地域におけるMSMのHIV感染・薬物使用予防策と支援策の研究

文献情報

文献番号
202319004A
報告書区分
総括
研究課題名
地域におけるMSMのHIV感染・薬物使用予防策と支援策の研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21HB1004
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
生島 嗣(特定非営利活動法人ぷれいす東京)
研究分担者(所属機関)
  • 大木 幸子(杏林大学保健学部)
  • 野坂 祐子(大阪大学大学院 人間科学研究科)
  • 塩野 徳史(大阪青山大学 健康科学部 看護学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
8,031,000円
研究者交替、所属機関変更
研究代表者交替 樽井正義(令和3年4月1日~令和6年3月5日) →生島嗣(令和6年3月6日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
MSMのHIV感染・薬物使用の予防と支援を目的に5つの研究を行った。
(1) MSMを対象としたメンタルヘルスと性行動に関するWeb調査: 日本のMSMの小児期逆境体験と現在の性行動の関連、薬物依存の重症度に影響を与える因子を探索する。
(2) ゲイコミュニティにおける性行動および予防啓発に関する動向の把握と効果評価: 対面でコミュニティセンターを利用する人とWebでつながる人の両方の実態を捉える。
(3) MSMを対象とした健康のためのコミュニケーション支援ツールの開発と評価: 感情表出や安定した対人関係の構築が苦手な傾向のある若年MSMを考慮し、セルフスタディ用の支援ツールを開発し、評価を行う。
(4) 薬物使用の問題を抱えるHIV陽性者への支援のための精神保健福祉センターとのネットワークモデルの検討: 薬物使用の問題を抱えるHIV陽性者への支援にあたり、HIV診療機関や陽性者支援組織と精神保健福祉センターとの連携方策を明らかにする。
(5) HIV陽性者と薬物使用者への支援策と感染・薬物使用予防策の検討: 薬物使用に関わる生活上、医療上の問題を明らかにし、薬物使用者の感染症予防に必要とされる情報の整理・提供を行う。
研究方法
(1) 自己回答式インターネット調査「第2回LASH調査」に寄せられた6,071人の回答のうち、対象質問の全問回答者の回答を解析した。
(2) HIV感染予防意識・行動等について、対面とWebでコミュニティセンターにつながっている人を分けてインターネット調査を実施した。
(3) 1~2年目に作成した自己学習ツール・動画教材をもとに、MSMなどを対象としたオンライン講座と支援者を対象にした研修会を実施し、プログラム中の発話とアンケート結果から、現場のニーズと課題を把握した。
(4) エイズ診療拠点病院の専任看護師と精神保健福祉センターの薬物相談担当者を対象に、薬物問題に対する支援についてフォーカスグループディスカッションを行った。
(5) 薬物使用の経験を持つHIV陽性のMSM、使用者と陽性者の支援者への面接調査を行い、求められる情報を整理し、それを必要としている集団への提供方法を策定した。
(倫理面への配慮)各研究分担者が所属する機関の倫理委員会に審査を申請し、許可を得た。
結果と考察
(1) 解析対象者4,364 人のうち、小児期逆境体験(ACEs)の得点が4点以上の回答者の割合は14.5%で、HIVステータス別で比較すると有意差が見られた。また、小児期逆境体験はセックスの相手の人数やセックスワークの経験と有意に関連しており、薬物使用の傾向も高める可能性が示唆された。小児期逆境体験を多く持つMSMがHIV感染リスクの高い行動を取る背景や、その保護要因については更なる研究が求められる。
(2) 有効回答1,596人のうち、HIV抗体検査受検経験では、これまでにあると回答した人の割合は全体で対面64.2%、Web42.7%であった。過去6ヶ月間の男性とのアナルセックスにおけるコンドーム常用割合は23.1%、相手別に彼氏や恋人18.3%、友達やセクフレ27.0%、その場限りの相手26.2%であり横這いであった。PrEPを知っている人の割合は対面30.9%、Web10.2%、利用希望がある人は対面52.1%、Web30.6%、過去6ヶ月間の利用経験は対面9.1%、Web3.3%であり、対面でつながっている人ではやや上昇しており、支援体制の整備が望まれる。
(3) 境界線や同意に関する教材は、コミュニティセンターや医療機関でも活用可能であることが確認され、当事者の自己学習用教材としても用いられた。研修等での視聴後フィードバックをもとに、動画の内容を修正し、DVなどの危険な関係性におけるコミュニケーションの留意事項を加えることにした。
(4) 連携のためのポイントとして、支援メニューの一つとしての精神保健福祉センターの提示、薬物相談の動機づけ支援と連続したセンターの利用、担当者同士での事前相談、家族やパートナー等への早めの相談支援、が抽出された。
(5) 薬物使用と感染症(HIV、HBV、HCV)に関する基本情報をまとめたパンフレットを作成し、薬物使用と感染症の相談窓口と情報サイトを掲載した。これを、「声の架け橋プロジェクト」の協力を得て転帰調査への参加案内とともに、保護観察対象者に配布した。
結論
様々な背景をもつMSMの基礎資料と、感染予防と薬物使用予防の啓発活動において、コミュニティセンター等を始めとするMSMコミュニティに近い支援者と、精神保健福祉センター、医療機関等の援助機関それぞれにおいて取り組むべき課題が明らかにされた。今後もHIVと薬物使用のあるMSMへの支援のために、多様なニーズに即した啓発や支援の提供が継続される必要がある。

