HIV陽性者に対する精神・心理的支援のための身体科主治医と精神科専門職の連携体制構築に資する研究

文献情報

文献番号
202319010A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV陽性者に対する精神・心理的支援のための身体科主治医と精神科専門職の連携体制構築に資する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21HB1010
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
池田 学(国立大学法人 大阪大学 大学院医学系研究科情報統合医学 精神医学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 白阪 琢磨(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター HIV/AIDS先端医療開発センター)
  • 橋本 衛(近畿大学 医学部)
  • 仲倉 高広(京都ノートルダム女子大学 現代人間学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
6,717,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIV陽性者の身体科主治医と精神科医療関係者相互の診療・相談体制の連携・構築を推進し、精神科医療の専門職がこの連携に積極的に関与できるようなマニュアルや研修教材を作成。
研究1(池田) ①過去に実施したHIV研修会をもとに精神科医向け、メディカルスタッフ向けのHIV /AIDSのパンフレットを作成。②近畿圏内のエイズ治療拠点病院の感染症内科医を対象に精神科との連携状況について調査。
研究2(白阪)HIV陽性者のメンタルヘルスの現状と精神科受診・カウンセリング利用の阻害要因を明確化すること、受診・利用の促進方法を検討する。
研究3(橋本) ARTの進歩によりHIV患者の生命予後は延長し、今後HIV陽性高齢者の増加が予想される。HIV陽性高齢者におけるHANDの実態を明らかにする。
研究4(仲倉)研究ⅠではMSW技術の明確化、研究Ⅱではカウンセリングの効果評価指標の抽出、研究Ⅲでは喪失体験に対するコミュニティレベルの介入方法について検討することを目的とする。
研究方法
研究1:①2021年度に実施した精神科医のHIV研修会、2022年に実施したメディカルスタッフを対象としたHIV研修会の内容をもとにパンフレットを作成する。②近畿圏内のエイズ治療拠点病院の感染症内科医にWEBアンケートを実施する。
研究2:大阪医療センター外来通院中の陽性者500名を対象に、メンタルヘルスの問題、医療者への相談、精神科受診・カウンセリング利用などに関して調査を行った。量的データの分析に加え、自由記述欄を分析。
研究3:国立病院機構大阪医療センターに通院中の60歳以上のHIV陽性患者を対象に神経心理検査を実施し、認知機能低下・精神症状を認める患者の割合、認知機能の障害プロフィールを明らかにする。 
研究4:研究Ⅰ:ACCおよびブロック拠点病院勤務の福祉職(以下,MSWと略す)を対象に、精神科連携についてミーティングを月に一度開催し、精神科との連携に必要なMSWのスキルや、均てん化のための研修会方法の検討を行った。研究Ⅱ:中断事例の試行的カウンセリングの過程と心理検査データについて分析をディスカッションにて行った。研究Ⅲ:世界エイズデイ・メモリアル・サービスを第37回日本エイズ学会学術集会にて実施した。
結果と考察
研究1:精神科医およびメディカルスタッフ向けのパンフレットが作成され、ホームページ上に公開。27名の医療従事者から回答が得られ、そのうち9名(33.3%)が精神科との連携に困難を感じていると答えた。自施設に精神科があるが特別な理由がない限り診療が受けられない(3名)、紹介をためらう(2名)などが挙げられた。HIVに関する研修会は、不安や抵抗感の軽減、正しい知識の普及に効果があり、パンフレットはその啓蒙活動を補完するものと考えられる。エイズ拠点病院内での精神科紹介は概ねスムーズに行われているが、近隣の精神科への受入れには課題が存在することが示唆された。受入れ可能な精神科のリストがあれば連携が進むことが期待される。
研究2:HIV陽性者において希死念慮や飲酒問題が多く認められた。未受診・未相談の理由として、「自力で解決する」「受診で解決しない」「HIV/性的指向に対する偏見があると思う」が挙げられた。専門的援助の益を想像できず、偏見を恐れて自力で解決を試みる傾向が強いことが明らかとなった。専門家への啓発と専門的援助の益を具体的に示すことの必要性が質的データにより裏付けられた。
研究3:19名のHIV陽性高齢者(平均年齢69.3歳)のうち、2名(10.5%)に認知症が疑われ、5名(26.3%)に軽度認知障害が見られた。HIV陽性高齢者の1/3以上に認知機能低下が疑われ、これはHIV陽性高齢者が健常高齢者よりも認知機能低下を来しやすい可能性を示唆するものである。
研究4:研究Ⅰでは、ブロック拠点病院およびACCの同意を得て、オンライン会議を計8回実施し、15名の参加者を対象とした研修会が開催された。研究Ⅱでは、終結事例1件および中断事例1件について6時間のディスカッションを行い、クライエントの多層的なメッセージを理解する重要性が強調された。研究Ⅲでは、検討会を通じて調査方法および計画の検討が行われた。MSWの思考過程を共有し、カウンセリングの効果評価指標を抽出する必要性が示唆された。
結論
HIV陽性者の精神・心理的支援の向上を目的とし、専門職向けパンフレットの作成公開により、不安の軽減と知識普及が進んだ。また、精神科受診やカウンセリング利用の阻害要因として偏見や自己解決志向が明らかになり、専門的援助の有益性の啓発が必要とされた。HIV陽性高齢者では認知機能低下のリスクが高いことが示唆され、HANDの病態解明の継続調査が求められる。ソーシャルワーカーの介入方法の明確化と心理状態の層的理解も重要とされた。

