文献情報
文献番号
202321004A
報告書区分
総括
研究課題名
在宅医療を必要とする患者像の検討と地域特性に合わせた在宅医療提供体制の構築に関する研究
課題番号
21IA1010
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
田宮 菜奈子(国立大学法人筑波大学 医学医療系 / ヘルスサービス開発研究センター)
研究分担者(所属機関)
- 佐方 信夫(国立大学法人筑波大学 医学医療系ヘルスサービスリサーチ分野)
- 飯島 勝矢(国立大学法人 東京大学 高齢社会総合研究機構/未来ビジョン研究センター)
- 川越 雅弘(公立大学法人埼玉県立大学 大学院保健医療福祉学研究科)
- 石崎 達郎(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所)
- 金 雪瑩(キン セツエイ)(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター)
- 伊藤 智子(国立大学法人筑波大学 医学医療系)
- 孫 瑜(ソン ユ)(筑波大学 医学医療系)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
1,726,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
令和5年度においては、本研究の実施基軸3点のうち、①データ分析において「COVID-19パンデミック前後の在宅死の割合の変化を検討し、関連する因子を明らかにすることを目的とした」研究を行った(研究1)。また本研究課題の研究期間最終年度にあたり、本研究課題に対する総括的示唆を得ることを目的に、在宅医療の現状の実態把握と今後の在宅医療における必要な施策を検討する視点等から、在宅医療や高齢者医療に関する深い知見を有する有識者で、多角的な議論を行った(研究2)。
研究方法
(研究1)オープンデータを用いて、2015年から2021年までの全死亡に占める在宅死の割合を記述した。また、市町村レベルのデータを用いて、2019年から2021年までの在宅死の割合の増加に関連する要因を検討した。従属変数は、2019年から2021年までの在宅死の割合の絶対変化とした。独立変数には、各自治体の2019年の在宅死割合、高齢者人口あたりの医療資源および介護施設、人口密度、COVID-19の累積症例数を用いた。各変数を標準化し、多変量線形回帰分析を行った。(研究2)2023年10月23日(月)15時~16時半に、Zoomにて研究班会議を開催し、本研究班におけるこれまでの研究成果を元にディスカッションを行った。研究成果の報告は、孫分担研究者よりデータ分析結果について、伊藤分担研究者よりレビュー結果およびヒアリング調査結果について行われた。各報告の後、参加者より成果に関する質問がなされた。また参加者より各自視点に基づいた見解が述べられた。
結果と考察
(研究1)2015年、2019年、2021年の在宅死亡の割合はそれぞれ12.7%、13.6%、17.2%であり、COVID-19パンデミック後に在宅死割合が増加したことが示された。1,696市町村を対象とした多変量線形回帰分析では、従来型在宅療養支援診療所・病院(β係数[95%信頼区間(CI)]、0.19[0.01–0.37])、機能強化型在宅療養支援診療所・病院(0.53[0.34–0.71])、訪問看護師数(0.26[0.06–0.46])、人口密度(0. 44[0.21–0.67])、COVID-19の累積症例数(0.49[0.27–0.70])は在宅死の増加と正の関連を示したが、介護老人福祉施設定員の病床数(-0.55[-0.74–-0.37])、2019年の在宅死割合(-1.24[-1.44–-1.05])は負の関連を示した。(研究2)在宅医療は、高齢化社会における持続可能な医療システムを構築する上で極めて重要である。しかし、その普及と効果的な実施には多くの課題が残っている。リスクスコアリングシステムの精度向上や地域間格差の是正、機能強化型在宅医療の拡充が必要とされている。また、効率的な医療資源の活用と患者満足度の両立には、各職種の役割の再定義と多職種連携が不可欠であり、家族の負担や経済的アクセスも考慮しながら支援を強化すべきである。地域包括ケアシステムの進化を目指し、地域ごとの柔軟なアプローチと小規模プロジェクトを取り入れることで、実践的な医療介護連携のモデルを形成できると期待される。今後、在宅医療の持続可能な発展には、地域間連携の強化と各ステークホルダーとの連携による具体的な行動計画の策定が必要である。医療サービスの経済的アクセス改善や情報共有システムの整備を進めることで、効率的かつ質の高い在宅医療の普及が期待される。研究1と2の結果に基づいた総括的考察を述べる。研究1において、COVID-19パンデミックにおいては、病床不足や入院施設の面会制限により、希望する看取りの場所が変化した影響が大きかった可能性が考えられた。また、その在宅での看取りには、機能強化型在支診・在支病が受け皿になっていたことが示唆された。一方で、従来型在支診・在支病は外来診療の延長としてソロプラクティスの医師が在宅医療を実施していることが多いことを背景に、在宅医療の提供を拡大することが難しかったとみられた。しかし機能強化型在支診・在支病においても、人口密度によって格差があることが示された。その結果、終末期医療において重要な役割を果たす機能強化型在支診・在支病が少なくなっていると考えられる。こうした実態に対し、研究2においては、参加有識者の意見より、機能強化型在支診・在支病を広く展開するには多くの障壁があると考えられており、機能強化型在宅支援診療所の普及に向けては多くの医療機関が機能強化型在宅支援診療所・病院を採用できるよう支援の強化が必要と考えられた。
結論
在宅での看取りにおいては機能強化型在支診・在支病の格差ない配置が必要であることが示唆され、そのためには多くの医療機関が機能強化型在支診・在支病を採用できるよう支援の強化が求められると考えられた。
公開日・更新日
公開日
2024-05-31
更新日
-