プリオン病2次感染に対する現実的滅菌法の開発研究

文献情報

文献番号
200936008A
報告書区分
総括
研究課題名
プリオン病2次感染に対する現実的滅菌法の開発研究
課題番号
H19-難治・一般-009
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
北本 哲之(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 毛利 資郎(農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所)
  • 秋田 定伯(長崎大学病院)
  • 太組 一朗(日本医科大学武蔵小杉病院)
  • 大久保 憲(東京医療保健大学・医療情報学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
29,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
プリオン病の2次感染に対する現実的滅菌法を樹立することが本研究の目的である。
研究方法
1.各種滅菌法のヒト・プリオンでの検討
ヒト・プリオンとしてsCJD MM1を用いて、その脳乳剤中にステンレススチールワイヤー(SSW)を入れて汚染させ、その後SSWを乾燥させてからヒト型ノックインマウスの脳内に埋め込んだ。感染実験に用いたノックインマウスは、ヒトとマウスのキメラ型の遺伝子導入マウス(Ki-ChMマウス)を使用した。
2.各種滅菌法による手術器具の摩耗の検討
SDS煮沸法とアルカリ処理などによるステンレス注射針の劣化の研究を行った。
結果と考察
(1)end-point titrationとして、MM1の脳乳剤を10-8まで希釈したが、ホモジネートでは10-4希釈で全動物が発病したが、10-6希釈で1匹発病が認められたに過ぎないが、SSW実験では10-6希釈ではすでに全動物が発病し、10-7や10-8でも1匹発病している。つまり、SSWでの汚染の方が微量で感染が成立することが明らかになった。
(2)現在単独処理の滅菌法としては、アルカリ処理、SDS処理、オートクレーブ処理があげられる。オートクレーブでは、121℃20分が251±27日(6/6)、134℃20分が250±51日(6/6)、1N NaOH処理が256±4日(6/6)、SDS処理が278±20日(6/6)で全動物が発病した。残念ながら、単独処理ではSSW汚染を完全に除去できないことが明らかとなった。
(3)異なる滅菌法を組み合わせることは有効であるという事実である。アルカリ処理+オートクレーブ処理、SDS処理+オートクレーブ処理を組み合わせることで感染性を確実に低下させることができることが明らかとなった。
結論
滅菌効果の確認のための感染実験に関しては、SDS処理も含めて全ての試みた単独処理による確実なプリオン滅菌は不可能であった。この単独処理が不完全滅菌という事実を健康危機情報として報告する。さらに、本研究で、異なる滅菌処理を組み合わせることにより、滅菌効果を劇的に上昇させることが明らかになった。さらに、どのコンビネーション処理が完全な滅菌効果に至るのか検討する必要性が出てきた。

