Fynチロシンキナーゼ・シグナリングを介した統合失調症分子病態の解析

文献情報

文献番号
200935071A
報告書区分
総括
研究課題名
Fynチロシンキナーゼ・シグナリングを介した統合失調症分子病態の解析
課題番号
H21-こころ・若手-020
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
服部 功太郎(国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第三部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 統合失調症の分子病態を担うシグナルカスケードを突きとめることは、本疾患の創薬やバイオマーカーの開発につながる。我々はこれまで動物実験などからFynチロシンキナーゼが抗精神病薬の引き起こす細胞内情報伝達に関わっていることを明らかにしてきた。そこで本研究において、統合失調症の分子病態にFynがどのように関わっているか、さらにFynの測定が臨床応用できるかを検討したい。
研究方法
(1) 血液におけるfyn mRNA発現の解析
当研究室の保有する統合失調症、うつ病、双極性障害、健常者を含む約700検体の凍結血液RNAサンプルを使用した。Taq-Manを用いたReal-time PCR法でfyn mRNAの発現解析を行った。

(2) Fynゲノム領域の遺伝子多型関連解析
当研究室の保有する統合失調症、うつ病、双極性障害、健常者を含む約2000例のゲノムDNAを用い、fynゲノム上の8個のTag SNPについてTaqMan法によるタイピングを行った。健常者の一部では前頭葉機能の評価もされている。

(3) 死後脳におけるFynおよび関連タンパク質の解析
スタンレー研究所の死後脳(統合失調症、双極性障害、うつ病、健常者各15例)を用いFynおよび関連分子の解析を行った。解析には独自に確立したELISAとドットブロットを用いた。
結果と考察
(1)  血液におけるfyn mRNA発現の解析
統合失調症においてのみfyn発現の有意な減少が認められた。統合失調症における血液中のfyn mRNA減少は、我々が前回見出したFynタンパク質の減少に関わっていると考えられた。

(2) Fynゲノム領域の遺伝子多型関連解析
いずれのSNPも精神疾患との関連は認められなかった。2つののSNPが健常対象者における前頭葉機能検査の成績と関連していた。fynの遺伝子多型が精神疾患の病因に関与している可能性は低いが、Fyn分子は統合失調症の中間表現型の1つである前頭葉機能障害に関与している可能性がある。

(3) 死後脳におけるFynおよび関連分子の解析
いずれの疾患の死後脳においても、Fynタンパク質の量は変化していなかったが、統合失調症では活性型Fynの量が有意に亢進していた。またFyn関連分子のうちNR2Bの量が統合失調症において有意に減少していた。これらの変化は薬剤やストレスなどによる二次性の変化とともに疾患自体による可能性も考えられた。
結論
血液や死後脳の解析によりFynが統合失調症の分子病態に直接的に関与している可能性が示された。今後、バイオマーカーとしてあるいは、治療標的としての可能性を追求していきたい。

公開日・更新日

公開日
2010-08-31
更新日
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