文献情報
文献番号
202318007A
報告書区分
総括
研究課題名
急性弛緩性麻痺等の神経疾患に関する網羅的病原体検索を含めた原因及び病態の究明、治療法の確立に資する臨床疫学研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22HA1003
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
多屋 馨子(神奈川県衛生研究所 )
研究分担者(所属機関)
- 有田 峰太郎(国立感染症研究所 ウイルス第2部第2室)
- 花岡 希(国立感染症研究所 感染症危機管理研究センター)
- 林 昌宏(国立感染症研究所ウイルス第1部第3室)
- 高梨 さやか(国立感染症研究所感染症疫学センター)
- 四宮 博人(愛媛県立衛生環境研究所)
- 佐久間 啓(公益財団法人東京都医学総合研究所 脳・神経科学研究分野)
- 原 誠(日本大学 医学部 内科学系 神経内科学分野)
- 八代 将登(岡山大学 医学部 小児医科学)
- 細矢 光亮(公立大学法人福島県立医科大学 医学部 小児科学講座)
- 吉良 龍太郎(福岡市立こども病院 小児神経科)
- 奥村 彰久(愛知医科大学 医学部 小児科)
- 鳥巣 浩幸(福岡歯科大学総合医学講座小児科学分野)
- 森 墾(自治医科大学 医学部 放射線医学講座)
- Chong Pin Fee(チョン ピンフィー)(九州大学病院 小児科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
9,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
急性脳炎(脳症を含む)と急性弛緩性麻痺(AFP)は5類感染症全数把握疾患で診断後7日以内の届出が義務づけられている。COVID-19流行前後の急性脳炎の発生動向を検討する。病原体不明急性脳炎から日本脳炎(JE)・ダニ媒介脳炎(TBE)を鑑別し、多項目病原体探索を実施する。自己免疫性脳炎とウイルス性脳炎の鑑別法を検討する。2019-22年発症AFP症例数と保健所届出数を緊急調査する。急性弛緩性脊髄炎(AFM)の臨床像と神経生理所見、画像所見との相関を明らかにする。地方衛生研究所(地衛研)での病原体検査の実態を調査し、国立感染症研究所(感染研)でポリオウイルス(PV)検査とエンテロウイルス(EV)検出方法を標準化する。
研究方法
急性脳炎の発生動向を解析し、病原体不明急性脳炎の病原体検索を行う。JEV・TBEV特異的IgM抗体価を測定し、SARS-CoV-2に加えて、Fast track Diagnosticsの4種キットで32種の病原体をスクリーニングする。自己免疫性脳炎のバイオマーカーを検索する。AFP症例のPV検査は感染研で、EV-D68 等を含めた非ポリオEV等の病原体検索は地衛研で実施する。日本小児神経学会の協力を得て、2019-22年発症AFPの緊急全国調査を実施し、保健所届出状況、症状所見、神経生理検査、画像検査、病原体の観点から検討する。
結果と考察
2018-23年9月に届出された急性脳炎は3,288例で、COVID-19流行前後で原因病原体は異なっていた。急性脳炎の約半数で原因ウイルスが同定された。福島県、神奈川県、中四国地方の急性脳炎発生動向を検討した。福島県の急性脳炎・AFP発生頻度から全国における発生頻度が推測でき、クラスター発生時は早期探知が可能となった。JE・TBEの鑑別には急性期の血清・髄液、回復期の血清が必要で、病原体不明急性脳炎は急性期の全血、髄液、呼吸器由来検体、便、尿の確保が重要である。2023年はヒトパレコウイルス脳炎(脳症)症例が増加した。JE・TBEと診断された症例はなかった。自己免疫性脳炎で髄液細胞数増加群では髄液中蛋白やサイトカインが有意に高値で、ウイルス性脳炎の紛れ込みが考えられた。神経抗体陽性で潜在性の進行を呈した患者のうち一部は記憶障害から認知症と臨床診断されていた。全例LGI1抗体陽性であった。検体輸送はIATA の国際基準に則って、感染性のある荷物 (カテゴリーB 相当)の搬送が一般宅配便の利用約款で制限されている事実が十分に周知されておらず手引き等で周知する必要がある。2018年第18週-2023年第39週の届出AFPは364例で、2018年以外はWHO予想症例数を下回った。感染研でPV、地衛研でPV以外のAFP原因病原体検査が行われていた。2018-22年届出症例の20.7%からEV-D68が検出され、2018・22年に集中した。PV陽性症例はなかった。2019-22年の緊急全国調査で145例のAFPが報告されたが、保健所届出症例は41例(30%)と少なかった。緊急全国調査によりAFMの神経生理所見と画像所見の特徴が明らかになった。
結論
急性脳炎の全数届出周知と、網羅的な病原体検査が健康保険収載されたことで、原因病原体判明症例が増加した。JE・TBE特異的IgM抗体は調べた全例で陰性であった。COVID-19流行前後で急性脳炎の発生動向が変化した。自己免疫性脳炎疑い症例の中にウイルス性脳炎が紛れている可能性が考えられた。認知症類似の経過を辿るLGI1抗体陽性脳炎の一群の存在が明らかになった。IATA国際基準に則った検体搬送の周知が必要である。AFMは2015・18年の多発後、2019-20年は少なく、2021-22年に微増した。2022年にEV-D68陽性のAFP報告があり緊急全国調査の結果、保健所届出は症例定義を満たした症例の30%であった。感染研でPV、地衛研でPV以外の病原体検査が実施されていた。PV,EV-D68,-A71以外にCox-A2検出AFMの一例を経験した。AFMでは典型的な軸索型運動神経障害、GBSでは脱随型運動神経障害と軸索型運動神経障害が混在、後天性脱随疾患ではAFM同様の軸索型運動神経障害を呈し、非典型的な神経生理学的特徴を認めた。AFM全例で長大な脊髄病変を呈し、急性期には前角優位の広範で均一な脊髄病変を認め、馬尾の造影効果は前根優位で、画像所見の特徴は過去のAFM症例の特徴と合致した。MOG関連疾患・急性散在性脳脊髄炎や急性横断性脊髄炎とは画像所見の相違を認めた。AFPの全数届出を周知し、病原体検索の重要性を伝える必要がある。
公開日・更新日
公開日
2025-08-25
更新日
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