社会実装に向けた検証を行う。また同時に当指標を医療安全専門の医師の配置前後で測定し、医療安全専門の医師が医療機関へ寄与する効果についても検証を行う。
研究方法
(1)医療安全に専門性を有する医師養成プログラムおよび中長期支援の継続実施
平成30年度より実施している最高質安全責任者(CQSO)養成プログラムを継続し、各医療施設において医療安全に専門性を有する医師を養成し、中長期な支援を継続実施する。

(2)複数施設のリスク評価
1年目に確立したリスク指標をもとに、複数施設のリスク指標を測定する。CQSO養成プログラム修了者またはASUISHI養成プログラム修了者の施設を測定対象とする。
今回は、施設全体ではなく事象を絞って施設間を比較する。事象は転倒転落と中心静脈カテーテル挿入事故とする。今回測定する施設は10施設である(図 23)。

(3)社会実装に向けた課題の抽出
多くの施設で当リスク評価を行うにあたっていくつか課題が予想される。リスク評価を実施した施設にアンケートを行い、実施にあたっての難点・要望・課題を収集し、社会実装に向けた課題を抽出する。

(4)対策立案
(3)で抽出された課題について対策を立案する。
結果と考察
【結果】
(1)医療安全に専門性を有する医師養成プログラムおよび中長期支援の継続実施
各講義の前後で受講生自身による到達度アンケートを行い(図 10)、いずれの受講生も講義全体で到達度が向上したと回答した(図 11)。
成績上位群と下位群で先の講義アンケートにどのような違いがあるかを調べた。(図 18、図 19)。その結果、「フリーディスカッションと知の創出」「問題解決実践」「基本確認行動・国際患者安全目標・対策の基本」等に大きな差があることがわかった。

(2)複数施設のリスク評価
測定事象を転倒転落に限定して複数施設を測定した結果が図 24~図 39である。
また、測定事象を中心静脈カテーテル挿入事故に限定して複数施設を測定した結果が図 41~図 54である。中心静脈カテーテル挿入事故のレポートを特定するにあたって数量化Ⅲ類を用いて図 40のマップを描き、縦赤線より右のエリアを対象エリアとした。

(3)社会実装に向けた課題の抽出
(4)対策立案
これまでのリスク量測定の試みにおいて、課題としておよそ下記のものが挙げられる(図 55)。
① リスク量測定の仕組みの理解
② 病院の業務形態による適用可否の判断
③ 組織の理解と同意
④ インシデントレポートデータのファイル出力
⑤ リスク量測定プログラムの操作
⑥ 測定結果のグラフ化
⑦ グラフの評価・解釈、改善活動への活用
プログラムの機能に関する課題④~⑥については、リスク量算出プログラムを更新し機能を追加した(図 56)。また、リスク量測定機能をもったインシデントレポートシステムの開発を行った(図 57~図 60)。このシステムは2024年4月から名大病院で稼働している。これらのプログラムをもって今後、リスク量測定が普及することを期する。

【考察】
・成績上位の受講生に特徴的な発言termを調べるため図 17の分析を行った。
・成績上位群と下位群でアンケート回答に大きな差が出た講義を把握した。医療安全管理者養成研修などのカリキュラム見直しにも活用される。
・数量化Ⅲ類の技術は特定事象のインシデントレポートのリスク測定に有効と考えられた。
・転倒転落、CVカテーテル挿入事故に限定して、複数施設を測定した結果、施設間ではスコアに差が出たが、施設内ではスコアの推移にあまり変動はなかった。
・他施設の測定にあたっては施設の同意が得られないこともあり、今後もリスク量の意義や概念の説明が必要である。また施設からレポートを持ち出さなくとも容易に測定可能なツールが必要である。
・リスク量測定機能を搭載したインシデントレポートシステムを開発し名大病院で無事稼動させることができている。今後は本格的な社会実装が期待される。
結論
・最高質安全責任者(CQSO)を実施し、第4期生8名を輩出するとともに、第5期生8名が令和6年6月に修了予定である。
・CQSO修了生に対して、修了後半年ごとにフォローアップ研修会を実施した。ASUISHI・CQSO修了生を含めて研究会を実施した。
・特定事象のインシデントレポートを精度良く抽出する技術を開発した。
・特定事象のインシデントレポートを対象として複数施設のリスク量測定を行った。
・リスク量測定技術を社会に実装すべく、各施設からインシデントレポートを持ち出さずリスク量を算出できるプログラムの改良、およびリスク量測定機能を搭載したインシデントレポートシステムを開発し、名大病院で本稼働した。

