文献情報
文献番号
202319003A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV・エイズの早期治療実現に向けての研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21HB1003
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
谷口 俊文(国立大学法人千葉大学 医学部附属病院・感染制御部)
研究分担者(所属機関)
- 野田 龍也(公立大学法人奈良県立医科大学 医学部 公衆衛生学講座)
- 今橋 真弓(柳澤 真弓)(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 臨床研究センター 感染・免疫研究部)
- 尾又 一実(国立国際医療研究センター 臨床研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
10,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
世界各国では国連が提唱している90-90-90を達成するためにHIV感染者の治療をCD4細胞数の値に関わらず、すべての感染者を対象に開始することを提言している。新規HIV感染者を減らすためには、HIV感染者の診断を増やすこと(検査体制)、HIVと診断された感染者をなるべく多くARTで治療すること(治療体制)が重要であるとされる。本研究ではHIV感染者をなるべく多くARTで治療する治療体制の構築のために、早期治療(Rapid ART)の効果について基礎資料を作成することを目的とする。
研究方法
1)早期治療の数理モデルによる推計方法の研究方法、手段等の経過:コンパートメントモデルを中心とした数理モデルによる推計方法を用いる。早期治療がもたらす新規感染者数への影響の数理モデルを確立して、現在の日本における新規感染者数における流行曲線に組み込む。
2)NDBデータからエイズ発症者の解析の研究方法、手段等の経過:NDBから得られるHIV感染者のコホートで一人あたりの年間の総医療費などを算出する。またNDB上のHIV感染者のうち、エイズ指標疾患を発症している患者をコホート化する。エイズ発症に伴う入院医療費などを計算する。HIV感染者を特定する技術(現在継続的に投薬を受けている患者数)の精緻化を行う。
3)早期治療実現のための経済的実態調査の研究方法、手段等の経過:以下の実態調査を名古屋医療センターで行った。
・HIVと診断されてから、治療開始までにかかる期間
・自費診療や助成制度利用のない保険診療などを利用して治療している感染者数の推計、(ⅰ)これら感染者が治療している場合に負担している費用の実態把握、(ⅱ)治療していない感染者数と感染させるリスクの推計
・海外で治療を受けていたが日本では治療を受けていない、あるいは自費診療や助成制度利用のない保険診療などで治療している人の数の推計、(ⅰ)どうやって治療をしているのか実態調査(治療中断・自己輸入など)、(ⅱ)日本で治療している場合に負担する費用の実態把握
・世界各国における早期治療の導入とその財源に関する調査
2)NDBデータからエイズ発症者の解析の研究方法、手段等の経過:NDBから得られるHIV感染者のコホートで一人あたりの年間の総医療費などを算出する。またNDB上のHIV感染者のうち、エイズ指標疾患を発症している患者をコホート化する。エイズ発症に伴う入院医療費などを計算する。HIV感染者を特定する技術(現在継続的に投薬を受けている患者数)の精緻化を行う。
3)早期治療実現のための経済的実態調査の研究方法、手段等の経過:以下の実態調査を名古屋医療センターで行った。
・HIVと診断されてから、治療開始までにかかる期間
・自費診療や助成制度利用のない保険診療などを利用して治療している感染者数の推計、(ⅰ)これら感染者が治療している場合に負担している費用の実態把握、(ⅱ)治療していない感染者数と感染させるリスクの推計
・海外で治療を受けていたが日本では治療を受けていない、あるいは自費診療や助成制度利用のない保険診療などで治療している人の数の推計、(ⅰ)どうやって治療をしているのか実態調査(治療中断・自己輸入など)、(ⅱ)日本で治療している場合に負担する費用の実態把握
・世界各国における早期治療の導入とその財源に関する調査
結果と考察
1)Rapid ARTにより新規感染者やエイズ発症症例がどの程度減少するのかをシミュレーション・モデルにて検証:現在のHIV感染者数の流行状況を組み込んだモデルでは、すでに2014年をピークに減少しつつあり、これを踏まえたモデルに組み込んだ際には感染規模の小さい国では早期治療を導入することによる新規感染者数への影響は限定的であることがわかった。しかしながら感染が拡大している国に早期治療の数理モデルを当てはめた場合、新規感染者数の減少に大きく寄与することが判明した。
2)レセプトデータ及びその他のデータを用いた分析:レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を用い、HIV感染者を特定する技術(現在継続的に投薬を受けている患者数)を精緻化することを目的としている。現在継続的に投薬を受けているHIV感染者数をNDBで集計する手法につき、従来行われてきた集計方法を検討し、論点を整理するとともに、集計方法の改善を検討した。
3)Rapid ART実現のための経済的実態調査:諸外国における早期治療の実態:WHOによると2023年時点で早期治療を導入している国は99ヶ国であり、健康保険のほか、政府による公的補助、また途上国においてはPEPFARやGlobal Fundなどが財源となっている。すなわち早期治療を導入しているほとんどの国ではCD4値やHIV-RNA量など日本の身体障碍者手帳を申請するために必要な「4週間あいた2つの検査値」が揃わないまま治療が始められ、すぐにHIV-RNA量が検出感度以下になる。ゆえに、日本以外の国で治療を開始されたHIV陽性者は公費申請をすることができない実態が明るみとなった。
2)レセプトデータ及びその他のデータを用いた分析:レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を用い、HIV感染者を特定する技術(現在継続的に投薬を受けている患者数)を精緻化することを目的としている。現在継続的に投薬を受けているHIV感染者数をNDBで集計する手法につき、従来行われてきた集計方法を検討し、論点を整理するとともに、集計方法の改善を検討した。
3)Rapid ART実現のための経済的実態調査:諸外国における早期治療の実態:WHOによると2023年時点で早期治療を導入している国は99ヶ国であり、健康保険のほか、政府による公的補助、また途上国においてはPEPFARやGlobal Fundなどが財源となっている。すなわち早期治療を導入しているほとんどの国ではCD4値やHIV-RNA量など日本の身体障碍者手帳を申請するために必要な「4週間あいた2つの検査値」が揃わないまま治療が始められ、すぐにHIV-RNA量が検出感度以下になる。ゆえに、日本以外の国で治療を開始されたHIV陽性者は公費申請をすることができない実態が明るみとなった。
結論
早期治療を導入することにより、加療率を向上させ、診断から治療までの時間を短くすることで、新規感染者数、総感染者数、エイズ発症者総数が減少に転じるが、日本は新規感染者数が少ない低蔓延国であり、そのような場合には早期治療が新規感染者数に与える影響は少ないことが数理モデルにより示された。高蔓延国であれば、早期治療による効果は大きく出る。
エイズ発症者に関しては医療費が非エイズ発症者より多いこともあり、エイズ発症者の現象では医療費の削減も見込むことができる。公費の基準を満たさないために約1.8%の患者が治療を受けられない状況が判明し、また治療済みの患者でも海外で診断を受けた場合に公費による治療を受けられない人がいるため、こうした患者への医療支援を検討すべきである。
エイズ発症者に関しては医療費が非エイズ発症者より多いこともあり、エイズ発症者の現象では医療費の削減も見込むことができる。公費の基準を満たさないために約1.8%の患者が治療を受けられない状況が判明し、また治療済みの患者でも海外で診断を受けた場合に公費による治療を受けられない人がいるため、こうした患者への医療支援を検討すべきである。
公開日・更新日
公開日
2025-04-08
更新日
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