救急救命士が行う業務の質の向上に資する研究

文献情報

文献番号
202321006A
報告書区分
総括
研究課題名
救急救命士が行う業務の質の向上に資する研究
課題番号
21IA1012
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
坂本 哲也(帝京大学 医学部救急医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 畑中 哲生(健和会大手町病院)
  • 田邉 晴山(財団法人救急振興財団救急救命東京研修所 )
  • 水野 浩利(札幌医科大学医学部救急医学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
2,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成3年より運用されている救急救命士制度において、医学、医療の絶え間ない進歩・発展にともない救急救命処置の範囲についてもその状況に応じて適切に見直す必要があるなかで、厚生労働省の予算事業「救急救命処置検討委員会」において追加の検証が必要と評価された項目について、消防本部の協力を得ながら会議形式での議論、実態調査、前向き観察研究などにより課題の解決を行うことを目的として研究を行った。
研究方法
アナフィラキシーに対するアドレナリン製剤の筋肉内投与に関する研究では、れ前年度までに準備を進めてきた実際のアドレナリン投与は行わない形での前向き観察研究として、救急救命士によるアナフィラキシーの判断、およびアドレナリン適応の判断について搬送先医療機関の医師の判断を基準として正確さを比較する研究を実施した。
心肺停止に対する特定行為の包括指示化に関する研究においては、指示の方法に応じた効果と課題について、医師による具体的指示を都度要請する以外の方法として、「包括的指示」「具体的指示の事前指示」「具体的指示の一括指示」について整理し、それぞれの効果と課題につき検討した。
ビデオ硬性挿管用喉頭鏡による気道確保に関する研究では、消防本部に対してビデオ喉頭鏡の保有状況、教育の状況、チューブ誘導機能を有さないビデオ硬性挿管用喉頭鏡のニーズについて、現状を把握するためのアンケート調査を行った。
結果と考察
アナフィラキシーに対するアドレナリン製剤の筋肉内投与に関する研究について前向き観察研究を実施したところ、全搬送人員数のうち、搬送先医療機関の医師がアナフィラキシーと判断した事例は0.23%であった。救急救命士が観察カードを用いてアナフィラキシー判断を行い、医師の判断との比較ができた691例のうち救急救命士がアナフィラキシーであると判断したものは442例あり、医師もそう判断したものは369例、医師はそう判断しなかったものが73例あった。医師のアナフィラキシーの診断を基準として比較した場合、救急救命士による判断の正確性については感度73.8%、特異度99.97%、陽性的中率83.5%、陰性的中率99.9%であった。救急救命士がアナフィラキシーであると判断したが医師はそう判断しなかった73例について、盲検化のうえで日本アレルギー学会の専門医により再判定したところ、うち55例はアナフィラキシーであると判定された。また、救急救命士がアドレナリンの適応があると判断したが医師がアナフィラキシーでないと判断したものは7例あったが、専門家による再判定ではいずれもアナフィラキシーであると判定された。以上より救急救命士は観察カードなどを用いて適切に観察を行えば、アナフィラキシーやアドレナリンの適応を概ね正確に判断できると考えられるが、仮に実際に処置を実施する場合にはオンラインMCによる指示が必要で、また発生頻度の少なさから教育プログラムの充実も重要と考えられた。
心肺停止に対する特定行為の包括指示化に関する研究において、包括的指示については患者を特定しないままの指示となる点が他職種の特定行為との整合性の点で課題となった。「具体的指示の事前指示」は、通報内容から心肺停止を推定できる場合に現場到着前に医師の具体的指示を仰ぐことで処置実施までの時間短縮を図るものであり、包括的指示化が困難な場合には有効な指示方法となりうるが、事前指示についてもその判断根拠の制度上の扱いが課題であり、本研究班としては一定の結論を提示することを控えることとした。
ビデオ硬性挿管用喉頭鏡による気道確保に関する研究では、アンケート結果のとりまとめ後に結果の公表を行う予定である。使用実態を推し量る検討材料になりうると思われる。
結論
以上の研究結果より、救急救命処置検討委員会において実施検証が必要と評価された項目について本研究で検討し、知見の収集や実証実験の結果をふまえて、厚生労働省の定める「救急救命処置の範囲」を医療の進歩に応じたものに更新することが期待できる。

