ビル等の衛生的環境の確保に関する研究「シックビル症候群に関する研究」

文献情報

文献番号
199700672A
報告書区分
総括
研究課題名
ビル等の衛生的環境の確保に関する研究「シックビル症候群に関する研究」
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
小川 博(財団法人ビル管理教育センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 健康地球研究計画推進研究事業
研究開始年度
平成7(1995)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
5,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ビル内において、シックビル症候群の発生を予防し、環境衛生上良好な状態を確保するため、「建築物における衛生的環境の確保に関する法律(以下「ビル衛生管理法」という。)」に基づき種々の施策が講じられているところであるが、この対象となる「特定建築物」以外のビルの衛生水準は明らかではない。近年、特定建築物以外のビルでレジオネラ症集団発生を疑わせる事例も生じたところであり、これらのビルの衛生面の実態・問題点等を調査研究し、ビルの衛生面の向上に資する。また、雑用水施設を設置しているケースも増えているが、それらの利用形態の実態、衛生面の確保の問題点等を把握し、それらを踏まえたビル内の雑用水利用の基準等を作成し、ビルの衛生水準の向上等に資する。さらに空調設備及び給水設備等の維持管理の向上方策について研究する。
研究方法
研究目的を達成するため、次の研究について各々研究班を組織し、具体的な実施方法を検討するとともに調査・研究を行った。
(1)特定建築物以外のビルの衛生的課題に関する研究としては、?10%規定により除外された建築物、?延床面積が3000?未満の建築物について、ビル衛生管理法の環境衛生管理基準に照らして、実態調査を実施し、特定建築物の環境と比較解析を行い問題点を整理し、衛生的環境の確保のための提言をすることとした。
(2)雑用水道設備等の維持管理基準等に関する研究としては、雑用水道設備、空調設備並びに給水設備等について、現状における衛生上の問題点を調査・抽出し、その対応策を検討することとした。
(3)建築物内のレジオネラ症対策に関する研究としては、現在、建築物の水関係設備全般に渡るレジオネラ汚染の問題が危惧されているため、レジオネラ属菌の検出方法、検出菌数の意義並びに各設備に則した維持管理方法を確立し、建築物内におけるレジオネラ症対策を提言する。
結果と考察
各研究結果並びに考察より以下の提言を得た。
(1)特定建築物以外のビルの衛生的課題に関する研究
a.10%除外規定はなくし、特定用途部分の延床面積が3000?を超えた場合は、非特定用途以外の部分を特定建築物に該当させる。理由として、?近年、10%規定により除外された建築物が大型化し、それに伴い特定用途部分の延床面積も拡大していること、?法の下の平等に反していること、?維持管理状況は必ずしも良いとは言えないこと。
b.3000?未満の法適用外ビルについては、特定建築物と比較して、衛生上の課題が多く見られ、行政上何らかの対策を講じることが必要である。ただし、維持管理の負担が大きくなりすぎないような配慮が必要であろう。理由として、?延床面積1000~3000?の建築物が特定建築物の相当数以上存在すること、?延床面積の規模が小さくなるほど維持管理の方法に問題があること、?書類検査、設備点検等に問題が大きいこと、?空気環境の温度、炭酸ガスを中心に不適率が高いこと。
c.共同住宅、病院等の施設についても特定用途の拡大が必要かどうかの検討を開始すべきである。
d.特定建築物の数の増大に伴う行政の対応を可能にするため、環境質レベルが高い建築物については立入検査の回数を軽減するなどの規制緩和が必要となろう。
(2)雑用水道設備等の維持管理基準等に関する調査研究
1)ビル内雑用水道設備の維持管理方法について
a.原水としては、汚水、厨房排水、洗面排水等の建築物内の処理水、工業用水、広域循環水、地区循環水などがあるが、水質、水量の安定、用途、使用形態を考慮して選定する。
b.用途は、水質の安全性、水量の安定性がある場合を除き、便所洗浄水のみとすること。ただし、手洗い付きトイレ及び洗浄便座付きトイレの洗浄水には使用しない。
c.原水として、雨水、湧水を使用する場合については、便所洗浄水を含め冷却塔の補給水、散水等に使用することは差し支えない。
d.散水、修景水などに用いる場合スプリンクラー、噴水等のエアロゾルが発生する用途には使用しない。  
e.水質は、利用上の不快感、維持管理上の水質基準確保のため、適切な指標を示す。
f.水質の維持管理をするため、原水、雑用水の定期的な測定および監視を実施する。
h.正常な運転状態を確保するため、定期的な保守、点検調整を実施する。
i.施設内における衛生害虫の発生を防止する対策を講じる。
2)空調設備の維持管理方法及び空気環境測定項目及び測定方法について
空気環境に関するビル衛生管理基準6項目全ての実測調査から判断して、概ね時間による変動は、大きくないか、あったとしても、基準値より低いレベルでの変動であり、3回測定を1回測定にしたために「不適」を「適」としてしまう可能性は殆どないといえる。これより、以下の条件を満足したビルについては、1日3回行う空気環境測定を1回としてもよいとする。条件としては、?十分な連続測定を行い、建築物特性を把握した上で、最も条件の悪くなる時間帯を1回測定の場合の測定時間とする、?新築・改築及び設備機器の更新あるいは室のレイアウト後は、3年間3回測定を継続し、その間の空気環境がビル衛生管理法の基準値以下であることが示されること、?立入検査の結果、環境衛生管理基準値を超えたり、監督官庁が必要と認めた場合には、3回測定に戻ること、?測定回数を緩和するか否かの判断は、その建築物に選任された建築物環境衛生管理技術者が上述の?~?を十分考慮した上で行うものとする。
3)給水設備の維持管理方法について
消毒実施時の槽内に発生する有害ガスの実態並びに消毒効果の実態は不明である。このため、今後、実態調査を行い、問題点を把握し、消毒剤の適正濃度及び作業安全対策等を検討することが必要がある。この検討をもとに、給水設備の現状と維持管理方法の実態に照合し、危機管理上問題のある施設を段階別に設定し、適正な清掃方法の分類化を提示する。
(3)建築物内のレジオネラ症対策に関する研究
建築物内のレジオネラ症対策を検討するため、これまでの調査研究文献ならびに各国の基準等を収集した調査結果より、現状で最も適切であると評価する対策を提言することとした。報告内容としては、まず対策の目的と適用範囲を明確にしたのち、レジオネラ症の基本的知識と防止対策を掲示した。次に、建築物内の各水利用施設毎に考慮すべき問題点とその防止対策を具体的に解説するため、各論として、給水・給湯設備、冷却塔・冷却水系、加湿器、水景施設、蓄熱槽並びに循環式渦流浴の順に列挙し、解説を加えた。
結論
今回の研究結果より、ビル衛生管理法に規定されていない施設並びに設備に関し、問題が山積していることが判明した。このため、各対象施設あるいは設備毎に適正な維持管理を図るための提言を導き出した。今後、この研究成果をもとに、次世紀を目指した建築物に係わる総合的な維持管理方法を構築し、より発展的なビル環境のシステムのあり方を確立することが重要である。

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