HIV感染症診療の提供体制の評価及び改善のための研究

文献情報

文献番号
202319005A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染症診療の提供体制の評価及び改善のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21HB1005
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
内藤 俊夫(順天堂大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 大塚 文男(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科)
  • 鈴木 麻衣(順天堂大学 医学部)
  • 塚田 訓久(独立行政法人国立病院機構東埼玉病院)
  • 森 博威(順天堂大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
9,970,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
AIDS指標疾患などのHIVに関連する病態の他に、加齢に伴う疾患もHIV感染者の予後には多大な影響を及ぼす。本邦でも2020年よりDTG/3TCによる2剤療法が処方可能となり、安全性や薬剤負荷軽減を鑑み、多疾患併存や多剤併用(ポリファーマシー)の患者への使用が期待されている。
安全に持続可能な抗HIV薬を知ることは大変重要である。しかしながら、日本のHIV感染者の抗HIV薬2剤療法の処方割合、継続率についての報告はない。我々は本邦のHIV感染者の多施設のレセプトを用い、データベース研究を行った。
研究方法
Medical Data Vision Co., Ltd. (MDV; Tokyo, Japan)に登録されているレセプトデータベースを用い、横断的後ろ向き観察研究を行った。このデータベースには、2021年12月時点で、日本の病院の26%にあたる390病院の4,400万名の患者情報が含まれていた。この中で、2018年1月1日から2021年12月31日までの期間に抗HIV薬を2回以上処方されたHIV感染者5,088名を対象として解析した。  
HIV感染症や合併症の有無はICD-10コードを元に決定した。最終の受診日を基準にして、年齢を6グループに分類した(18-29, 30-39, 40-49, 50-59, 60-69, ≥70)。患者の性別、合併症の数や種類、抗HIV薬とその他の内服薬、AIDS指標疾患の有無について記述的に調査した。
結果と考察
対象患者のうち、該当期間中にDTG/3TCに249名、BIC/FTC/TAFに1,280名が処方変更されていた。処方割合の年次変化を図1に示す。スイッチされた患者の平均年齢は、DTG/3TC群49±12.5歳、BIC/FTC/TAF群45±11.4歳であり、2剤療法群で有意に高かった(P=0.005)。性別では有意差を認めなかった。
併存症については、高血圧症(P=0.013)、脂質異常症(P<0.001)、糖尿病(P=0.02)を有する患者で有意にBIC/FTC/TAFよりもDTG/3TCにスイッチされていた。AIDS指標疾患の有無では2剤療法の選択率に有意差は認めなかった。
スイッチ後の薬剤継続率Kaplan-Meier解析を図2で示す。処方開始後700日の時点で、DTG/3TC群とBIC/FTC/TAF群で継続率の有意差を認めなかった。
併存症については、脂質異常症(P=0.002)または糖尿病(P=0.011)を有する患者で、有意にBIC/FTC/TAFよりもDTG/3TCにスイッチされていた。AIDS指標疾患の有無では2剤療法の選択率に有意差は認めなかった。
日本で薬剤が使用可能になってから処方されるまでの期間については、両群間で差を認めなかった(p=0.28)。
スイッチ後の薬剤継続率Kaplan-Meier解析を図3で示す。処方開始後700日の時点で、DTG/3TC群とBIC/FTC/TAF群で継続率の有意差を認めなかった。
 本邦では2020年よりDTG/3TCによる2剤療法が使用可能となり、安全性や経済性の意味から注目されている。今回の研究により、同年から使用が増加しているものの、2019年に適応となった3剤療法のBIC/FTC/TAFに比較すると少数の患者にのみ処方されていることが示された。2剤のみの内服による安全性のメリットが重視されたためか、高年齢の患者、高血圧症や糖尿病を有する患者、に優先的に投与されていることも明らかになった。本邦で「2剤療法がどのような対象に処方されているか」の報告はなく、今後の薬剤選択のための貴重な基盤データとなりうる。
 2剤療法による治療の失敗・中断が危惧されていたが、本データベース研究では治療開始後700日においても、従来の3剤療法の継続率と差を認めなかった。これらの結果から、2剤療法は薬剤負荷を減らしつつも、安全に継続できる薬剤であることが推測できる。
 本データベースにはCD4陽性細胞数やHIV-RNA量等の検査データを含まないため、2剤療法にスイッチ後の免疫学的/ウイルス学的影響を評価することは困難である。このため、スイッチした後に入院した患者の情報を詳細に解析したが、2群ともに明らかな薬剤変更によるAIDS発症や副作用による入院を認めなかった。
結論
今回の全国レセプトデータベース研究結果から、2剤療法が高年齢患者や生活習慣病を有する患者に積極的に用いられていることが明らかになった。HIV感染者数の増加や高齢化により併存症が増えることにより、今後日本ではHIV診療専門医だけでなく総合診療/プライマリ・ケア医が処方する機会が増えることが予想される。本研究成果は、総合診療/プライマリ・ケア医が利用しやすい抗HIV薬についての有用なビッグデータ解析の情報である。