公開日・更新日

公開日
2024-06-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-06-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202321006B
報告書区分
総合
研究課題名
救急救命士が行う業務の質の向上に資する研究
課題番号
21IA1012
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
坂本 哲也(帝京大学 医学部救急医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 畑中 哲生(健和会大手町病院)
  • 田邉 晴山(財団法人救急振興財団救急救命東京研修所 )
  • 水野 浩利(札幌医科大学医学部救急医学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成3年より運用されている救急救命士制度において、医学、医療の絶え間ない進歩・発展に伴い救急救命処置の範囲についても適切に見直す必要があるなかで、厚生労働省の予算事業「救急救命処置検討委員会」において追加の検証が必要と評価された項目について、消防本部の協力を得ながら会議形式での議論、実態調査、前向き観察研究などにより課題の解決を行うことを目的とした。
研究方法
①心肺停止を対象とした「自動式人工呼吸器による人工呼吸」について、救急救命処置として追加する際の指示要件、救急救命士や救急隊による人工呼吸器の使用に関して厚生労働省の定める規定、消防庁の規定の状況を整理した。
②「乳酸リンゲル液を用いた静脈路確保のための輸液」「エピネフリンの投与」「食道閉鎖式エアウエイ、ラリンゲアルマスクによる気道確保」について、特定行為の指定を解除するにあたっての包括指示下で実施可能な範囲と具体的指示を必要とする範囲等の検討について、消防機関において指示要請に対して医師が介入した事例についての調査を実施し、プロトコルや教育カリキュラムについて検討した。また指示の方法として「包括的指示」「具体的指示の事前指示」「具体的指示の一括指示」について整理し、それぞれの効果と課題につき検討した。
③特定行為として「アナフィラキシーに対するアドレナリンの筋肉内投与」を追加するにあたっての、アナフィラキシーの判断基準、投与対象、必要な手順、ヒューマンエラーの防止策、必要な講習等の詳細の提示については、実際のアドレナリン投与は行わない形での前向き観察研究として、救急救命士によるアナフィラキシーの判断、およびアドレナリン適応の判断を搬送先医療機関の医師の判断と比較する観察研究を実施した。
④「特定在宅療法継続中の傷病者の処置の維持」の見直しについて、在宅療法継続中の傷病者の気管切開チューブ事故抜去事例に対するチューブの再挿入に関しての実際のプロトコール作成を念頭においた課題の抽出、平成4年の救急救命処置検討委員会報告書の見直しに向けた現況の把握と課題の抽出を行った。
⑤ビデオ硬性挿管用喉頭鏡による気道確保について、消防本部に対してビデオ喉頭鏡の保有状況、教育の状況、チューブ誘導機能を有さないビデオ硬性挿管用喉頭鏡のニーズについて現状把握のためのアンケート調査を行った。結果のとりまとめ後に結果の公表を行う。
結果と考察
②特定行為の包括指示化に関する研究において、消防機関において指示要請に対して医師が介入した事例の調査では、静脈路確保の6.1%、エピネフリン投与の10.1%、器具による気道確保の6.7%で具体的指示に際して医師の介入があったが、基礎疾患の状況等に応じた特定行為の差し控えや薬剤投与量に関する介入が大半を占め、プロトコル違反を原因としたものはなかった。指示の方法についての検討では、包括的指示については患者を特定しないままの指示となるため他職種の特定行為との整合性の点で課題となった。「具体的指示の事前指示」は、通報内容から心肺停止を推定できる場合に現場到着前に医師の具体的指示を仰ぐものであり、包括的指示化が困難な場合には有効な指示方法となりうるが、事前指示の判断根拠の制度上の扱いが課題であり、本研究班としては一定の結論を提示することを控えることとした。
③アナフィラキシーに対するアドレナリン筋肉内投与に関する研究において前向き観察研究を実施したところ、救急救命士が観察カードを使用して行った判断を医師による診断を基準として比較した場合、救急救命士によるアナフィラキシーの判断は感度73.8%、特異度99.97%、陽性的中率83.5%であった。救急救命士が観察カードを使用してアナフィラキシーであると判断した442例のうち、医師はそう判断しなかったものが73例あった。その73例について、盲検化のうえで日本アレルギー学会の専門医により再判定したところ、うち55例はアナフィラキシーであると判定された。また救急救命士がアナフィラキシーかつアドレナリンの適応と判断したが医師がアナフィラキシーでないと判断したものは7例あったが、専門家の再判定ではいずれもアナフィラキシーであると判定された。以上より救急救命士は観察カードなどを用いて適切に観察を行えば、アナフィラキシーやアドレナリンの適応を概ね正確に判断できると考えられるが、仮に実際に処置を実施する場合にはオンラインMCによる指示が必要であると考えられた。
結論
以上の研究結果より、救急救命処置検討委員会において実施検証が必要と評価された項目について本研究で検討し、知見の収集や実証実験の結果をふまえて、厚生労働省の定める「救急救命処置の範囲」を医療の進歩に応じたものに更新することが期待できる。

公開日・更新日

公開日
2024-06-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-06-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202321006C

収支報告書

文献番号
202321006Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,509,000円
(2)補助金確定額
3,509,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 130,394円
人件費・謝金 1,141,184円
旅費 271,636円
その他 1,156,786円
間接経費 809,000円
合計 3,509,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2024-06-05
更新日
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