化学物質の健康リスク評価手法に関する研究

文献情報

文献番号
199700669A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質の健康リスク評価手法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
大森 義仁(東京慈恵会医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 黒川雄二(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 井上達(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 大野泰雄(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 高橋道人(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 祖父尼俊雄(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 中舘正弘(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 安藤正典(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 神沼二真(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 健康地球研究計画推進研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
15,273,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、化学物質の人の健康に対するリスクを評価するために必要な基礎的な研究を行うもので新しいBiomarkerを用いた有害性確認に関する研究、健康リスク評価のための毒性試験法の改良、開発及び作用機序を含めた試験結果の評価法に関する研究並びに暴露及び予測手法の開発、応用に関する研究及びリスクアセスメントに関連した情報提供システムの開発研究により健康リスク評価に寄与することを目的としている。
研究方法
各分担研究者の研究方法を以下に概説する。(1)毒性学的手法を用いたスクリ-ニング毒性評価に関する研究:様々な遺伝子改変動物にアポトーシス誘導物質を投与し、その発現経路解明の可能性を解析すると共に、我々が開発したBUUV法を用いて、c-myc遺伝子トランス・ジェニックマウスの造血幹細胞動態を解析した。(2)薬理学的手法を用いたスクリ-ニング毒性評価に関する研究:神経性の流涎を測定するため、FOB:(Functional Observational Battery)を用いると共に、ろ紙浸透拡散法、スケール付実体顕微鏡瞳孔観察法、血清中コリンエステラーゼ活性測定を組み合わせることにより、有機リン系農薬とカルバメート系農薬の作用を比較検討した。(3)病理学的手法を用いたスクリ-ニング毒性評価に関する研究:ラット肝二段階発癌モデルを用い、CYPの誘導部位とGJICの抑制部位との関連性を明らかにするため、肝についてCYPアイソザイムの免疫ブロッテングを行うと共に、GJIC蛋白であるコネクシン32 (Cx32) および各種CYPアイソザイムの免疫組織化学を実施した。(4)変異遺伝学的手法を用いたスクリ-ニング毒性評価に関する研究:MGMTの閾値形成における役割について検討するため、in vitro処理したDNAをin vitro packagingを行い、大腸菌SCS-8株、MGMT欠損株、MGMT欠損recA+株へ感染させ、lacI-変異体プラークの出現頻度を調べた。(5)データベースを基盤としたスクリ-ニング毒性評価に関する研究:「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」に基づいて実施されている約1000物質のスクリーニング試験結果からジフェニルメタン誘導体、精巣、卵巣、コレステロール、甲状腺をキーワードにして検索を行った。(6)化学物質の人体暴露評価手法に関する研究:室内空気中に検出される揮発性化合物(VOCs)について、室内での発生源と空気環境で問題となる化学物質及び室内空気中で確認されている化学物質を調査した。(7)中毒事故及び緊急・災害時における情報システムに関する研究:化審法、毒劇法、水道法、有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律について、規制対象となる化学物質名と規制内容をWebホームページからアクセスできるようした。また、前年度までに作成した「化学物質による被害防止ホームページ」を公開ページとした。
結果と考察