公開日・更新日

公開日
2025-04-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-04-14
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202319004B
報告書区分
総合
研究課題名
地域におけるMSMのHIV感染・薬物使用予防策と支援策の研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21HB1004
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
生島 嗣(特定非営利活動法人ぷれいす東京)
研究分担者(所属機関)
  • 大木 幸子(杏林大学保健学部)
  • 野坂 祐子(大阪大学大学院 人間科学研究科)
  • 塩野 徳史(大阪青山大学 健康科学部 看護学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
研究代表者交替 樽井正義(令和3年4月1日~令和6年3月6日) →生島嗣(令和6年3月6日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
MSMのHIV感染・薬物使用の予防と支援を目的に5つの研究を行った。
(1) MSMを対象としたメンタルヘルスと性行動に関するWeb調査: 日本のMSMの薬物使用や小児期逆境体験、相談行動等に関する基礎データを得る。
(2) ゲイコミュニティにおける性行動および予防啓発に関する動向の把握と効果評価: 全国6コミュニティセンターによる啓発活動の効果評価を行う。
(3) MSMを対象とした健康のためのコミュニケーション支援ツールの開発と評価: 感情表出や安定した対人関係の構築が苦手な傾向のある若年MSMのための自習ツールを開発し、評価を行う。
(4) 薬物使用の問題を抱えるHIV陽性者への支援のための精神保健福祉センターとのネットワークモデルの検討: HIV診療機関や陽性者支援組織と精神保健福祉センターとの連携方策を明らかにする。
(5) HIV陽性者と薬物使用者への支援策と感染・薬物使用予防策の検討: 薬物使用者に有用な感染症予防と支援の情報を整理し、提供する。
研究方法
(1) 全94問からなる自己回答式Web調査「第2回LASH調査」を実施した。
(2) HIV感染予防意識・行動等について、コミュニティセンターのある6地域とない3地域のMSM対象、アンケートモニター登録の成人男性から抽出したMSM対象、また対面とWebでコミュニティセンターにつながる人を対象に、3つのWeb調査を行った。
(3) MSM向けの自習ツール・動画教材を作成し、MSM等を対象としたオンライン講座と支援者を対象にした面接調査と研修会を実施し、効果と課題を検討した。
(4) 精神保健福祉センターでMSMかHIV陽性者から薬物相談を受けた担当者と回復プログラム利用者の面接調査、およびエイズ診療拠点病院の専任看護師と精神保健福祉センターの薬物相談担当のフォーカスグループディスカッションを行った。
(5) 薬物使用経験を持つHIV陽性のMSM、使用者と陽性者の支援者への面接調査を行い、求められる情報を整理し、それを必要としている集団への提供方法を策定した。
(倫理面への配慮)各研究分担者が所属する機関の倫理委員会に審査を申請し、許可を得た。
結果と考察
(1) 6,071人の回答を解析した。2016年の前回調査と比べると、U=Uを知っている人は43.0%から72.3%、PrEPを知っている人は10.6%から72.2%に増加。小児期逆境体験の解析対象者4,364人のうち、その得点が4点以上の回答者の割合は14.5%で、HIVステータス別で有意差が見られた。また、小児期逆境体験はセックスの相手の人数やセックスワークの経験と有意に関連し、薬物使用の傾向も高める可能性が示唆された。
(2) 1年目の調査のコンドーム常用率は20%台で、2010年以降の先行研究の50~60%台からどの地域でも下降していた。2年目の調査の分析対象5,010人のHIV抗体検査受検経験は30.7%で、1年目の調査の68.7%と比べ、コミュニティセンターによる予防啓発活動の効果が示唆された。3年目の調査の分析対象1,596人のうち、HIV抗体検査受検経験では、これまでにあると回答した人の割合は全体で対面64.2%、Web42.7%であった。PrEPを知っている人の割合は対面30.9%、Web10.2%、利用希望がある人は対面52.1%、Web30.6%で、支援体制の整備が望まれる。
(3) 1~2年目に、MSMが自己のコミュニケーションの傾向に気づくためのワークシートと4つの動画教材を作成し、その後、研修等でのフィードバックをもとに内容を修正し、DVなどの危険な関係性における留意事項を加えた。境界線や同意に関する教材は、MSMの自己学習の他にコミュニティセンターや医療機関でも活用可能であることが確認された。
(4) 精神保健福祉センターには回復や生活を支援する他機関につなぐ役割があることが示された。連携のポイントとしては、支援メニューの一つとしての精神保健福祉センターの提示、薬物相談の動機づけ支援と連続したセンターの利用、担当者同士での事前相談、家族やパートナー等への早めの相談支援、が抽出された。
(5) 支援者への調査で必要性が示された薬物使用と感染症(HIV、HBV、HCV)に関する基本情報、相談窓口と情報サイトをまとめたパンフレットを作成した。これを、「声の架け橋プロジェクト」の協力を得て保護観察対象者に配布した。
結論
様々な背景をもつMSMの基礎資料と、感染予防と薬物使用予防の啓発活動において、コミュニティセンター等を始めとする支援者と、精神保健福祉センター、医療機関等の援助機関それぞれにおいて取り組むべき課題が明らかにされた。今後もHIVと薬物使用のあるMSMへの支援のために、多様なニーズに即した啓発や支援の提供が継続される必要がある。

公開日・更新日

公開日
2025-04-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202319004C

収支報告書

文献番号
202319004Z