公開日・更新日

公開日
2024-07-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202321054B
報告書区分
総合
研究課題名
院内の医療安全管理体制を定量的に評価する指標の確立と実装を行う研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22IA2002
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
長尾 能雅(国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学医学部附属病院 患者安全推進部)
研究分担者(所属機関)
  • 南須原 康行(北海道大学医学部・歯学部附属病院医療安全管理部)
  • 兼児 敏浩(三重大学 医学部附属病院)
  • 浦松 雅史(東京医科大学 医療の質・安全管理学分野)
  • 遠山 信幸(自治医科大学 医学部)
  • 大川 淳(国立大学法人東京医科歯科大学 整形外科学)
  • 深見 達弥(名古屋大学医学部附属病院 患者安全推進部)
  • 平松 真理子(三宅 真理子)(名古屋大学 医学部附属病院)
  • 梅村 朋(名古屋大学 医学部附属病院)
  • 植村 政和(名古屋大学医学部附属病院 患者安全推進部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究においては、これまでの医療安全教育およびリスク評価技術の研究成果を基に、医療安全評価指標を確立し、複数の医療機関で試験的に導入を行うとともに、本格的な社会実装に向けた検証を行う。
また、公益通報を受け付ける窓口が、現状、どの程度設置されているか調査を行う。
研究方法
(1)医療安全に専門性を有する医師養成プログラムおよび中長期支援の継続実施
平成30年度より実施している最高質安全責任者(CQSO)養成プログラムを継続し、各医療施設において医療安全に専門性を有する医師を養成し、中長期な支援を継続実施する。

(2)リスク評価指標の確立
「過失があって患者に疾病が発生したインシデントレポートはゼロにすべきである」との考えに基づき、本研究におけるリスク指標を過失と重症度で設定する。2012年以降、名古屋大学病院の安全担当者が判定したデータを教師データとし、解析する。

(3)複数施設のリスク評価
(2)で確立したリスク指標をもとに、複数施設を測定する。今回測定する施設は10施設である。

(4)社会実装に向けた課題の抽出
リスク評価を実施した施設にアンケートを行い、社会実装に向けた課題を抽出する。

(5)対策立案
抽出された課題について対策を立案する。

(6)公益通報窓口設置に関する現状調査と対策の検討を行う。
結果と考察
【結果】
(1)医療安全に専門性を有する医師養成プログラムおよび中長期支援の継続実施
いずれの受講生も講義全体で到達度が向上していた。
成績上位群は「フリーディスカッションと知の創出」「問題解決実践」「基本確認行動・国際患者安全目標・対策の基本」等を重視していた。

(2)リスク評価指標の確立
「過失スコア×0.286+重症スコア×0.392」が導出された

(3)複数施設のリスク評価
転倒転落やCVカテーテル挿入事故など、特異的なリスク量の測定に成功した。

(4)社会実装に向けた課題の抽出
(5)対策立案
社会実装に向けた課題を抽出し、対策を行った。リスク量測定機能をもったインシデントレポートシステムを開発し、2024年4月から名大病院で稼働している。これらのプログラムをもって今後、広くリスク量測定の普及に努める。

(6)公益通報窓口設置に関する現状調査と対策の検討
公益通報窓口の設置状況について全国の1000施設(300床以上)にアンケート調査を行い、回答のあった258施設の内83施設(32%)が公益通報窓口を設置しており、221施設(86%)が何らかの通報方法があると回答した。

【考察】
・成績上位の受講生に特徴的な発言(term)を分析することで、さらに有益な情報を入手できる可能性がある。
・成績上位群は創造的な授業と基礎的な授業、双方を重視する傾向にあった。医療安全管理者養成研修などのカリキュラム見直しにも活用される。
・数量化Ⅲ類の技術は特定事象のインシデントレポートのリスク測定に有効と考えられた。
・転倒転落、CVカテーテル挿入事故に限定して、複数施設を測定した結果、施設間には差が生じており、施設内では経年的には大きな変化はなかった。リスク量は施設間比較や、経年推移の把握に有用と考えられる。
・他施設の測定にあたっては施設の倫理的手続きが課題となる。
・リスク量測定機能を搭載したインシデントレポートシステムを開発し名大病院で無事稼動させることができている。今後は本格的な社会実装が期待される。
・公益通報窓口が設置されている施設は約3割と少なかった。従業員数300人以上の施設まで含めると設置割合はもっと少ないと考えられ、さらなる周知が必要と考えられる。
・内部の通報窓口が整備されていない施設では外部の公益通報窓口が活用されていると考えられ、その周知等が重要である可能性がある。

