パーキン蛋白の機能解析と治療法の開発

文献情報

文献番号
200935020A
報告書区分
総括
研究課題名
パーキン蛋白の機能解析と治療法の開発
課題番号
H19-こころ・一般-021
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
服部 信孝(順天堂大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 田中 啓二((財)東京都医学研究機構 東京都臨床医学総合研究所)
  • 高橋 良輔(京都大学大学院医学研究科・臨床神経学)
  • 澤田 誠(名古屋大学環境医学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
17,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
遺伝性パーキンソン病(FPD)の中でも最も頻度が高い若年性パーキンソニスムの原因遺伝子parkinは蛋白分解系の構成蛋白であるユビキチンリガーゼであることが分かっている。更にPINK1(PARK6)と共通カスケードを形成していることが報告されており、劣性遺伝性FPDには共通メカニズムが存在する。また同じく常染色体劣性のATP13A2遺伝子異常の患者の頻度は少ないが、この遺伝子産物も蛋白分解系であるオートファジー・リソソーム系に関与していることが判明しており、劣性遺伝性FPDには蛋白分解系という共通機構が存在する。そこで我々はこれら常染色体劣性パーキンソン病の原因遺伝子産物に着目し、その分子機能を明らかにすることにより、神経細胞死の機序を解明するとともにその発症予防の開発につなげることを目標とする。
研究方法
Parkin KO マウスについてボルタメトリーを用いて行動解析を行った。また培養細胞を使い、CCCPを用いてミトコンドリア膜電位の低下を誘導し、parkinとPINK1の局在変化について検討した。またparkinの基質であるパエル受容体トランスジェニックマウスを作成し、parkin KOマウスと交配して行動解析・生化学的解析を行った。FPDの解析と同時に神経変性疾患でのマイクログリアの毒性転換のメカニズムに関する研究を行った。
結果と考察
ボルタメトリーの解析ではparkin KOマウスではドパミン遊離の低下を認め、この遊離低下は3ヶ月月齢のマウスで顕著であった。また行動解析ではラット用ロタロッドテストを応用し、運動学習能力が低下していることを見出した。また、parkin KOマウスの膵β細胞では、第1相のインスリン分泌能が低下しておりインスリン分泌とドパミン分泌機構の共通機序を見出した。In vitro系ではparkin, PINK1がmitophagyに関わっていることが判明した。グリアには悪玉と善玉の二種類が存在していることが分かった。
結論
ParkinはPINK1と共同してmitophagyに関与し、ミトコンドリアの品質管理に関わっていると考えられた。一方、ドパミン放出機構とインスリン放出機構には共通機構があり、SNARE complexの関与が推定された。

公開日・更新日

公開日
2010-08-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2011-03-01
更新日
-