公開日・更新日

公開日
2025-05-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-05-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202319010B
報告書区分
総合
研究課題名
HIV陽性者に対する精神・心理的支援のための身体科主治医と精神科専門職の連携体制構築に資する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21HB1010
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
池田 学(国立大学法人 大阪大学 大学院医学系研究科情報統合医学 精神医学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 白阪 琢磨(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター HIV/AIDS先端医療開発センター)
  • 橋本 衛(近畿大学 医学部)
  • 仲倉 高広(京都ノートルダム女子大学 現代人間学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、精神科医やコメディカルを対象にしたHIVに関する啓発研修の効果、HIV陽性者の精神的心理的健康状態と医療利用ニーズ、さらにはHIV関連神経認知障害(HAND)に焦点を当てた研究が行われた。
研究方法
研究1:精神科医向け・コメディカル向けの研修会を実施し、研修前後でアンケート調査を実施した。
研究2:外来通院中のHIV陽性者の精神的問題や心理的ニーズに関するアンケート調査。
研究3:HIV陽性高齢者53名に認知機能検査(MMSE、ACE-Ⅲ)、心理検査(抑うつ:CES-D、不安:STAI、QOL:WHO-QOL)を実施した.
研究4:HIV医療と精神科医療との連携を促進するための研究では、MSW技術の明確化やカウンセリングの効果評価指標の抽出、喪失体験に対するコミュニティレベルの介入方法について検討。
結果と考察
研究1:精神科医向けの研修では、HIVに関する基本的な知識の普及が抵抗感の低減につながることが示唆された.また、コメディカルにおいても同様の効果が見られ、心理面や支援方法についての知識が増加し、HIV陽性者への対応が改善された.
研究2:HIV陽性者の精神的問題や心理的ニーズに関する調査では、アルコール問題や抑うつ、自殺的な考えなどが報告され、医療機関での相談が十分に行われていないことが示唆された.医療スタッフの積極的な声掛けや適切なカウンセリングの提供が求められる.
研究3:HANDに関する研究では、HIV陽性高齢者においても認知機能の低下や精神症状の存在が確認され、その診断や適切な治療についての重要性が強調された.
研究4:HIV医療と精神科医療との連携を促進するための研究では、MSW技術の明確化やカウンセリングの効果評価指標の抽出、喪失体験に対するコミュニティレベルの介入方法について検討が行われた.これにより、HIV陽性者の精神的支援や医療利用の向上につながる施策の提案がなされた.
結論
精神科医や医療関係者の教育や啓発、HIV陽性者の心理的サポートやニーズへの対応が、より効果的に行われるための手法や方策が本研究によって提案された。

公開日・更新日

公開日
2025-05-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-05-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202319010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
精神科医やコメディカルを対象にしたHIVに関する啓発研修が実施され、その効果が評価された。特に、精神科医向けの研修により、HIVに関する基本的な知識の普及が抵抗感の低減に繋がることが示唆された。また、コメディカルに対しても同様の効果が見られ、心理面や支援方法に関する知識の増加が確認されました​​。さらに、HIV関連神経認知障害(HAND)の実態把握と治療連携の重要性が強調され、これに関する研究が進められた。
臨床的観点からの成果
臨床的には、HIV陽性者の精神的問題や心理的ニーズに関する調査が行われた。調査の結果、アルコール問題や抑うつ、自殺的な考えなどが報告され、医療機関での相談が十分に行われていないことが明らかになった。これにより、医療スタッフの積極的な声掛けや適切なカウンセリングの提供が求められることが示された​​。また、精神科医向けの研修が、HIV陽性者の診療に対する精神科医の不安を軽減し、診療可能性を高める効果があることが確認された。
ガイドライン等の開発
本研究では、精神科医や医療関係者向けにHIV陽性者の診療および支援に関するハンドブックを作成した。このハンドブックは、診療に必要な基本的知識から具体的な支援方法に至るまでを網羅し、現場での活用が期待される​​。
その他行政的観点からの成果
行政的には、HIV医療と精神科医療の連携強化を目的とした施策の提案である。また、精神科医療スタッフに対する研修プログラムの拡充とその継続的な実施が重要であることが示され、これを支えるための行政的支援の必要性がある。
その他のインパクト
本研究の成果をまとめた「HIV/AIDS診療精神科ハンドブック」「HIV陽性者に関わる精神科メディカルスタッフ支援ハンドブック」は大阪大学精神医学教室ホームページからダウンロードできるようにしている。
エイズ財団などの多くの人の目につく場所にも拡散していく予定である。

発表件数

原著論文(和文)
9件
日本エイズ学会誌, カウンセリング箱庭療法学研究,HIV感染症とAIDSの治療等に報告した
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
11件
HANDに関連する認知機能障害や不安障害など認知症の精神症状に関する報告をした
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
18件
日本エイズ学会を中心にHIV陽性者の精神・心理的支援、ソーシャルワーカーの介入方法の明確化など多岐にわたる成果を国内学会で発表した。
学会発表(国際学会等)
2件
認知症患者、その介護者、および医師の治療ニーズに関する研究について発表した
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件
研修会2回、ホームページ掲載

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2025-05-01
更新日
-

収支報告書

文献番号
202319010Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,731,000円
(2)補助金確定額
8,657,978円
差引額 [(1)-(2)]
73,022円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,449,616円
人件費・謝金 4,102,674円
旅費 682,170円
その他 409,518円
間接経費 2,014,000円
合計 8,657,978円

備考

備考
代表(池田班)当初考えていた人件費が2時間ほど支払わなかったため3220円分残金が出た。
分担者(橋本班)当初学会参加予定だったものが、用務が重なったため参加できず旅費と参加費(その他)に69,802円分の残金が出た。

公開日・更新日

公開日
2025-05-01
更新日
-