ヘリコバクター属菌の薬剤耐性の対策に資する研究

文献情報

文献番号
202318005A
報告書区分
総括
研究課題名
ヘリコバクター属菌の薬剤耐性の対策に資する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21HA1005
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
柴山 恵吾(国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 大崎 敬子(杏林大学医学部)
  • 加藤 元嗣(北海道大学病院 光学医療診療部)
  • 杉山 敏郎(北海道大学 北海道大学病院)
  • 村上 和成(大分大学医学部消化器内科学講座)
  • 林原 絵美子(国立感染症研究所 細菌第二部)
  • 徳永 健吾(杏林大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
7,693,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
この研究班は、ヘリコバクター・ピロリについては薬剤耐性の継続的なモニタリングの方法を提言することを目的とした。また、ヘリコバクター・ピロリ以外のヘリコバクター属菌については薬剤耐性の実態は不明であるため、まず実態を調査することを目的とした。昨年度までに日本ヘリコバクター学会が実施してきたサーベイランスを検証し課題を整理するとともに、厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)のデータベースからヘリコバクター・ピロリの薬剤感受性試験の結果データを抽出し、集計した。ヘリコバクター・ピロリの培養と薬剤感受性試験の実施状況についてもJANISデータで調べた。今年度は薬剤集計されたデータを検証し課題を整理するとともに、その課題を解決するため医療機関にアンケートをとることとした。薬剤感受性試験の精度管理については、これまでに作成した精度管理標準株の安定性の評価を引き続き行うとともに利用の促進を図ることとした。また、ヘリコバクター・ピロリ感染ならびにクラリスロマイシン耐性を簡便に検出する技術開発を行った。ヘリコバクター・ピロリ以外のヘリコバクター属菌については、AMED林原班で実施されているヘリコバクター・スイスの多施設疫学調査の収集菌株で薬剤感受性試験を行うとともに簡便化した試験法を考案した。
研究方法
JANISデータの利用に当たっては、厚生労働省に統計法の利用申請を行い、2012年から2021年までのデータベースからヘリコバクター・ピロリの細菌検査のデータを集計した。ヘリコバクター・ピロリのデータを抽出して、医療機関数、培養菌株数、薬剤感受性試験実施数、薬剤感受性試験方法内訳、薬剤耐性率を集計した。精度管理標準株については、凍結保存株について薬剤感受性試験を実施した。ヘリコバクター・スイスについては、菌株収集を進めるとともに薬剤感受性試験を簡便化し汎用性が高い手法を開発した。収集菌株の薬剤感受性試験を実施し、最小発育阻止濃度(MIC)を測定した。また、ドラフトゲノムを得て菌種の同定や薬剤耐性メカニズムの解析等を行った。
結果と考察
ヘリコバクター・ピロリの薬剤耐性について、継続的に状況を把握するための手法として厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)に着目し、JANISデータベースから2012年から2021年までのヘリコバクター・ピロリの細菌検査データを抽出して、薬剤耐性率を集計した。JANISに参加している3,207病院(2024年1月)の中でヘリコバクター・ピロリの細菌検査データを登録しているのは、最も多い年で142病院、少ない年で73病院とごく一部だったが、菌株数としては年間数千株のデータが得られることがわかった。ここで、JANISに登録されているデータは1次除菌失敗例が多い可能性がある。この課題の解決のため病院にアンケートを実施し、今後除菌治療歴の情報も収集していくこととした。薬剤感受性試験には標準株を用いた精度管理が重要であり、また試験法も統一することが望ましいと考えられる。精度管理のためにこれまでに作成した基準パネル菌株のMICを測定したところ、作成当初と変化がなく、安定して保存されていることを確認した。日本ヘリコバクター学会が実施した2018年-2020年のサーベイランスの結果については標本とした患者や試験法などデータの特性を整理し課題をまとめて論文に発表した。そしてこれらの結果を踏まえ厚生労働省にピロリ菌感染を感染症法の5類に指定する要望を提出した。ヘリコバクター・ピロリ以外のヘリコバクター属菌については、分担者が代表を務める研究班(AMED林原班)で実施されている多施設疫学調査で2023年7月までに30株を分離した。、薬剤感受性試験を行った結果、MIC90はアモキシシリンが2 μg/ml、クラリスロマイシンが0.5 μg/ml、メトロニダゾールが32 μg/ml、ミノサイクリンが4 μg/ml、レボフロキサシンが16 μg/mlであった。耐性株については、変異を同定した。同時にこれらヘリコバクター・スイス感染の症例データを集積し、臨床像をとりまとめた。
結論
JANISデータベースからヘリコバクター・ピロリの薬剤感受性データが集計できることがわかったが、除菌治療歴の有無や試験法などバイアスがあることがわかった。これらの課題を解決できれば、JANISはヘリコバクター・ピロリの薬剤耐性サーベイランスのsurrogateとして利用できる可能性が高いと考えられる。同時に、ヘリコバクター・ピロリ感染症を感染症法の第5類の対象疾患に含めることも引き続き検討していく必要がある。ピロリ菌以外のへリコバクター属菌については、最適な除菌治療法を提言するために今後も薬剤感受性情報および薬剤耐性に関する遺伝子変異の有無に関する情報を蓄積していく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2025-06-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-06-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202318005B