文献情報

文献番号
200935020B
報告書区分
総合
研究課題名
パーキン蛋白の機能解析と治療法の開発
課題番号
H19-こころ・一般-021
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
服部 信孝(順天堂大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 田中 啓二((財)東京都医学研究機構 東京都臨床医学総合研究所)
  • 高橋 良輔(京都大学大学院医学研究科・臨床神経学)
  • 澤田 誠(名古屋大学環境医学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
パーキンソン病の多くは孤発性であるが約10パーセントに家族性パーキンソン病 (FPD)が知られおり、FPDと孤発型には共通メカニズムが存在することが予想される。優性FPDには封入体形成という特徴を、劣性FPDには蛋白分解系という共通機構が存在しており、その分子機能を明らかにすることにより、新規治療薬の開発につなげることを目標とする。
研究方法
優性FPDの家系で半定量的方法にてα-synucleinのmultiplicationをスクリーニングした。parkin KO マウスについてボルタメトリーを用いて行動解析を行った。また培養細胞を使い、CCCPを用いてミトコンドリア膜電位の低下を誘導し、parkinとPINK1の局在変化について検討した。またparkinの基質であるパエル受容体トランスジェニックマウスを作成し、parkin KOマウスと交配して行動解析・生化学的解析を行った。ATP13A2 KOマウスを作成した。FPDの解析と同時に神経変性疾患でのマイクログリアの毒性転換のメカニズムに関する研究を行った。
結果と考察
α-Synuclein duplicationのケースが少なからず存在していた。病理学的にはレビー小体とGCIが観察された。Parkin KOマウスを用いたボルタメトリーの解析ではドパミン遊離の低下が観察され、低下は3ヶ月月齢のマウスで顕著であった。また行動解析ではラット用ロタロッドテストを応用し、parkin KOマウスでは運動学習能力が低下していることを見出した。一方、parkin KOマウスの膵β細胞では、第1相のインスリン分泌が低下しておりインスリン分泌とドパミン分泌機構の共通機序を見出した。In vitro系ではparkin, PINK1がmitophagyに関わっていることが判明した。少なくともCCCP処理などでミトコンドリアの膜電位が低下するとparkinがミトコンドリア外膜に集積することが分かった。パエル受容体のトランスジェニックマウスとの交配ではドパミンの増加が観察され、ドパミン神経毒作用に関して感受性が増加していた。Park9の原因遺伝子ATP13A2のKOマウスを作成した。また変異型ATP13A2はリソソームでなく小胞体に局在することが分かった。グリアには二種あり、異なる機能を示した。
結論
parkinはPINK1と共同してmitophagyに関与していることが判明した。一方、ドパミン放出機構にparkinが関わっていることは間違いなく、今後品質管理とドパミン放出機構の関連性について検討する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2010-08-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2011-03-24
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200935020C

