ライフスタイルを重点とした疫学的分析による循環器疾患予防についての基礎研究

文献情報

文献番号
199700668A
報告書区分
総括
研究課題名
ライフスタイルを重点とした疫学的分析による循環器疾患予防についての基礎研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
中野 赳(三重大学医学部内科学第1講座教授)
研究分担者(所属機関)
  • 垣本斉(南勢町立病院内科)
  • 高木廣文(文部省統計数理研究所助教授)
  • 佐藤俊哉(文部省統計数理研究所助教授)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
人口の高齢化に伴い脳卒中や心筋梗塞など動脈硬化性疾患が問題となっている。近年これらの疾患の後遺症による要介護者の増加は、介護保険の設立などとあわせて大きな社会問題であり、特に地域社会ではこれらの問題に直面し早急な対応が望まれているがハード、ソフト両面で追いつけていないのが現状である。そのなかで地域の医療機関としても、行政機関とともに予防活動を重点に活動し、高齢化の進む地域で質の高い長寿社会を形成する役割の一端を担うことが望まれている。そこで改めて一次予防の観点から動脈硬化性疾患を検討することとし、三重県度会郡南勢町を指定地域として長期コホート調査を開始した。本研究では例年住民検診で身体状況の変化を観察し、ライフスタイル因子のなかに循環器疾患のリスク要因を見つけだすことを目的としている。また、ライフスタイルという評価困難な要因を客観的に評価する方法を探ることも検討する。
研究方法
1,南勢町住民を対象にして健康調査を行い、コホートの経過資料とする事を目的とした。調査の内容は、循環器系疾患およびその基礎疾患の既往歴、治療状況、喫煙、飲酒状況の問診、身体調査として身長、体重、血圧測定を行った。また高齢者のQOLに影響を及ぼす骨粗鬆症についてcomputed x-ray densitometry(CXD)法を用いた骨量測定を行った。血液検査は総コレステロール、中性脂肪、HDLコレステロール、血糖、ヘモグロビンA1c、カルシウム、リン、総蛋白、アルブミン、アルカリフォスファターゼを測定した。さらに、血清脂質のなかでレムナント様リポ蛋白コレステロール、脂肪酸分画を測定した。また、より詳細な肥満指標として体脂肪率を測定した。これらの測定値をコンピューターに入力しデータベース化し解析を行った。(垣本)2,生活習慣のうち食習慣,生活の規範,社会活動,運動習慣,さらに個人の性格特性など22尺度および喫煙習慣,飲酒習慣を質問紙で測定するための調査票を開発してきたが、今回は、質問紙の改訂時に項目数を削減した場合の信頼性の低下について各尺度の信頼性係数を比較し、項目数の減少による影響を調べることを目的とした。(高木)3,大規模長期疫学研究に必要な倫理的配慮について臨床試験と比較しながら検討することを目的とした。調査対象は平成5年4月1日時点での40才から65才までの南勢町民とし、平成5年度から平成7年度の3年間実施した基礎調査をもとに、年間1,600名の身体調査、食生活状況、疾患発生状況などを追跡する縦断疫学調査を行う。またさらにこの間にも新規の追跡対象者を登録する。(佐藤)
結果と考察
(結果)1,本年度の受診者総数は男女それぞれ622名、1130名の計1752名であった。そのうち40才以上の成人1618名(男性561名、女性1057名)について検討した。同町では昨年度同様循環器疾患の有病率は低く、リスク要因としての肥満、高血圧、高脂血症の頻度は依然として高い傾向にあった。動脈硬化危険因子として注目されている肥満に関し、新たな指標として体脂肪率測定をおこなったが、従来から利用されているBMIと比し他のリスク要因と有意に相関するものは認めなかった。血清脂質の検討においては、レムナント様リポ蛋白コレステロールは他の動脈硬化の危険因子を反映する結果を得た。また骨量は昨年度同様女性において加齢とともに減少する傾向がみられた。(垣本)2,旧生活習慣調査票では,各尺度は8項目から構成されていたが,項目数を減らすために各尺度6項目へと減少させた。この影響を検討するために,信頼性係数の旧版との比較を行った。分析結果では,各生活
習慣尺度の信頼性に大きな問題は認められなかった。(高木)3,疫学研究であっても、介入がないという理由でインフォームド・コンセントを実施しなくていいことにはならない。特に大規模長期疫学研究では、対象者に日常かかる以上の負荷(研究のためだけに必要な血液採取、面接調査等)をかけることになるので、インフォームド・コンセントは必要である。また、研究の質を確保するためには、定期的なモニタリングが必要で、研究組織からは独立した第三者組織である独立データモニタリング委員会を設けて、研究の科学性、倫理性の評価を行うことが望ましい。(佐藤)本邦が世界有数の長寿国であることは誰もが認めるところであるが、このような長寿が達成された理由は、生活、医療水準の向上とともに本邦の本来のライフスタイルが身体に有利に働いた可能性がある。しかし高度の情報化に伴って、そのライフスタイルは常に流動的となり、結果としての長寿社会が将来にわたって現在と同じように維持できるとは限らなくなっている。質の高い長寿を目指すには、あらためてライフスタイルのなかから疾病を引き起こす要因とその予防(一次予防)について検討するする必要があると考え、1993年度より三重県南勢町で虚血性心疾患や脳血管障害など循環器疾患を対象に、疾患やそのリスク要因の現状把握をおこなうための調査を実施している。これまでの結果同様、同町は、高齢化の町にもかかわらずこれらの疾患の有病率、罹患は比較的少ない傾向にある。有利なライフスタイル要因があるような印象があるが、いわゆる古典的リスク要因である高血圧、肥満、高脂血症、男性の喫煙頻度などは多い傾向にあり、どのような利点となる要因があるのかは定かではない。今後症例-対象研究も含めて検討する必要があると思われる。またこのような研究は、調査結果そのものの信頼性をあげるために調査項目の信頼性研究やインフォームドコンセントを含めた研究スタイルの再評価も重要になる。今回調査5年目をを終えた区切りとしてこの点に着目し検討したことは、今後も継続される調査の精度の向上に有用と思われた。
結論
1993年度より行っている三重県度会郡南勢町を指定地区とした疫学研究の継続調査の現況およびライフスタイル要因を評価する手法面、疫学研究の倫理面からの検討について報告した。現在、同町では循環器疾患や、肥満や高脂血症などリスク要因、骨粗鬆症などの疾患とライフスタイル要因との強い関連を見いだせなかった。しかし、今後引き続き追跡調査や新しいライフスタイル調査手法の検討を行い、また倫理面からも再検討することによって本研究の精度向上させることにより、新たなリスク要因の発見と、それが最終的に地域住民の質の高い長寿達成に反映されることが期待された。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)