環境水に含まれる新型コロナウイルス等病原体ゲノム情報の活用に関する研究

文献情報

文献番号
202318039A
報告書区分
総括
研究課題名
環境水に含まれる新型コロナウイルス等病原体ゲノム情報の活用に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23HA2015
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
吉田 弘(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
研究分担者(所属機関)
  • 佐々木 顕(総合研究大学院大学・先導科学研究科・生命共生進化学専攻)
  • 喜多村 晃一(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 神垣 太郎(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
  • 濱崎 光宏(福岡県保健環境研究所ウイルス課)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
72,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先行研究より下水中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)サーベイランス体制構築のため、下水処理場及び施設排水を対象としたウイルスゲノム検出方法、解析手法の検討を行ってきた。本研究計画申請時は、国土交通省、厚生労働省による連携調査にて下水中ウイルス量と感染者数の解析を実施し公表に向けた課題を整理することとし、下水処理場、施設を対象に複数病原体検出系を検討することを目的とした。しかし令和5年5月に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が5類感染症に移行したこと、令和4年度内閣官房実証事業による処理場及び個別施設での実証結果の公表、そして令和6年度感染症流行予測調査事業にSARS-CoV-2下水サーベイランスが組み込まれる方針となったことを踏まえ、新たな課題に対応するため、全数から定点把握へ移行に伴う下水中のウイルス量の解析方法、同一処理区内にて異なる手法で測定された下水中ウイルス変動量の比較・検討、令和5年5月以降、新たに調査を開始する地方公共団体における検査体制、について検討を行う。
研究方法
下水中のSARS-CoV-2情報を活用するため対象自治体からヒアリングにより公表時の要件を整理、情報発信用ウェブサイトのデザインを行った。地方衛生研究所(以下、地衛研)6か所の協力により定点あたりの報告数と下水中のコロナウイルス量との比較解析を実施。また令和4年度の実証事業の結果を踏まえ、同一処理区内にて異なる手法で測定された下水中ウイルス量を比較した。さらに下水サーベイランスの感度分析、数理モデルを用いた下水ウイルス量と感染者数の双方向予測アプリ開発、新たに調査を開始する地方衛生研究所の検査体制の構築の要件を整理した。
下水中の複数種ウイルス等同時検査手法の検討するため、下水処理場を対象とした下水検査には感染症発生動向調査より代表的なウイルスを選定し、リアルタイムPCR法による呼吸器系、腸管系ウイルス疾患検出パネルを作成、高齢者施設からのヒアリングで感染症を選定し施設排水検査向けのパネルを作成した。
結果と考察
・国土交通省、厚生労働省連携による下水調査結果を研究班が解析し、ウェブサイトで令和5年9月より公表を開始した。 
・地衛研6か所にて同じリアルタイムPCR検査キットを用いて測定した下水中のウイルス量と定点あたり報告数を比較したところ処理場ごとに増減傾向が異なるため、下水固有の要因が影響している可能性を示唆した。また下水中のウイルスゲノム検出時の阻害要因の評価系を検討した。
・同一処理区内にて異なる手法で測定した下水中ウイルス量を比較、検討したところ、検査手法が異なる調査でも、感染動向のトレンド把握には一定の頑健性が確認できた。しかし信頼性を担保するためには検査機関ごとに精度管理が必要である。
・下水サーベイランスの結果を疫学解析に活用するべく全数報告時のデータを活用して次の基盤的研究を行った。下水中のウイルスコピー数をサーベイランスの閾値として用いるため、公開データ(内閣官房実証事業)を用いて検討したところ、1×10^5 GC/Lを閾値として設定した場合、もっとも尤度が高くなり、人口10万人当たりの報告数が300人以上あるいは100人以下である確率が高いことがわかった。
・下水中ウイルス濃度を用いて処理区域でのSARS-CoV-2の流行を予測する数理疫学モデルを開発した。このモデルを2020年以降のA自治体での下水中ウイルス濃度時系列データに適用することにより、A自治体での流行の高い精度の予測が可能になった。結果を踏まえ地域固有のパラメータを推計し感染動向を把握するアプリを開発した。
・このように下水サーベイランスの結果を感染動向の把握のために活用するには、下水固有の要因を踏まえ処理区ごとに中長期的なデータの蓄積を行い多面的な検討がデータ解析時に必要である。下水中のSARS-CoV-2情報は調査対象とする地域固有の要因に依存する情報であり、COVID-19を把握する定点サーベイランスの補完的な役割として用いることが適当である。
・また本研究では下水中(処理場、施設)の複数種ウイルス等同時検査手法の検討を行った。国内で報告される代表的な呼吸器、腸管系ウイルスを検出するリアルタイムPCR用カスタムパネルを作成し評価を行ったところ、複数病原体ゲノム検出に対応した簡便な検査系を作成することができた。しかしコスト、検出感度など更なる検討が必要であった。
結論
SARS-CoV-2下水サーベイランスは下水固有の要因が測定結果に影響するため、COVID-19の感染動向を把握する補完的な情報として活用が適当である。下水中のウイルス量の活用法は今後とも研究が必要である。

公開日・更新日

公開日
2025-06-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2025-06-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202318039C

収支報告書

文献番号
202318039Z