文献情報
文献番号
202320001A
報告書区分
総括
研究課題名
ネットワーク社会における地域の特性に応じた肝疾患診療連携体制構築に資する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21HC1001
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
金子 周一(国立大学法人 金沢大学 医薬保健学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
- 井戸 章雄(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科)
- 磯田 広史(佐賀大学医学部附属病院 肝疾患センター)
- 井出 達也(久留米大学医学部内科学講座消化器内科部門)
- 日浅 陽一(愛媛大学大学院 医学系研究科 消化器・内分泌・代謝内科学)
- 寺井 崇二(新潟大学大学院医歯学総合研究科 消化器内科学分野)
- 田中 純子(広島大学 大学院医系科学研究科 疫学・疾病制御学)
- 考藤 達哉(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 国府台病院 肝炎・免疫研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
9,658,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
肝炎対策には居住地域による取り組みの違いがみられ、より良い肝炎医療を提供するためには、地域の特性に応じた対策を構築する必要がある。本研究では、研究代表者らの先行研究で必要性と有用性が示されたICT等を駆使して、地域の特性を生かした肝炎患者の診療連携体制を確立する方法論やモデルケースを創出することを目指した。
研究方法
本研究には、肝炎診療連携へのICT等の応用を開始している愛媛、佐賀、石川及び県土が広い、島嶼部を有する、人口密集地を有するなどICT等の応用が喫緊の課題である鹿児島、福岡、新潟、各県の拠点病院の研究分担者が、各県毎に様々な方式で肝炎診療連携にICT等を活用した。さらに疫学班と連携し、各都道府県の肝炎診療連携体制の現状や問題点を様々なパラメーターを用いて比較分析した。また均てん化班と連携し、拠点病院や専門医療機関を対象に肝炎病診連携指標の算出やICT等の肝炎診療連携への活用状況を調査した。
結果と考察
石川県は、いしかわ診療情報共有ネットワーク、佐賀県はピカピカリンク、福岡県(久留米地域)はアザレアネット、愛媛県はHiMEネット、新潟県(佐渡島)はさどひまわりネット、といった地域医療情報ネットワーク(以下、地連ネット)の肝炎診療連携への応用を行った。石川県では、拠点病院の肝臓専門医が、地連ネットシステムの1つIDリンクで診療情報を閲覧しつつZoomを用いて非指定医療機関のC型肝炎患者をオンライン診療行い、肝炎治療の医療費助成診断書を記載した。これにより、これまで抗ウイルス療法を受けられなかった患者に対して、医療費助成制度を利用して抗ウイルス療法を導入できた。また、拠点病院と専門医療機関間の診療情報をIDリンクにより紐付けすることで、拠点病院が行っている肝炎ウイルス陽性者のフォローアップ事業の効率化を図った。佐賀県では、Zoomを用いて拠点病院の医師が遠隔地の医療機関の腹部エコー検査をリアルタイムで支援する取り組みを開始した。このようにオンライン会議システムを利用することで、拠点病院の肝臓専門医が拠点病院から出張することなく、遠隔地の肝炎ウイルス患者を診察し、良質な肝炎診療の提供につなげることができた。愛媛県では、肝癌に対する分子標的薬レンバチニブを服用中の患者やC型肝炎患者に対する経口抗ウイルス療法を受ける患者を対象にHiMEネットのSNSアプリを用いた薬薬連携を行った。これにより診察医の処方意図、副作用のモニタリング等に関して、処方医と薬剤師間で迅速な情報共有が可能になった。一方、福岡県筑後地区では、既存の地連ネットの肝炎診療連携への応用を模索したが、地連ネットの認知度が低い、地連ネットへの参加医療機関が少ない、など問題点が浮き彫りになり、地連ネットの肝炎診療への活用が進まなかった。新潟県佐渡島では、地連ネット利用した島民の肝炎ウイルス感染率や治療導入状況の把握を行うことができ、さらに地連ネットを利用した地域連携パスを構築し、これを運用することで島内の肝炎診療連携の効率化を図った。鹿児島県には利用可能な地連ネットが存在しなかったため、奄美大島で市販の携帯情報端末やZoomなどの利用可能なICTを駆使したウイルス肝炎に対する啓発活動や住民検診での肝炎ウイルス検査推進を行った。その結果、検診での肝炎ウイルス検査の受検率が例年の3~25%から、83%にまで上昇した。肝炎情報センター考藤班員は、拠点病院を対象にICT利用状況調査を行った。ICTを利用している施設は21施設(29.6%)、そのうち肝炎診療連携にICTを利用している施設は6施設(28.6%)にとどまっており、ICTの普及度・認知度が低いことを明らかにした。広島大学田中班員は、各種パラメーターから都道府県毎の肝炎対策をレーダーチャートで視覚化した。また全国計10の医療機関で、肝炎ウイルス患者を対象とした「肝炎ウイルス検査結果および治療歴記録の携帯に関しての患者意識調査」を行い、計1408名から回答をえた。「スマートフォンなどの電子情報に肝炎ウイルス検査結果や感染の状態を記録し、携帯することを望むかどうか」というキーの質問に対して、430名(30.6%)が望む、609名(43.4%)が望まない、351名(25.0%)がどちらともいえないと回答した。
結論
本研究を通じて、ICT等を肝炎診療に応用する事で、地域がかかえる様々な課題を解決できることが明らかになった。しかし、地連ネットなど活用可能なICT等が存在しない、認知度が低い、地連ネットの普及率が低いといった課題も明らかになった。今後、ICT等を活用することで肝炎診療における様々な課題を解決できることを情報発信すると共に、国や県によるICT環境の整備や認知度の向上を通じた活用促進も必要と考えられた。
公開日・更新日
公開日
2025-01-28
更新日
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