(1)毒性学的手法を用いたスクリ-ニング毒性評価に関する研究:遺伝子改変動物にアポトーシス誘導物質を投与して、p53遺伝子ノックアウトマウスやチオレドキシントランスジェニックマウスを使用し、解析する方法が、各標的分子依存性および非依存性という、アポトーシス発現経路解明に向け、有用である可能性が示唆された。また、細胞増殖を指標とした、幹細胞系の細胞周期解析の実験法として、BUUV法、すなわちブロモデオキシウリジンの取り込みと近紫外線照射によるDNA合成期幹細胞の淘汰法を開発し、さらにこの方法を遺伝子改変動物に適用することで
、造血幹細胞動態とその機序を探索できることが示唆された。(2)薬理学的手法を用いたスクリ-ニング毒性評価に関する研究:Trichlorfon (TRF)群に比べてOxamyl(OXM)群の方がChE 活性抑制作用は弱く、TRF群に比べてOXM群の方が流涎発現作用は強く、また、瞳孔直径への影響では、OXM群の方がTRF 群に比べ作用が強いと考えられた。Open Field内のRearing 回数では、OXM群の方が、Rearing 回数の抑制が強く表れていた。FOBによる症状観察において、流涙は両群で同程度であったが、痙攣はTRF 群の方が、振戦と多尿はOXM 群の方が発現作用が強いと考えられた。OXMの作用は、早く回復しているが、流涎や縮瞳が 180分においても認められているので、中枢性 ChE活性への影響に関しても検討が必要とおもわれる。(3)病理学的手法を用いたスクリ-ニング毒性評価に関する研究:GJICはFenもBNFも小葉中心性に抑制がみられたが、CYPアイソザイムの誘導部位とは必ずしも一致しなかったことから、Cx32の抑制とCYP1A1/2および CYP2E1の誘導はFenやBNFの肝腫瘍プロモーション作用に対して、 それぞれ独立した事象である可能性が推察され、CYPアイソザイム誘導物質のすべてがCx32を抑制するとは限らないことが示唆された。今回の結果は肝腫瘍プロモーターの検出にCx32を含むギャップ結合細胞間連絡(GJIC)の検索が有用であること、およびCYP2B以外のCYP誘導物質も肝腫瘍プロモーターとなりうることを示唆した。(4)変異遺伝学的手法を用いたスクリ-ニング毒性評価に関する研究:SCS-8株では、MMSの濃度にかかわらず突然変異頻度の上昇は観察されなかった。これに対しMGMT欠損株(Δada, Δogt)ではMMSによる変異頻度の上昇が見られた。特にMGMT欠損株では5mMで突然変異頻度がほぼ飽和し、処理濃度を上昇させるにつれ変異頻度が減少したのに対し、MGMT欠損recA+株ではMMSの処理濃度の上昇に伴い変異頻度が上昇した。以上の結果から、MGMT欠損株は野生型株より高い突然変異頻度を示し、ada、ogt遺伝子にコードされたMGMTはMMSによる変異誘発の抑制に関与することが明らかとなった。また、同じMGMT欠損株であってもrecA-株とrecA+株では突然変異頻度の上昇の仕方が異なっており、recAによる組換え修復もMMSの変異抑制に関与していることが示唆された。(5)データベースを基盤としたスクリ-ニング毒性評価に関する研究:内分泌撹乱物質の代表例として挙げられているビスフェノールAと類似構造を有するジフェニルメタン誘導体については、精巣や卵巣の重量や組織学的所見に変化が見られなくとも、CHOが明確に低下する場合は、ビスフェノールAと同様な評価をする必要が示唆された。また、構造類推の観点から内分泌撹乱物質と云われている化学物質の構造を有している届出物質の場合は、生殖器ばかりでなく甲状腺やその他の内分泌を含めた総合的な検査を実施する必要性が示唆された。(6)化学物質の人体暴露評価手法に関する研究:室内空気中の化学物質は多くの発生源があり、かつ化学物質は微量で数百種に及んでいる。主な発生源を系統別に分類すると、第1には建築物に用いられる資機材、第2には家具などの製品、家庭で用いられる消費材、第3にはヒトの生活に係わる燃焼、暖房、冷房あるいは喫煙に伴う発生物などである。室内空気質の管理を考えていく場合、有害性が明らかな化学物質の規制と化学物質単独では有害性は示さないものの数十化合物以上の複合的な暴露を受けたことによる可逆的な健康影響がみられるような場合、室内空気の汚れの指標の両指標を今後考えていく必要がある。(7)中毒事故及び緊急・災害時における情報システムに関する研究:本研究において、今後も事例データベースへの事例追加や内容の訂正などが容易にできる状況を整えることができた。法律データベースについては今後、環境関係の法令等も追加する予定でいる。「化学物質による被害防止ホームページ」へのアクセス件数は、1997年12月の公開以降増加の傾向を示している。今後、実際に被害が発生した後に必要な情報提供についての検討が必要であると考えられる。
結論
毒性学的、薬理学的、病理学的、変異遺伝学的お
よびデータベースを基盤とした手法を用いたスクリ-ニング毒性評価研究と化学物質の人体暴露評価手法および中毒事故及び緊急・災害時における情報システムに関する研究を行い、それぞれの分野で先進的な毒性評価手法が確立されると共に、インターネットを用いた新たなリスクコミュニケーション形態を確立することができた。

公開日・更新日

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