Syndrome X(耐糖能異常、高血圧、高脂血症)の成因と予後に関するコーホート研究

文献情報

文献番号
199700667A
報告書区分
総括
研究課題名
Syndrome X(耐糖能異常、高血圧、高脂血症)の成因と予後に関するコーホート研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
小泉 昭夫(秋田大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
-
研究終了予定年度
-
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
昨年に引き続き生活習慣病の根幹をなすSyndrome X を中心に疫学的・実験的手法を用い、生活習慣等の要因、遺伝的要因、社会的要因を総合的に解析した。
研究方法
 1. 一般住民におけるSyndromeXの疫学: 我々が以前より追跡している田沢湖、鳥海町、十文字町の住民コホートを用い、狭義のSyndromeXの定義 (高血圧と糖尿病の同時発症)を用いた検討をおこなった。対象集団は7456名であり、昨年の家族歴、年齢、BMIを含む個人情報による解析に加え、生活習慣を中心に検討した。
2. 動物モデルによる解析: SyndromeXのリスク要因として遺伝的要因が強い事から、動物モデルによる検討もおこなった。我々が開発した自然発症糖尿病モデルマウスを用いて・M. m. castaneus との交配によりさらに精緻な遺伝子地図のmappingを試みるとともに、・Mody遺伝子のDosage effectsの影響を検討した。
3. 糖尿病、高血圧に関する分子疫学 (1)糖尿病患者を用いた検討: 遺伝的に濃厚な家系を秋田大学病院を含め、富山中央病院、秋田市2病院の糖尿病外来の患者約7500人を対照にカルテを調査し、・遺伝的負荷が濃厚なNIDDM、・Mitochonrial DNA mutationの無い症例、・40歳以前の若年発症の3つの条件から、症例を約40名を抽出した。責任遺伝子MODY4についてExon1, 2の全塩基配列を決定した。 (2)症候性糖尿病の代表的疾患であるWolfram syndromeのへテロ個体の健康リスク: 秋田県内で、Diabetes, Optic Atrophy, Diabetes Insupidus, Deafness を呈するWofram Syndrome 家系の協力を得て、連鎖解析を行った。 (3)高血圧疾患としてのCarnitine deficiency: 心、腎臓にエネルギー代謝の異常から機能不全をきたす全身性カルニチン欠乏症の遺伝子座を連鎖解析により決定し、へテロ保因者の健康リスクについて高血圧を中心に検討した。
4. 脳卒中の発症と予後に関する疫学:コホート内での脳卒中新規発症者として、123名を特定し、脳卒中の危険因子をロジスティック回帰分析により解析した。近年糖尿病あるいは耐糖能異常が増加しており、インスリン抵抗性症候群Syndrome Xの脳卒中に与える影響について定量的に検討した。今回はこれらを含む生活習慣にも範囲を広げた。
5. 高齢障害者のリハビリ、QOL: 長期施設入所におけるリハビリ:老人保健施設に入所している102名の障害老人を対象に、移動能力と身体機能(筋力、下肢関節可動域、心肺機能、立位バランス)を測定し、これらの関係について分析した。また、歩行可能な障害老人31名を対象に、起立プログラムの下肢筋力の増強と移動度との関係を分析した。
6. 地域における福祉サービスの在り方の検討: 秋田県の市町村別健康マップおよび医療福祉資源マップを作成し、県内の健康指標に関する不平等(inequality in health)との関連を解析した。
結果と考察
 1. 秋田県内三町住民7456人を対象に行った横断調査によりSyndrome X と関連する因子として問診項目では家族歴の他に飲酒習慣、健診測定項目では肝機能(ALT)の高値が明らかとなった。
2. 糖尿病モデルマウスAkita mouseの責任遺伝子が7番染色体72.4cMに存在するマーカーD7Mit258に最も強く連鎖していることが判明し、遺伝子「Mody」と命名した。同マウスのhomozygotesを用いた実験から、Modyは膵β細胞の発育分化に関与し、何らかの胎仔への致死性影響をもつことが示唆された。ヒトに相同な遺伝子は、染色体11番に存在し、ヒトにおける糖尿病においてもマウスの病態に対応する糖尿病が存在することが示唆された。Modyヘテロ糖尿病個体の合併症を検討したところ、尿崩症および糖尿病性腎症の所見を認めた。
3. (1)糖尿病患者を用いた検討:家族歴の濃厚な糖尿病家系40名について、既知の責任遺伝子MODY4を検討した結果、Exon1, 2のmutation, polymorphismは全く認められなかった。日本人症例でのMODY4の関与は少ないものと推測された。他の常染色体優性遺伝で生じる糖尿病、MODY1-3についても日本人では家族集積性の極めて強い症例においても欧米で認められる遺伝子異常は少なく日本人固有の遺伝子異常が存在するものと考えられた。(2)症候性糖尿病の代表的疾患であるWolfram syndromeのへテロ個体の健康リスク: 症候性糖尿病であるWolfram syndromeの秋田県内の家系の連鎖解析を行った結果、Caucasianで認められるWSF遺伝子座に一致する4番短腕に強い連鎖を認めた。(3)高血圧疾患としてのCarnitine deficiency:全身カルニチン欠乏症の連鎖解析を行った結果、単一遺伝子座を同定した。さらにヘテロ保因者では高血圧の頻度が高いことを見い出した。
4. 7456人のコホート研究により脳卒中の新規発症(123例)のリスク要因を検討した結果、糖尿病(odds比:2.87)、高血圧(3.78)、Syndrome X(7.42)、ALT異常(4.00)などが有意の要因として認められた。今後高血圧対策だけでなく糖尿病についての対策が重要と考えられた。
5. 「準寝たきり老人」の移動能力を規定する身体機能を判別関数を用いて検討した結果、杖歩行レベルの維持には脚力(体重比% )25%、握力(体重比% )20%、膝伸展角度-7.5度、股屈曲角度122.5度が必要と予測された。この中で脚力の影響力が最も強いことから、脚力維持改善のために10回反復最大負荷での腰かけ台からの起立運動を用いた筋力トレーニングを開発し、その効果を実証した。
6. 秋田県の市町村別健康マップおよび医療福祉資源マップを作成し、県内の健康指標に関する不平等(inequality in health)を明らかにした。主要三大死因(ガン、虚血性心疾患、脳血管障害)については、過疎化に関わる因子が健康指標の不平等に大きく関与していることが明らかとなった。自殺死亡についても不平等が存在することが明らかになり、人的医療資源の希薄さおよび低収入が市町村別自殺死亡の高さに寄与している可能性が示唆された。
結論
近年の生活習慣および生活環境の変化で糖尿病が脳血管疾患の発症に大きな影響をもつことが明らかになった。また、糖尿病においては家族集積性が示され、日本人固有の遺伝的素因の存在が明らかになった。また高血圧においても遺伝的素因が明らかになった。こうした家族歴・遺伝歴のある個人においては生活習慣への早期介入の必要性が示された。また、脳血管疾患による運動障害では、下肢筋力を増強することによりQOLの改善がなされることが明らかになった。この一方、現状では秋田県内では医療福祉環境に顕著な地域差が認められた。予防・リハビリを効果あるものにするためには、福祉環境が劣悪である地域への介入が今後の課題であろう。

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