公開日・更新日

公開日
2025-04-18
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-04-18
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202319005B
報告書区分
総合
研究課題名
HIV感染症診療の提供体制の評価及び改善のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21HB1005
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
内藤 俊夫(順天堂大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 大塚 文男(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科)
  • 鈴木 麻衣(順天堂大学 医学部)
  • 塚田 訓久(独立行政法人国立病院機構東埼玉病院)
  • 森 博威(順天堂大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
AIDS指標疾患などのHIVに関連する病態の他に、加齢に伴う疾患もHIV感染者の予後には多大な影響を及ぼす。本邦でも2020年よりDTG/3TCによる2剤療法が処方可能となり、安全性や薬剤負荷軽減を鑑み、多疾患併存や多剤併用(ポリファーマシー)の患者への使用が期待されている。
安全に持続可能な抗HIV薬を知ることは大変重要である。しかしながら、日本のHIV感染者の抗HIV薬2剤療法の処方割合、継続率についての報告はない。我々は本邦のHIV感染者の多施設のレセプトを用い、データベース研究を行った。
研究方法
Medical Data Vision Co., Ltd. (MDV; Tokyo, Japan)に登録されているレセプトデータベースを用い、横断的後ろ向き観察研究を行った。このデータベースには、2021年12月時点で、日本の病院の26%にあたる390病院の4,400万名の患者情報が含まれていた。この中で、2018年1月1日から2021年12月31日までの期間に抗HIV薬を2回以上処方されたHIV感染者5,088名を対象として解析した。  
HIV感染症や合併症の有無はICD-10コードを元に決定した。最終の受診日を基準にして、年齢を6グループに分類した(18-29, 30-39, 40-49, 50-59, 60-69, ≥70)。患者の性別、合併症の数や種類、抗HIV薬とその他の内服薬、AIDS指標疾患の有無について記述的に調査した。
結果と考察
対象患者のうち、該当期間中にDTG/3TCに249名、BIC/FTC/TAFに1,280名が処方変更されていた。処方割合の年次変化を図1に示す。スイッチされた患者の平均年齢は、DTG/3TC群49±12.5歳、BIC/FTC/TAF群45±11.4歳であり、2剤療法群で有意に高かった(P=0.005)。性別では有意差を認めなかった。
併存症については、高血圧症(P=0.013)、脂質異常症(P<0.001)、糖尿病(P=0.02)を有する患者で有意にBIC/FTC/TAFよりもDTG/3TCにスイッチされていた。AIDS指標疾患の有無では2剤療法の選択率に有意差は認めなかった。
スイッチ後の薬剤継続率Kaplan-Meier解析を図2で示す。処方開始後700日の時点で、DTG/3TC群とBIC/FTC/TAF群で継続率の有意差を認めなかった。
併存症については、脂質異常症(P=0.002)または糖尿病(P=0.011)を有する患者で、有意にBIC/FTC/TAFよりもDTG/3TCにスイッチされていた。AIDS指標疾患の有無では2剤療法の選択率に有意差は認めなかった。
日本で薬剤が使用可能になってから処方されるまでの期間については、両群間で差を認めなかった(p=0.28)。
スイッチ後の薬剤継続率Kaplan-Meier解析を図3で示す。処方開始後700日の時点で、DTG/3TC群とBIC/FTC/TAF群で継続率の有意差を認めなかった。
 本邦では2020年よりDTG/3TCによる2剤療法が使用可能となり、安全性や経済性の意味から注目されている。今回の研究により、同年から使用が増加しているものの、2019年に適応となった3剤療法のBIC/FTC/TAFに比較すると少数の患者にのみ処方されていることが示された。2剤のみの内服による安全性のメリットが重視されたためか、高年齢の患者、高血圧症や糖尿病を有する患者、に優先的に投与されていることも明らかになった。本邦で「2剤療法がどのような対象に処方されているか」の報告はなく、今後の薬剤選択のための貴重な基盤データとなりうる。
 2剤療法による治療の失敗・中断が危惧されていたが、本データベース研究では治療開始後700日においても、従来の3剤療法の継続率と差を認めなかった。これらの結果から、2剤療法は薬剤負荷を減らしつつも、安全に継続できる薬剤であることが推測できる。
 本データベースにはCD4陽性細胞数やHIV-RNA量等の検査データを含まないため、2剤療法にスイッチ後の免疫学的/ウイルス学的影響を評価することは困難である。このため、スイッチした後に入院した患者の情報を詳細に解析したが、2群ともに明らかな薬剤変更によるAIDS発症や副作用による入院を認めなかった。
結論
今回の全国レセプトデータベース研究結果から、2剤療法が高年齢患者や生活習慣病を有する患者に積極的に用いられていることが明らかになった。HIV感染者数の増加や高齢化により併存症が増えることにより、今後日本ではHIV診療専門医だけでなく総合診療/プライマリ・ケア医が処方する機会が増えることが予想される。本研究成果は、総合診療/プライマリ・ケア医が利用しやすい抗HIV薬についての有用なビッグデータ解析の情報である。

公開日・更新日

公開日
2025-04-18
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202319005C

収支報告書

文献番号
202319005Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
12,960,000円
(2)補助金確定額
12,939,250円
差引額 [(1)-(2)]
20,750円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,047,051円
人件費・謝金 2,827,419円
旅費 1,175,700円
その他 4,899,080円
間接経費 2,990,000円
合計 12,939,250円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2025-04-18
更新日
-