成果

専門的・学術的観点からの成果
学術的にはparkinとPINK1の相互作用やmitophagyへの関与を明らかに出来た。parkinが劣性遺伝性パーキンソン病の原因遺伝子であることを世界ではじめて報告したグループとして詳細な機能解析が行われた。またラットのロタロッドをマウスの行動解析に用いることで運動学習能力を検討出来ることを見出した。parkinノックアウトマウスでは運動学習能力が低下していることが明らかにされた。
臨床的観点からの成果
遺伝性パーキンソン病の体系的スクリーニングを確立できた。特に発症年齢からある程度病型を分類できるようになった。また新規α-シヌクレイン遺伝子変異も見出し、成果をあげた。
ガイドライン等の開発
具体的なガイドラインの開発は行っていない。しかしながら、遺伝性パーキンソン病の変異スクリーニングを行い、ある程度臨床的特徴を確立しつつあり、今後診断および治療におけるガイドラインの作成に取り組みたいと考えている。
その他行政的観点からの成果
行政施策に反映されていない。今後の課題として遺伝性パーキンソン病の疫学調査や行政施策に反映出来るような取り組みが必要と考える。
その他のインパクト
ParkinとPINK1がmitophagyに関与する論文(Matsuda et al. JCB)がマスコミ等に取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
109件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
52件
学会発表(国際学会等)
33件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ihara M, Yamasaki N, Hagiwara A, et al.
Sept4, a Component of Presynaptic Scaffold and Lewy Bodies, Is Required for the Suppression of alpha-Synuclein Neurotoxicity.
Neuron. ,  (53) , 519-533  (2007)
原著論文2
Hatano T, Kubo S, Imai S, et al.
Leucine-rich repeat kinase 2 associates with lipid rafts.8リ錝ンモ
Hum Mol Genet. ,  (16) , 678-690  (2007)
原著論文3
Ning Y, Kanai K, Tomiyama H, et al.
PARK9-linked parkinsonism in Eastern Asia: Mutation detection in ATP13A2 and clinical phenotype.
Neurology. ,  (70) , 1491-1493  (2008)
原著論文4
Ross OA, Wu YR, Lee MC, et al.
Analysis of Lrrk2 R1628P as a risk factor for Parkinson’s disease.
Ann Neurol. ,  (64) , 88-92  (2008)
原著論文5
Ross OA, Braithwaite AT, Skipper LM,et al.
Genomic investigation of alpha-synuclein multiplication and parkinsonism.
Ann Neurol. ,  (63) , 743-750  (2008)
原著論文6
Kawajiri S, Saiki S, Sato S, et al.
PINK1 is recruited to mitochondria with parkin and associates with LC3 in mitophagy
FEBS Lett. , 19 (584) , 1073-1079  (2010)
原著論文7
Satake W, Nakabayashi Y, Mizuta I, et al.
Genome-wide association study identifies common variants at four loci as genetic risk factors for Parkinson's disease.
Nat Genet.l ,  (41) , 1303-1307  (2009)
原著論文8
Kawajiri S, Saiki S, Sato S, et al.
PINK1 is recruited to mitochondria with parkin and associates with LC3 in mitophagymage
FEBS Lett. , 19 (584) , 1073-1079  (2010)
原著論文9
Komatsu M., Wang QJ., Holstein GR. et al.
Essential role for autophagy protein Atg7 in the maintenance of axonal homeostasis and the prevention of axonal degeneration.
Proc Natl Acad Sci USA. ,  (104) , 14489-14494  (2007)
原著論文10
Komatsu, M., Waguri, S., Koike, M. et al.
Homeostatic levels of p62 control cytoplasmic inclusion body formation in autophagy-deficient mice.
Cell. ,  (131) , 1149-1163  (2007)
原著論文11
Komatsu, M., Kurokawa, H., Waguri, S. et al.
The selective autophagy substrate p62 activates the stress responsive transcription factor Nrf2 through inactivation of Keap1.
Nat. Cell Biol. ,  (12) , 213-223  (2010)
原著論文12
Murata, S., Sasaki, K., Kishimoto, T. et al.
Regulation of CD8+ T cell development by thymus-specific proteasomes.
Science. ,  (316) , 1349-1353  (2007)
原著論文13
Yashiroda, H., Mizushima, T., Okamoto, et al.
Crystal structure of a chaperone complex that contributes to the assembly of yeast 20S proteasomes.
Nat. Struct. Mol. Biol. ,  (15) , 228-236  (2008)
原著論文14
Iwasato T, Katoh H, Mishimaru H, et al.
Rac-GAP a-Chimerin Regulates Motor-Circuit Formation as a Key Mediator of EphrinB3/EphA4 Forward Signaling.
Cell. ,  (130) , 742-753  (2007)
原著論文15
Yamanaka K, Chun S J, Boillee S, et al.
Astrocytes as determinants of disease progression in inherited amyotrophic lateral sclerosis.
Nat. Neurosci. , 11 (3) , 251-253  (2008)
原著論文16
Imai Y, Gehrke S, Wang H Q, et al.
Phosphorylation of 4E-BP by LRRK2 affects the maintenance of dopaminergic neurons in Drosophila.
EMBO J. ,  (27) , 2432-2443  (2008)
原著論文17
Fujiwara M, Marusawa H, Wang H Q, et al.
Parkin as a tumor suppressor gene for hepatocellular carcinoma.
Oncogene ,  (27) , 6002-6011  (2008)
原著論文18
Kirstine Roepstorff, Izabela Rasmussen, M Sawada, et al.
Stimulus dependent tion of the phagocyte NADPH oxidase by a VAV1, rac 1, and PAK1 signaling axis.
The Journal of Biological Chemistry , 12 (283) , 7983-7993  (2008)
原著論文19
H Takeuchi, J Shizie, H Suzuki, et al.
A Suzumura:Blockade of microglial glutamate release protects against ischemic brain injury.
Experimental Neurology , 214 (1) , 144-146  (2008)
原著論文20
H Sawada, H Suzuki, T Nagatsu, et al.
Neuroprotective and Neurotoxic Phenotypes of Activated Microglia in Neonatal Mice with Respective MPTP- and Ethanol-Induced Brain Injury.
Neuro-degenerative Diseases , 7 , 64-67  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-