文献情報
文献番号
202321002A
報告書区分
総括
研究課題名
データ駆動で地域の実情に応じて医療提供体制構築を推進するための政策研究
課題番号
21IA1005
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
今中 雄一(京都大学 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 國澤 進(京都大学 医学研究科)
- 原 広司(横浜市立大学 国際商学部)
- 林田 賢史(産業医科大学 大学病院)
- 猪飼 宏(京都府立医科大学 附属病院)
- 廣瀬 昌博(神戸大学 医学部)
- 佐々木 典子(京都大学 医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
4,720,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は、多種多様なデータ(NDBデータ、病床機能報告、DPCデータほか)を活用して、地域医療計画や地域医療構想を含む地域の実情に応じた医療提供体制構築を推進する政策に役立つ指標・ツール・エビデンス等を創出することである。そのために(1)病床機能報告による病床機能評価指標の研究開発と全国諸地域での実測、(2)地域医療の質指標の研究開発と全国諸地域での実測。(3)感染症対応を含む地域医療システム構築に向けてパンデミックの健康・医療への影響の把握、(4)機能分化・機能連携推進取組みの評価、病院の再編・統合に関する知見の創出、そして(5)地域における災害時のサージキャパシティとBCPの評価を某県の10災害拠点病院の情報について病院と地域のレベルの分析を行う。
研究方法
(1)病床機能報告を用いて病床機能の定量的指標を開発し、全国の都道府県での人口当たり医療機能別病床数の分布を分析した。(2)脳梗塞と急性心筋梗塞を中心として、二次医療圏毎の「地域医療の質指標」(地域QI)をNDBを用いて開発・改訂し、同指標について7年間経時的に分析した。集団軌跡モデリングによる分析も行った。(3)地域医療システムの感染症対応に関しては、多施設DPCデータを用いて、COVID-19まん延初期の医療の各側面へのインパクト、制度政策への影響、長期化しているCOVID-19の影響などについて分析した。(4)地域医療システムにおける医療連携と医療提供の質・効率との関係性を調べるため、某県6年分の国民健康保険・後期高齢者医療制度レセプトデータを用いて、大腿骨頸部骨折による入院記録がある症例の入院・外来データを抽出し、医療機関間連携についてネットワーク分析を行った。また、公立病院の再編・統合の二次医療圏内住民の入院数への影響をみる分析を行った。(5)地域における災害時のサージキャパシティとBCPの評価を、某県の10災害拠点病院の調査報告書内容を用いて、病院と地域のレベルで再分析を行った。
結果と考察
(1)①高度高密度急性期、②高密度急性期、③急性・亜急性期混在、④非急性期のうち、①は地域間でばらつきが少なかった一方で、③は最も大きくばらつき、④も大きくばらついた。(2)急性心筋梗塞に対する経皮的冠動脈形成術(PCI)実施割合は全体に指標値の底上げを認め、地域間ばらつきの減少を認めた。集団軌跡モデリングによる分析では、急性心筋梗塞のPCI実施割合は多くの医療圏において大きな変化がなかった(2014~2020年度)が、少数の医療圏では同割合の増加を認め、循環器チームが形成されつつあると推察された(一部の地域では不安定)。(3)コロナ禍下の地域医療において、脆弱性骨折の患者数は、2020/4/7緊急事態宣言の対象となった7都府県でその宣言から減少(直後に減少しその後も減少傾向)し、4/16に宣言の対象となった残りの道府県でもこの2回目の宣言後に減少(ただし直後の減少のみ)が見られ、活動自粛の影響が示唆された。また「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き」の公表でステロイドの中でもデキサメタゾンの具体的な推奨によりそのCOVID-19入院患者への処方が増え意思決定への効果が示唆された。(4)入院した医療機関のネットワーク上の中心性と患者入院日数は負の関係を示し、医療連携が強い医療機関の入院患者は短期間で退院していることが示された。さらに、脳梗塞症例のネットワーク解析では、二次医療圏を超えた合理的な機能分担をなす病院のコミュニティが明らかとなった。このように、ネットワーク分析により地域医療システムにおける医療機関間との連携・機能分担のあり方、効率性との関連を示した。また、公立病院再編・統合の前後において、平均月間入院患者数は、当該二次医療圏において、被保険者の圏外への入院が1,600人⇒1,449人へと減少、圏内への入院が1,213人⇒1,558人へと増加し、県外への入院を上回り手術件数も同様であった(被保険者10万人当たり)。再編統合の効果が定量的に明らかとなった。(5)災害時のサージキャパシティが72時間後でも確保できない地域の存在や、災害拠点病院群のBCPの要改善ポイントが明らかになった。また地域と病院の災害時サージキャパシティとBCPの一評価方法を開発した。
結論
地域の医療提供の実態を、疾患別のパフォーマンス、連携・ネットワーク、および機能区分別の病床確保状況等について、定量的に見えるようにし、地域の実情に応じた医療提供体制構築の推進に向けて、各種指標・ツールを開発し、知見を得た。地域の医療実態を疾患・領域ごとにデータに基づき把握し、地域医療計画等諸計画に活かすためのいくつかの手法を示すことができた。
公開日・更新日
公開日
2024-05-31
更新日
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