外傷患者に対する適切な救急医療提供体制の構築に資する研究

文献情報

文献番号
202321007A
報告書区分
総括
研究課題名
外傷患者に対する適切な救急医療提供体制の構築に資する研究
課題番号
21IA1013
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
大友 康裕(独立行政法人国立病院機構災害医療センター )
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
1,623,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国の外傷治療成績は、診療ガイドライン(病院前・初期診療)の開発とそのガイドラインに基づいた研修会の全国への普及によって有意に改善した[J Am Coll Surg. 2013]。現場レベルの診療が改善された一方、外傷患者に対する救急医療体制は、ドクターヘリの全国的普及以外、これと言った変革はなされていない。外傷患者のさらなる救命率改善のためには、救急体制の改革が求められる。本研究では、どのように外傷医療体制を構築するか、および受傷現場からどのような観点で搬送先の病院を選定するかについて解析することを目的とする。
研究方法
本研究はデータソースとして日本外傷データバンク(Japan Trauma Data Bank, JTDB)およびDiagnosis Procedure Combination(DPC)を用いた。今年度は、昨年度に実施した、元内閣総理大臣銃撃死亡を受けて実施した緊急アンケート調査(わが国の外傷診療体制,銃創対応を含む)を受けて、設問内容のブラッシュアップ・回答率の更なるアップおよび症例の転帰情報を有するJTDBとの紐付けを図り、再度アンケート調査を実施した。
日本航空医療学会全国症例登録システム(JSAS-R)に登録された症例のうち、1.外傷専門医(非専門医)施設へ搬送となった症例の特徴、2. 重症外傷(ISS≥16)に特化した場合の特徴および現場と外傷専門医施設, 非外傷専門医施設との距離と搬送先との関連、2. ISS≥16に限定した場合の現場と搬送先との関連について疫学的な記述を行った。
横浜市では全国に先駆けて行政が地域重症外傷センターを指定し、重症外傷症例の集約化することが、Preventable Trauma Deathを減らすことを見出してきた。今年度は予測生存率と実生存率を比較する後ろ向きコホート研究を行った。
結果と考察
全国の救命救急センターへの再度アンケート調査では、約8割の救命救急センターからの回答を得た。解析の結果、重症外傷の診療体制には施設間で大きな差異が存在し、特に平日日勤と夜間休日で手術・IVR・輸血の対応できる時間に違いがあり、今後整備が必要な可能性が高いことが判明した。今回の調査では、診療体制アンケート結果と症例の転帰情報を含むJTDB情報の突合を行い、患者個人レベルのデータから得られた施設の診療成績とアンケートで得られた診療体制との関連を調査した。ランダムフォレストでは施設パフォーマンスに影響する重要な診療体制を示した。主に体幹部外傷への体制整備(外科専門医数、体幹部緊急手術までの時間、外傷外科医の早期参集)、出血に対する体制整備(輸血までの時間、緊急血管内治療までの時間)が上位に存在した。頭部緊急手術開始までの時間も重要な変数であった。また救急専門医数、外傷専門医数、外傷トレーニングコース受講などの資格を有する医師の人数も重要な影響を及ぼすと考えられた。
JSAS-Rデータの解析では、「地域分散型の16県」、「専門施設集約型の11県」、「混在型の12県」に分類された。これら3型の特徴から、県面積が小さければ外傷専門施設への集約は可能であり、面積が大きい場合・地理的環境で地域が分断される場合は複数の専門施設が必要と考えられた。
横浜市地域重症外傷センターの研究では、現場から重症外傷センターへ搬送された傷病者の生存率が予測されたものより良好であることが明らかとなった。またそれは軽症から重症までのどのカテゴリでも同様の結果を認めた。つまり重症外傷の集約化については適切なプロトコルを決定し、それを運用することによって地域外傷診療の向上に寄与することが明らかとなった。今後他地域でも重症外傷を集約化していくことを推奨すべきと考える。
結論
今年度は、以下の研究成果が得られた。
全国の救命救急センターを対象とした外傷診療体制調査の結果から、患者の来院から緊急手術開始までの時間や、赤血球輸血開始までの最短時間には大きな施設間差異が存在した。平日日勤帯・夜間休日で時間での体制の違いも明らかになった。今後、外傷診療体制の重点化や重症外傷に対応できる体制の施設間のばらつきを減らす取り組みの強化が必要と思われた。項目の達成には多大なる人的資源を要することがわかった。昨年度までの検討では患者数が施設パフォーマンスに影響することも示されており、十分なマンパワーを有する施設が多くの重症外傷患者を診療することが好ましいと考えられる。これらの結果は重症外傷患者を集約化することの有効性を示唆している。
現場のフライトドクターには、重傷外傷患者をより専門の施設に搬送し、治療しようとする思考があり、地理的環境・地域医療配備状況で搬送先を選定している。
地域における重症外傷センター設置、集約化は治療成績の向上に寄与することが明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2024-08-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202321007B
報告書区分
総合
研究課題名
外傷患者に対する適切な救急医療提供体制の構築に資する研究
課題番号
21IA1013
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
大友 康裕(独立行政法人国立病院機構災害医療センター )
研究分担者(所属機関)
-
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202321007C

収支報告書

文献番号
202321007Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,109円
(2)補助金確定額
2,109円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 885,321円
人件費・謝金 0円
旅費 192,012円
その他 545,667円
間接経費 486,000円
合計 2,109,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2024-08-13
更新日
-