公開日・更新日

公開日
2010-05-24
更新日
-

文献情報

文献番号
200936008B
報告書区分
総合
研究課題名
プリオン病2次感染に対する現実的滅菌法の開発研究
課題番号
H19-難治・一般-009
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
北本 哲之(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 毛利 資郎(農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所 プリオン病研究センター)
  • 秋田 定伯(長崎大学病院)
  • 太組 一朗(日本医科大学武蔵小杉病院)
  • 大久保 憲(東京医療保健大学・医療情報学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
プリオン病の2次感染に対する現実的滅菌法を樹立することが本研究の目的である。
研究方法
1.各種滅菌法のヒト・プリオンでの検討
ヒト・プリオンとしてsCJD MM1を用いて、その脳乳剤中にステンレススチールワイヤー(SSW)を入れて汚染させ、その後SSWを乾燥させてからヒト型ノックインマウスの脳内に埋め込んだ。感染実験に用いたノックインマウスは、ヒトとマウスのキメラ型の遺伝子導入マウス(Ki-ChMマウス)を使用した。
2.各種滅菌法による手術器具の摩耗の検討
SDS煮沸法とアルカリ処理などによるステンレス注射針の劣化の研究を行った。
結果と考察
(1)end-point titrationとして、MM1の脳乳剤を10-8まで希釈したが、ホモジネートでは10-4希釈で全動物が発病したが、10-6希釈で1匹発病が認められたに過ぎないが、SSW実験では10-6希釈ではすでに全動物が発病し、10-7や10-8でも1匹発病している。つまり、SSWでの汚染の方が微量で感染が成立することが明らかになった。
(2)現在単独処理の滅菌法としては、アルカリ処理、SDS処理、オートクレーブ処理があげられる。オートクレーブでは、121℃20分が251±27日(6/6)、134℃20分が250±51日(6/6)、1N NaOH処理が256±4日(6/6)、SDS処理が278±20日(6/6)で全動物が発病した。残念ながら、単独処理ではSSW汚染を完全に除去できないことが明らかとなった。
(3)異なる滅菌法を組み合わせることは有効であるという事実である。アルカリ処理+オートクレーブ処理、SDS処理+オートクレーブ処理を組み合わせることで感染性を確実に低下させることができることが明らかとなった。
結論
滅菌効果の確認のための感染実験に関しては、SDS処理も含めて全ての試みた単独処理による確実なプリオン滅菌は不可能であった。この単独処理が不完全滅菌という事実を健康危機情報として報告する。さらに、本研究で、異なる滅菌処理を組み合わせることにより、滅菌効果を劇的に上昇させることが明らかになった。さらに、どのコンビネーション処理が完全な滅菌効果に至るのか検討する必要性が出てきた。

