オーダーメードな肝炎ウイルス感染防止・重症化予防ストラテジーの確立に資する研究

文献情報

文献番号
202320004A
報告書区分
総括
研究課題名
オーダーメードな肝炎ウイルス感染防止・重症化予防ストラテジーの確立に資する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21HC2001
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
四柳 宏(東京大学 医科学研究所 先端医療研究センター感染症分野)
研究分担者(所属機関)
  • 八橋 弘(独立行政法人国立病院機構長崎医療センター)
  • 磯田 広史(佐賀大学医学部附属病院 肝疾患センター)
  • 田中 聡司(国立病院機構大阪医療センター 消化器内科)
  • 河野 豊(徳島大学 大学院医歯薬学研究部)
  • 森岡 一朗(日本大学 医学部小児科学系 小児科学分野)
  • 酒井 愛子(茨城県立こども病院 小児医療・がん研究センター/国立国際医療研究センター ゲノム医科学プロジェクト)
  • 惠谷 ゆり(大阪府立母子保健総合医療センター 消化器・内分泌科)
  • 井上 貴子(名古屋市立大学 大学院医学研究科)
  • 細野 覚代(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策研究所 検診研究部)
  • 相崎 英樹(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 田倉 智之(国立大学法人東京大学 大学院医学系研究科 医療経済政策学講座)
  • 田中 靖人(国立大学法人熊本大学 大学院生命科学研究部)
  • 奥新 和也(東京大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
20,770,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 ウイルス性肝炎の対策として、新規感染の予防は既感染者に対する治療とともに最も大切な対策の一つである。
 本研究では小児・医療従事者(医科および歯科)などハイリスク集団を対象にその感染状況やHBワクチン実施率などの現状把握、過去の施策の効果検証を行い、これらの集団における特性やリスク因子の分析を行う。また、e-learning等の教育・啓発資材の開発・改修及びそれらの展開を行う。それぞれの集団に対し対応策の提案を行うことで、新規感染者の発生を効果的に抑制しうる政策企画立案に資する研究を実施する。
 研究の評価には肝炎の疫学状況の把握が必要である。そこで国立感染症研究所における届出状況、健康保険データベースをもとにした肝炎患者数の推計、さらには肝炎拠点病院への受診状況調査などによりできるだけ正確に状況を把握する。
研究方法
1. 小児分野
・救急外来における小児検体の収集・ウイルスマーカー測定を測定する。
・保育施設におけるe-learningを実施・解析する。
・名古屋市立医科大学のエコチル拠点における検体収集・測定を継続する。
2. 成人分野
・一般生活者の代表として医療従事者・事務職員を対象にe-learningを実施・解析する。
・肝炎コーディネーターを対象にe-learningを実施・解析する。
・高齢者施設職員を対象にe-learningを実施・解析する。
・歯科領域におけるe-learning(案)を作成する。
3. 疫学分野
・肝炎情報センターに届出のある肝炎症例の収集・解析を行う。
・健康保険データベースを用いた急性肝炎症例の解析を行う。
・CDXを用いた急性肝炎の症例把握のパイロット研究を行う。
・感染症法上の届出と実際の発生状況の間の相関・乖離について都道府県の肝炎拠点病院に対してアンケートを行い、解析する。
4. 再活性化分野
・HBV感染既往例のモニタリングにおける高感度抗原の有用性に関する前向き研究を行う体制を構築する。
・HBV再活性化の起きている頻度・基礎疾患などについてデータベースを用いてパイロット研究を実施する。
結果と考察
1. 小児分野
・多施設でのHBワクチン定期接種後の疫学調査(HBワクチン定期接種開始後のHBs抗体・HBc抗体陽性率の検討:対象は2016年4月1日以降に出生した児)を進め、現時点での測定結果をまとめた。
・保育施設勤務者に対してe-learningを実施・解析した。
2. 成人分野
・成人(医療従事者・事務職員・老人施設勤務者・医療系学生)に対するe-learningを実施・解析した。
・歯科医療従事者に対するe-learning教材作成のためのアンケートに基づきパイロット教材を作成した。
3. 疫学分野
・1999–2022年の国内の急性肝炎の発生動向を解析し、特にHBVおよびHCV新規感染報告の地域的・経時的変化の解明を行った。
・データベースに基づき、C型急性肝炎とB型急性肝炎について、公費負担との関係を医療ビッグデータの応用により分析を行った。医科入院の集団は、C型・B型ともに、公費負担の割合が医科外来に比べて高かった(C型肝炎:19%、B型肝炎:34%)。さらに更生医療の免疫機能障害が背景にある場合は、性感染症との関係も想像され、実際、B型肝炎感染はその公費負担の割合が高かった。
・CDXを用いた疫学研究を東京大学医科学研究所附属病院で行った。2019年から2024年2月上旬までに急性肝炎の病名がつけられた患者の肝炎ウイルスマーカーの抽出が正確かつ安全に行えることを確認した。
4. 再活性化分野
・HBV再活性化の診断に高感度コア関連抗原、s抗原が有用であるかどうかをHBV DNAとの比較で検証する前向き臨床試験を行うこととなり、血液・腫瘍内科の専門家を中心としたグループを立ち上げ、ウエブ会議を行った。既に研究体制が組みあがり、来年度には臨床試験を開始できる予定である。
・B型肝炎再活性化、特に重篤となるde novo B型肝炎に着目したリアルワールドデータを用いた解析を開始した。
結論
1. ワクチン定期接種の導入は小児におけるB型肝炎ウイルスへの感染を減らしてきている。今後エコチル調査と連動してワクチンの効果が明らかにされるものと思われる。検討例が増えることで実際の頻度が明らかになると思われる。
2. 保育施設、高齢者施設に勤務する職員に対するe-learningの効果が高いことが示された。
3. 歯科医療従事者に対するe-learningのパイロット教材を作成した。
4. B型、C型急性肝炎の発生実態をデータベースから明らかにした。
5. CDXを使うことで、急性肝炎の症例を正確かつ安全に拾い上げることが示され、今後疫学調査に導入されることが期待された。
6. HBV再活性化のモニタリング、リアルワールドデータに関する新たな研究を開始した。