結論
・最高質安全責任者(CQSO)を実施し、第4期生8名を輩出するとともに、第5期生8名が令和6年6月に修了予定である。
・CQSO修了生に対して、修了後半年ごとにフォローアップ研修会を実施した。ASUISHI・CQSO修了生を含めて研究会を実施した。
・特定事象のインシデントレポートを精度良く抽出する技術を開発した。
・特定事象のインシデントレポートを対象とした複数施設のリスク量測定に成功した。
・リスク量測定技術を社会に実装すべく、各施設からインシデントレポートを持ち出さずリスク量を算出できるプログラムとして改良した。さらに、リスク量測定機能を搭載したインシデントレポートシステムを開発し、名大病院で本稼働した。
・公益通報窓口の設置状況について全国の1000施設(300床以上)にアンケート調査を行い、回答のあった258施設の内83施設(32%)が公益通報窓口を設置しており、221施設(86%)が何らかの通報方法があると回答した。

公開日・更新日

公開日
2024-06-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202321054C

成果

専門的・学術的観点からの成果
・インシデントレポートと機械学習技術を連動させ、医療提供者集団における患者安全上のリスクを定量化する指標を世界で初めて開発した。
・「リスク量」の要素である、「重症量」と「過失量」の概念について、それぞれ国際誌に発表した。
・転倒転落、CVカテーテル挿入事故など、特定領域のリスクを視覚化し、比較・モニタンリングする技術を世界で初めて開発した。
・公益通報窓口の設置状況を調査し、現状や今後の対策について提言した。
臨床的観点からの成果
・患者安全に専門性を有する医師を16名養成し、日本の患者安全におけるエキスパートネットワークの構築に寄与した。
・受講者の討論内容を解析し、上位受講者の発言特徴を特定するとともに、上位者の重視するプログラムを特定することに成功した。
・転倒転落・CVカテーテル挿入事故に留まらず、今後様々な観点、領域の医療リスク測定と改善活動への応用が期待できる。
・リスク測定機能を搭載したレポートシステムを開発し、名古屋大学病院において無事、稼働させている。製品として商用展開することで、社会実装が期待される。
ガイドライン等の開発
・最高質安全責任者(CQSO)養成のための150時間プログラムが作成され、その授業映像がすべて保管されている。
・リスク量と連動したインシデントレポートシステムのプログラム・アルゴリズム・操作マニュアル等が整備された。
その他行政的観点からの成果
・医療機関のリスクや、特定領域のリスクを測定することで、行政指導や、中~長期的監視、モニタリング、医学教育等に繋げられる。
・医療機能評価機構や、医療安全調査機構が実施する対策の効果を定量的に示すことが可能となる。
・患者安全に成果を出せる人材養成のための授業コンテンツの提供、およびその成果測定が可能となる。また、既存のGRM養成研修の見直しや効率化などに貢献できる。
・医原性有害事象によって発生する余分な医療費の削減に貢献できる。
その他のインパクト
・リスクスコアおよびリスク偏差について日本および米国にて特許申請中

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
15件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
20件
各専門学会での教育講演、シンポジウム、多職種対象の講演会、安全管理者養成研修での講義など、多数。

特許

特許の名称
リスク評価システム、リスク評価方法およびコンピュータプログラム
詳細情報
分類:
特許番号: PCT/JP2020/040057
発明者名: 長尾能雅・植村政和・田辺公一
権利者名: 名古屋大学・名城大学
出願年月日: 20201026
国内外の別: 国外

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Haruhiro Uematsu, Masakazu Uemura, Yoshimasa Nagao et al
Development of a Novel Scoring System to Quantify the Severity of Incident Reports An Exploratory Research Study.
Journal of Medical System , 46 (106) , 3-8  (2022)
原著論文2
Haruhiro Uematsu, Masakazu Uemura, Yoshimasa Nagao et al
Development of a scoring system to quantify errors from semantic characteristics in incident reports.
BMJ Health & Care Informatics , 31  (2024)
10.1136/bmjhci-2023-100935

公開日・更新日

公開日
2024-06-24
更新日
-

収支報告書

文献番号
202321054Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,001,000円
(2)補助金確定額
5,000,935円
差引額 [(1)-(2)]
65円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 49,197円
人件費・謝金 1,938,370円
旅費 71,460円
その他 2,260,908円
間接経費 681,000円
合計 5,000,935円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2024-06-24
更新日
-