公開日・更新日

公開日
2010-05-24
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ヒトのCJDプリオンを用いてその滅菌効果を直接示した研究は、ほとんど例がなく本研究の結果は学術的に貴重である。さらに、従来は単一処理でも滅菌できると考えられていた滅菌法が、それ単独処理では不完全な滅菌効果しかないことを明らかとした。さらに、SDS処理とオートクレーブ処理など、異なる滅菌処理を組み合わせることで飛躍的に滅菌効果が上がることを世界で初めて明らかにした。
臨床的観点からの成果
現実に使用できる滅菌法として、SDS処理、オートクレーブ処理、アルカリ処理を検討したが、どの程度手術器具の摩耗が生じるのかを本研究で検討した。SDS処理では蒸留水による煮沸と比較して、ステンレス針の摩耗がほとんど起こらないことを明らかにした。一方、アルカリ処理ではステンレス針の摩耗が起こることを示した。臨床状手術器具の摩耗がSDS処理で問題とならないことを明らかとした。
ガイドライン等の開発
研究期間内に、ガイドラインの開発はなかった。しかしながら、2種類の滅菌処理法の組み合わせが有効であることが残りのマウスの感染実験観察期間で明らかになった後、公衆衛生審議会にはかり、CJDのガイドラインの改訂を行う予定である。
その他行政的観点からの成果
ヒト・プリオンの滅菌法が、現時点で利用可能な方法を組み合わせることによって得られたという成果は意義深い。
その他のインパクト
特になし。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
36件
その他論文(和文)
30件
その他論文(英文等)
19件
学会発表(国内学会)
27件
学会発表(国際学会等)
20件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kobayashi A, Sakuma N, Matsuura Y, etal.
Experimental verification of a traceback phenomenon in prion infection.
J. Virol. , 84 (7) , 3230-3238  (2010)
原著論文2
Hizume M, Kobayashi A, Mizusawa H, etal.
Amino acid conditions near the GPI anchor attachment site of prion protein for the conversion and the GPI anchoring.
Biochem.Biophys.Res. Commun. , 391 , 1681-1686  (2010)
原著論文3
Y. Shimizu, Y. Ushiki-K, Y. Iwamaru, etal.
A novel anti-prion protein monoclonal antibody and its single-chain fragment variable derivative with ability to inhibit abnormal prion protein accumulation in cultured cells.
Microbiol. Immunol. , 54 (2) , 112-121  (2010)
原著論文4
Hizume M, Kobayashi A, Teruya K, etal.
Human Prion Protein (PrP) 219K is converted to PrPSc but shows heterozygous inhibition in variant Creutzfeldt-Jakob disease infection.
J Biol Chem. , 284 , 3603-3609  (2009)
原著論文5
Hamaguchi T, Noguchi-Shinohara M, Nozaki I, etal.
Medical procedures and risk for sporadic Creutzfeldt-Jakob disease, Japan, 1999-2008.
Emerg Infect Dis. , 15 (2) , 265-271  (2009)
原著論文6
Hiraga C, Kobayashi A, Kitamoto T.
The number of octapeptide repeat affects the expression and conversion of prion protein.
Biochem Biophys Res Commun. , 382 , 715-719  (2009)
原著論文7
Yamada M, Noguchi-Shinohara M, Hamaguchi T, etal.
Dura mater graft-associated Creutzfeldt-Jakob disease in Japan: Clinicopathological and molecular characterization of the two distinct subtypes.
Neuropathology. , 29 , 609-618  (2009)
原著論文8
S. Fukuda,Y. Iwamaru, M. Imamura, etal.
Intraspecies transmission of L-type-like bovine spongiform encephalopathy detected in Japan.
Microbiol. Immunol. , 53 , 704-707  (2009)
原著論文9
Masujin K, Shu Y, Okada H, etal.
Isolation of two distinct prion strains from a scrapie-affected sheep.
Arch. Virol. , 154 , 1929-1932  (2009)
原著論文10
Yokoyama T, Masujin, K, Iwamaru Y, etal.
Alteration of the biological and biochemical characteristics of bovine spongiform encephalopathy prions during interspecies transmission in transgenic mice models.
J. Gen. Virol. , 90 (1) , 261-268  (2009)
原著論文11
Iwasaki Y, Mimuro M, Yoshida M, etal.
Clinicopathologic characteristics of five autopsied cases of dura mater-associated Creutzfeldt-Jakob disease.
Neuropathology. , 28 (1) , 51-61  (2008)
原著論文12
Ikeda S, Kobayashi A, Kitamoto T.
Thr but Asn of the N-glycosylation sites of PrP is indispensable for its misfolding.
Biochem Biophys Res Commun. , 369 (4) , 1195-1198  (2008)
原著論文13
Kobayashi A, Arima K, Ogawa M, etal.
Plaque-type deposition of prion protein in the damaged white matter of sporadic Creutzfeldt-Jakob disease MM1 patients.
Acta Neuropathol. , 116 (5) , 561-566  (2008)
原著論文14
Noguchi-Shinohara M, Hamaguchi T, Kitamoto T, etal.
Clinical features and diagnosis of dura mater graft associated Creutzfeldt Jakob disease.
Neurology. , 69 , 360-367  (2007)
原著論文15
Kobayashi A, Asano M, Mohri S, etal.
Cross-sequence transmission of sporadic Creutzfeldt-Jakob disease creates a new prion strain.
J Biol Chem. , 282 , 30022-30028  (2007)
原著論文16
Shiga Y, Satoh K, Kitamoto T, etal.
Two different clinical phenotypes of Creutzfeldt-Jakob disease with a M232R substitution.
J Neurol. , 254 (11) , 1509-1517  (2007)
原著論文17
Yoshioka M, Murayama T, Miwa T, etal.
Assessment of Prion Inactivation by a Combined Use of 4 Bacillus-derived Protease and SDS.
Biochemistry & Molecular Biology. , 71 (10) , 2565-2568  (2007)
原著論文18
Murayama Y, Yoshioka M, Okada H, etal.
Urinary Excretion and Blood Level of Prions in Scrapie Infected Hamsters.
Journal of General Virology. , 88 , 2890-2898  (2007)
原著論文19
Suyama K, Yoshioka M., Akagawa M, etal.
Assessment of Prion Inactivation by Fenton Reaction Using Protein Misfolding Cyclic Amplification and Bioassay.
Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry. , 71 (8) , 2069-2071  (2007)
原著論文20
Suyama K, Yoshioka M., Akagawa M., etal.
Prion inactivation by the Maillard reaction.
Biochem Biophys Res Commun. , 356 , 245-248  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-