文献情報
文献番号
202319015A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染血友病患者の救急対応の課題解決のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22HB1005
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
日笠 聡(兵庫医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 酒井 道生(北九州安部山公園病院)
- 天野 景裕(東京医科大学 医学部 臨床検査医学分野)
- 松本 剛史(三重大学医学部附属病院 輸血・細胞治療部)
- 鈴木 圭(三重大学医学部附属病院 救命救急・総合集中治療センター)
- 矢倉 裕輝(独立行政法人国立病院機構 大阪医療センター 薬剤部)
- 富田 泰成(三重大学医学部附属病院 三重大学病院ハイブリッドワークステーション)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
8,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
血友病やvon Willebrand病(VWD)等の止血機能異常症の救急診療を、より適切に実施するための解決策を立案するため、救急診療の各段階における問題点を抽出し、改善策を講じるための基礎資料を作成することを目的とする。
研究方法
1.止血機能異常症の救急診療体制の改善策の検討
2022年度に実施した救急隊に対するアンケート調査から、自由記載欄に記載された様々な意見を抽出、集約した。
2.救急医療機関・血友病診療施設おける、緊急時薬剤発注に関する調査
全国の救急科専門医指定施設および血友病診療連携部録拠点病院・中核拠点病院における止血異常症治療製剤の採用状況、在庫状況を調査するとともに、未採用、あるいは在庫無しの製剤の緊急配送に関する課題について、各医療機関の薬剤部に対してアンケート調査を実施した。
3.「救急領域における止血機能異常症の診療ガイド」のWEBサイト作成の検討
2022年度に作成した「救急領域における止血機能異常症の診療ガイド」の第2版を作成し、救急部門からコンサルトされやすい全国の血液内科に配布した。また、本内容についてはWEB版を作成し、「止血.com」のサイト(https://shiketsu-guide.com/)に公開した。
4.血友病診療施設・患者団体との連携
救急医療機関から止血機能異常症の診療施設に対して患者の紹介・依頼があった場合や、患者団体への問い合わせなどを円滑に進めるための課題を調査し、改善策を検討した。
2022年度に実施した救急隊に対するアンケート調査から、自由記載欄に記載された様々な意見を抽出、集約した。
2.救急医療機関・血友病診療施設おける、緊急時薬剤発注に関する調査
全国の救急科専門医指定施設および血友病診療連携部録拠点病院・中核拠点病院における止血異常症治療製剤の採用状況、在庫状況を調査するとともに、未採用、あるいは在庫無しの製剤の緊急配送に関する課題について、各医療機関の薬剤部に対してアンケート調査を実施した。
3.「救急領域における止血機能異常症の診療ガイド」のWEBサイト作成の検討
2022年度に作成した「救急領域における止血機能異常症の診療ガイド」の第2版を作成し、救急部門からコンサルトされやすい全国の血液内科に配布した。また、本内容についてはWEB版を作成し、「止血.com」のサイト(https://shiketsu-guide.com/)に公開した。
4.血友病診療施設・患者団体との連携
救急医療機関から止血機能異常症の診療施設に対して患者の紹介・依頼があった場合や、患者団体への問い合わせなどを円滑に進めるための課題を調査し、改善策を検討した。
結果と考察
結果
1.止血機能異常症の救急診療体制の改善策の検討
救急隊へのアンケートの自由記載欄の解析では、患者の所持品の確認作業は貴重品の紛失、盗難が疑われることがあるため、救急隊単独ではなかなか確認できないとの記載が多かった。また、救急隊は緊急時患者カード等よりも、身分証明書あるいはお薬手帳等を優先して捜索していることも確認された。
2.救急医療機関・血友病診療施設おける、緊急時薬剤発注に関する調査
血友病・VWD治療製剤の在庫がある施設はいずれも半数以下で、大半の施設においてこれらの製剤の在庫はない。さらにこれらの施設の中の、血友病拠点病院と非血友病拠点病院の比較では、製剤の在庫状況に大きな差があり、非血友病拠点病院に搬送された患者の大部分は、必要な薬剤による治療が受けられない状況となっている。