報告書区分
総合
研究課題名
ヘリコバクター属菌の薬剤耐性の対策に資する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21HA1005
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
柴山 恵吾(国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 大崎 敬子(杏林大学医学部)
  • 加藤 元嗣(北海道大学病院 光学医療診療部)
  • 杉山 敏郎(北海道大学 北海道大学病院)
  • 村上 和成(大分大学医学部消化器内科学講座)
  • 林原 絵美子(国立感染症研究所 細菌第二部)
  • 徳永 健吾(杏林大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本では平成 25 年にヘリコバクター・ピロリ感染胃炎に対する除菌治療が世界に先駆けて保険適応とされた。除菌治療が普及したことに伴い、胃・十二指腸潰瘍患者は最大患者数(1996 年)の約4分の1まで減少し、また、長年にわたり年間約5万人で推移してきた胃がん死亡数も徐々に低下しつつある。他方、近年治療に用いられる抗菌薬に耐性を示す菌が増加していることが明らかとなってきた。
この研究班では、ヘリコバクター・ピロリについては薬剤耐性の継続的なモニタリングの方法を提言することを目的とした。これまでに日本ヘリコバクター学会が実施してきたサーベイランスを検証し課題を整理するとともに、厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)のデータベースからヘリコバクター・ピロリの薬剤感受性試験の結果データを抽出し、集計してサーベイランスデータとして有用であるか検証することとした。また、近年ヘリコバクター・ピロリ以外のヘリコバクター属菌についても胃の様々な疾患の発症に関連することが明らかになっているが、その薬剤耐性の実態は不明である。この研究課題では薬剤耐性の実態をあきらかにすることとした。それとともに、全ゲノム解析を行って耐性に関わる遺伝子変異を明らかにすることとした。
研究方法
JANISデータの利用に当たっては、厚生労働省に統計法の利用申請を行い、2012年から2021年までのデータベースからヘリコバクター・ピロリの細菌検査のデータを集計した。ヘリコバクター・ピロリのデータを抽出して、医療機関数、培養菌株数、薬剤感受性試験実施数、薬剤感受性試験方法内訳、薬剤耐性率を集計した。薬剤感受性試験の課題の整理のため、病院にアンケートをとった。薬剤感受性試験の精度管理については標準株を3株選出し、薬剤感受性試験を実施して凍結保存した。ヘリコバクター・スイスについては菌株収集を進め薬剤感受性試験を実施し、最小発育阻止濃度(MIC)を測定した。また、ドラフトゲノムを得て菌種の同定や薬剤耐性メカニズムの解析等を行った。
結果と考察
日本ヘリコバクター学会が実施した2018年-2020年のサーベイランスの結果について、標本とした患者や試験法などデータの特性を整理し課題をまとめた。そしてこれらの結果を踏まえ厚生労働省にピロリ菌感染を感染症法の5類に指定する要望を提出した。同時にJANISデータベースから2012年から2021年までのヘリコバクター・ピロリの細菌検査データを抽出して、薬剤耐性率を集計した。検査データを登録しているのは、最も多い年で142病院、少ない年で73病院とごく一部だったが、菌株数としては最も少ない年でおよそ4,000株、多い年で14,000株以上が登録されており、集計に必要な数の菌株のデータは得られることがわかった。薬剤耐性率の結果を日本ヘリコバクター学会が実施したサーベイランスの結果と比較したところ、クラリスロマイシンの耐性率はほぼ同等であり、アモキシシリンとメトロニダゾールの耐性率は年により乖離があった。乖離の原因としては試験法の違いや精度管理などが考えられた。またJANISに登録されているデータは1次除菌失敗例が多い可能性も考えられた。今後も薬剤感受性試験の普及とともに、耐性菌パネル菌株の利用を含めた標準化を推進させる必要があると考えられた。なお、この研究班では薬剤感受性試験の精度管理のための標準パネル菌株JSHR6、JSHR3、JSHR31を作成した。ヘリコバクター・ピロリ以外のヘリコバクター属菌については、2023年7月までに30株を分離した。薬剤感受性試験を行った結果、MIC90はアモキシシリンが2 μg/ml、クラリスロマイシンが0.5 μg/ml、メトロニダゾールが32 μg/ml、ミノサイクリンが4 μg/ml、レボフロキサシンが16 μg/mlであった。耐性株については、変異を同定した。
結論
JANISデータベースからヘリコバクター・ピロリの薬剤感受性データが集計できることがわかったが、除菌治療歴の有無や試験法などバイアスがあることがわかった。これらの課題を解決できれば、JANISは少なくともヘリコバクター・ピロリの薬剤耐性サーベイランスのsurrogateとして利用できる可能性が高いと考えられる。同時に、ヘリコバクター・ピロリ感染症を感染症法の第5類の対象疾患に含めることも引き続き検討していく必要がある。ピロリ以外のへリコバクター属菌については現在ヘリコバクター・ピロリのレジメンで除菌が成功しているが、最適な除菌治療法を提言するために耐性菌の判定のためのブレイクポイントを今後検討していく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2025-06-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-06-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202318005C

収支報告書

文献番号
202318005Z