公開日・更新日

公開日
2025-01-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2025-01-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202320004B
報告書区分
総合
研究課題名
オーダーメードな肝炎ウイルス感染防止・重症化予防ストラテジーの確立に資する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21HC2001
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
四柳 宏(東京大学 医科学研究所 先端医療研究センター感染症分野)
研究分担者(所属機関)
  • 八橋 弘(独立行政法人国立病院機構長崎医療センター)
  • 磯田 広史(佐賀大学医学部附属病院 肝疾患センター)
  • 森岡 一朗(神戸大学大学院医学研究科内科系講座 小児科学分野 こども急性疾患学部門)
  • 酒井 愛子(茨城県立こども病院 小児医療・がん研究センター/国立国際医療研究センター ゲノム医科学プロジェクト)
  • 惠谷 ゆり(大阪府立母子保健総合医療センター 消化器・内分泌科)
  • 田中 聡司(国立病院機構大阪医療センター 消化器内科)
  • 河野 豊(北海道医療大学 予防医療科学センター)
  • 井上 貴子(名古屋市立大学大学院医学研究科)
  • 細野 覚代(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策研究所 検診研究部)
  • 相崎 英樹(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 田倉 智之(国立大学法人東京大学 大学院医学系研究科 医療経済政策学講座)
  • 田中 靖人(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科)
  • 森屋 恭爾(東京大学 医学部附属病院)
  • 堤 武也(東京大学 医学部)
  • 奥新 和也(東京大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肝炎対策基本指針の中には“肝炎の予防のための施策に関する事項”が記載されている。本研究班はこうした課題を解決することを目標に組織された指定研究班である。行うべきこととして以下の点を挙げ、検討した。
研究方法
1 e-learning教材を用いた啓発
肝炎ウイルスの感染経路・感染リスクとなる行為・感染予防のために必要なことに関してe-learningにより知識を習得・確認することを目的にする。研究班では学習効果の確認までを行うこととした。
2 HB定期接種導入後の水平感染に関する効果
 2016年4月以降に出生した児はHBワクチン定期接種の対象である。それ以前に自治体の補助や実地医家が補助、啓発を行ったことにより任意接種を受けている児もいる。これらの児において水平感染が阻止できているかどうか、HBs抗体は陽性を持続しているかどうかを調査した。また、8歳児のエコチル調査の際に残検体を用いたHBs抗体、HBc抗体の測定を追加で行い、同様の検討を行った。
3 医療従事者のHBワクチン接種効果の持続に関する研究
 医療従事者は就学・就業の際にHBワクチンの接種を行っている。複数回の採血が行われている職員も研究期間中にかなりの人数がいたため、ワクチン接種後のHBs抗体の獲得状況、減衰に関して検討を行った。
4 急性肝炎の疫学に関する検討
 ウイルス性急性肝炎は全例報告の対象疾患であるが、診療にあたるのが感染症医ではなく、消化器内科医・肝臓内科医であるため、報告が漏れていることが推測された。この点を国立感染症研究所への報告に加え、健康保険データベースを用いた患者数の報告を行うことで検討した。また、急性肝炎の全数把握を確実に行う方法として、電子カルテからデータを引き出すことができるかどうか予備的検討を行った。
5 B型肝炎既感染例におけるHBV再活性化に関する検討
HBs抗原、HBcr抗原の高感度測定が可能になった。現在免疫抑制療法・化学療法を行う際のHBV再活性化のモニタリングはHBV DNAにより行っているが、採血日に結果が出ないため、確認・対応が徹底しにくい欠点がある。HBs抗原、HBcr抗原の高感度測定をHBV DNAに代えることにより、こうした欠点がなくなる可能性があるが、十分な感度があるかどうかの検証が必要である。血液悪性腫瘍に対して化学療法・造血幹細胞移植を受ける患者を対象にした多施設臨床試験を最終年度(令和5年度)から行うこととなり、その体制構築を行った。
結果と考察
1 医療施設・保育施設・高齢者施設の勤務者を対象にe-learningを実施した。肝炎ウイルス感染者に接する機会のあるコメディカルスタッフが最も学習効果・意欲とも高かった。また、歯科医療従事者に対するe-learningのパイロット教材を作成・実施し意見を聴取した。
2 定期接種導入以降のHBc抗体陽性者は0.003%であった。感染が疑われた者は0.0004%であった。HBs抗体価は年齢とともに低下し、5-6歳時で60%程度であった。8歳児を対象としたエコチル調査でもほぼ同様であった。
3 医療従事者のうち3回接種後のHBs抗体価が1000mIU/mL以上の群は5年後も全員HBs抗体陽性であったが、87mIU/mL以下の群の5年後の陽性率は10%程度であった。
4 B型肝炎、C型肝炎とも2015年以降急性肝炎の発生数は緩やかに減少傾向にあることが、感染症法上の届出数、健康保険データベース上の推定患者数の両方から確認された。また、 CDXを用いた電子カルテからの患者抽出が迅速かつ安全にできることを確認した。
5 多施設臨床試験の体制を整え、次年度からの臨床試験の実施を準備した。
結論
1. 保育施設、高齢者施設に勤務する職員に対するe-learningの効果が高いことが示された。歯科医療従事者に対するe-learningのパイロット教材を作成・実施した。
2. ワクチン定期接種の導入は小児におけるB型肝炎ウイルスへの感染を減らしてきている。今後エコチル調査と連動してワクチンの効果が明らかにされるものと思われる。検討例が増えることで実際の頻度が明らかになると思われる。
3. 医療従事者に対するHBワクチン接種後の抗体の推移を明らかにし、高い抗体価の獲得が望ましいことを明らかにした。
4. B型、C型急性肝炎の発生実態をデータベースおよび感染症法上の届出数を比較することで明らかにした。また、CDXを使うことで、急性肝炎の症例を正確かつ安全に拾い上げることが示された。
5. HBV再活性化のモニタリング、リアルワールドデータに関する新たな研究を開始した。