血友病・VWDの止血治療製剤の在庫がない理由については、「定期的に処方される患者がいない」が最も多く、次いで「医師から在庫して欲しいとの依頼がない」が多かった。
3.「救急領域における止血機能異常症の診療ガイド」のWEBサイト作成の検討
「救急領域における止血機能異常症の診療ガイド 第1版」を一部改訂した第2版を作成するとともに、内容をWEB化し、「止血.com」のサイト(https://shiketsu-guide.com/)に公開した。
4.血友病診療施設・患者団体との連携
患者団体から、緊急時患者カードが配布されていない、数が足りない地域がある等の連絡があったため、今年度の予算でこれを増刷し追加配布した。
考察
救急搬送先での止血機能異常症の診療を充実させるためには、①患者の診断名と治療薬がわかる、②治療薬の使用方法、用法、用量がわかる、③治療薬が入手できる、の3つが可能となる必要がある。
我々が作成した緊急時患者カードを救急隊や搬送先の医療機関が発見すれば、①についてはおおむね解決すると考えられることから、救急現場で本カードが発見される確率を上げる必要がある。そのためには、患者が本カードを常に携帯することはもちろん、救急医療現場で確認されやすい身分証明書(免許証や保険証)やお薬手帳とセットにして携帯するよう、啓発していく必要がある。
②については、「救急領域における止血機能異常症の診療ガイド 第2版」のWEB版(止血.com)を公開したことにより、臨床現場でスマートフォンやタブレットで参照できる体制が整ったと考えられる。
③の治療薬の入手に関しては、これらを使用する患者がいない(使う目処がない)施設においては、薬剤発注から納品までの時間を短縮する工夫を考えることが重要と思われる。メーカーへの直接発注や、卸業者間で製剤を融通するシステムは、薬剤供給までの時間を短縮できるシステムであるが、現状ではその認知度が低く、今後周知が必要なことが明らかとなった。
1.止血機能異常症の救急診療体制の改善策の検討
救急隊へのアンケートの自由記載欄の解析では、患者の所持品の確認作業は貴重品の紛失、盗難が疑われることがあるため、救急隊単独ではなかなか確認できないとの記載が多かった。また、救急隊は緊急時患者カード等よりも、身分証明書あるいはお薬手帳等を優先して捜索していることも確認された。
2.救急医療機関・血友病診療施設おける、緊急時薬剤発注に関する調査
血友病・VWD治療製剤の在庫がある施設はいずれも半数以下で、大半の施設においてこれらの製剤の在庫はない。さらにこれらの施設の中の、血友病拠点病院と非血友病拠点病院の比較では、製剤の在庫状況に大きな差があり、非血友病拠点病院に搬送された患者の大部分は、必要な薬剤による治療が受けられない状況となっている。
血友病・VWDの止血治療製剤の在庫がない理由については、「定期的に処方される患者がいない」が最も多く、次いで「医師から在庫して欲しいとの依頼がない」が多かった。
3.「救急領域における止血機能異常症の診療ガイド」のWEBサイト作成の検討
「救急領域における止血機能異常症の診療ガイド 第1版」を一部改訂した第2版を作成するとともに、内容をWEB化し、「止血.com」のサイト(https://shiketsu-guide.com/)に公開した。
4.血友病診療施設・患者団体との連携
患者団体から、緊急時患者カードが配布されていない、数が足りない地域がある等の連絡があったため、今年度の予算でこれを増刷し追加配布した。
考察
救急搬送先での止血機能異常症の診療を充実させるためには、①患者の診断名と治療薬がわかる、②治療薬の使用方法、用法、用量がわかる、③治療薬が入手できる、の3つが可能となる必要がある。
我々が作成した緊急時患者カードを救急隊や搬送先の医療機関が発見すれば、①についてはおおむね解決すると考えられることから、救急現場で本カードが発見される確率を上げる必要がある。そのためには、患者が本カードを常に携帯することはもちろん、救急医療現場で確認されやすい身分証明書(免許証や保険証)やお薬手帳とセットにして携帯するよう、啓発していく必要がある。
②については、「救急領域における止血機能異常症の診療ガイド 第2版」のWEB版(止血.com)を公開したことにより、臨床現場でスマートフォンやタブレットで参照できる体制が整ったと考えられる。
③の治療薬の入手に関しては、これらを使用する患者がいない(使う目処がない)施設においては、薬剤発注から納品までの時間を短縮する工夫を考えることが重要と思われる。メーカーへの直接発注や、卸業者間で製剤を融通するシステムは、薬剤供給までの時間を短縮できるシステムであるが、現状ではその認知度が低く、今後周知が必要なことが明らかとなった。
結論
止血機能異常症の救急診療の各段階における問題点を、一つ一つ改善することにより、適切な診療が実施できると考えられた。
公開日・更新日
公開日
2025-05-13
更新日
-