公開日・更新日

公開日
2025-01-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-01-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202320004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
・医療従事者以外の患者支援にあたる人に対してe-learningによる肝炎の感染・予防に関する啓発活動が有効であることを示した。
・HBワクチン接種により小学校低学年までの児への感染を予防できることを示した。
・急性肝炎の疫学の正確な把握に関する成果を得ることができた。
臨床的観点からの成果
・医療従事者以外の患者支援にあたる人に対する啓発活動が現場での感染症に対する理解を深めるのに有効であることを示した。
・HBワクチン接種が小学校低学年までのB型肝炎感染防止に極めて有効であることを示した。
・B型・C型急性肝炎は徐々に減少してきていることを示すことができた。
ガイドライン等の開発
肝炎ウイルスに感染した人のケアにあたる人に対するe-learning資材を開発した。
その他行政的観点からの成果
2016年に導入したHBワクチン定期接種の有効性を示すことができた。
その他のインパクト
肝炎ウイルス感染者に対する理解を深めるための方法を示した。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
8件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Okushin K, Suzuki R, Tsutsumi T, et al.
Change in hepatitis C virus positivity among needle-stick injury source patients: a 10-year experience in a Japanese tertiary hospital
BMC Infect Dis , 21 (1) , 399-406  (2021)

公開日・更新日

公開日
2025-01-28
更新日
-

収支報告書

文献番号
202320004Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
27,000,000円
(2)補助金確定額
26,994,000円
差引額 [(1)-(2)]
6,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 5,005,644円
人件費・謝金 5,868,034円
旅費 599,570円
その他 9,291,542円
間接経費 6,230,000円
合計 26,994,790円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2025-01-28
更新日
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