新規リードスルー惹起物質によるナンセンス変異型筋疾患治療のための前臨床試験

文献情報

文献番号
200935019A
報告書区分
総括
研究課題名
新規リードスルー惹起物質によるナンセンス変異型筋疾患治療のための前臨床試験
課題番号
H19-こころ・一般-020
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
松田 良一(国立大学法人東京大学 大学院総合文化研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 山田茂(国立大学法人東京大学 大学院総合文化研究科)
  • 池田大四郎((財)微生物化学研究会 微生物化学研究センター)
  • 高橋良和((財)微生物化学研究会 微生物化学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 アミノグリコシド系抗生物質やジペプチド系抗生物質ネガマイシンはリボソームに結合し,点変異により生じた未熟終止コドンとrRNAのA部位との結合を阻害することでPTCを読み越えて翻訳を進行【リードスルー】させ,機能的な全長タンパク質分子を作らせることが知られている。この性質を応用したリードスルー薬物療法は,2,400種を超えるナンセンス変異型遺伝性疾患の包括的化学療法としても有望であることから,遺伝子導入や幹細胞移植に次ぐ第3の革新的な有効かつ迅速な治療法として期待されている。本研究の目的は,ナンセンス変異型筋疾患治療のために,未熟終止コドンを克服するリードスルー誘起作用をもつ新薬を提案し,リードスルー薬物による治療戦略を確立することにある。
研究方法
 リードスルー活性検出系となるREADマウスの確立,それらを用いたリードスルー惹起化合物の探索とその投与方法の検討,構造活性相関からの誘導体展開,疾患モデル動物での薬効検証,SPF施設での安全性試験を行った。
結果と考察
 リードスルー惹起物質#4については経口投与が可能であること,モデル細胞培養系において顕著なリードスルー活性を認められること,mdxマウスにおいてジストロフィンの回復や血清クレアチンキナーゼ活性の低下,筋機能の改善が見られること等を確認し,急性・亜急性毒性試験においても良好な結果を得た。またネガマイシン誘導体N3やアミノグリコシド系抗生物質Aもmdxマウス骨格筋にジストロフィンタンパク質を回復させたことから,更なる構造活性相関研究を実施することで,より臨床現場に近い薬物候補の提案が期待できる。
結論
 特定したリードスルー惹起薬物候補のうち#4とN3,薬剤Aについて疾患モデル動物での薬効の検証を行い,#4について小動物を用いた安全性試験を行い,良好な結果を得た。リードスルー薬物による治療は,ナンセンス変異型遺伝性筋疾患において筋細胞膜でのジストロフィンの機能を回復するための有効かつ迅速な選択肢である。本研究で特定した薬物候補は複数種存在することから,症例に応じて未熟終止コドンの種類とその周辺配列に対する特異性を考慮した活用が期待される。

公開日・更新日

公開日
2010-06-15
更新日
-

文献情報

文献番号
200935019B
報告書区分
総合
研究課題名
新規リードスルー惹起物質によるナンセンス変異型筋疾患治療のための前臨床試験
課題番号
H19-こころ・一般-020
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
松田 良一(国立大学法人東京大学 大学院総合文化研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 山田 茂(国立大学法人東京大学 大学院総合文化研究科)
  • 池田 大四郎((財)微生物化学研究会 微生物化学研究センター)
  • 高橋 良和((財)微生物化学研究会 微生物化学研究センター)
  • 松尾 雅文(神戸大学大学院医学系研究科)
  • 斎藤 加代子(東京女子医科大学附属遺伝子医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アミノグリコシド系抗生物質やジペプチド系抗生物質ネガマイシンはリボソームに結合し,点変異により生じた未熟終止コドンとrRNAのA部位との結合を阻害することでPTCを読み越えて翻訳を進行【リードスルー】させ,機能的な全長タンパク質分子を作らせることが知られている。この性質を応用したリードスルー薬物療法は,2,400種を超えるナンセンス変異型遺伝性疾患の包括的化学療法としても有望であることから,遺伝子導入や幹細胞移植に次ぐ第3の革新的な有効かつ迅速な治療法として期待されている。本研究の目的は,ナンセンス変異型筋疾患治療のために,未熟終止コドンを克服するリードスルー誘起作用をもつ新薬を提案し,リードスルー薬物による治療戦略を確立することにある。
研究方法
リードスルー活性検出系となるREADマウスの確立,それらを用いたリードスルー惹起化合物の探索とその投与方法の検討,構造活性相関からの誘導体展開,疾患モデル動物での薬効検証,SPF施設での安全性試験を行った。
結果と考察
 リードスルー惹起物質#2や#4については経口投与が可能であること,急性・亜急性毒性が見られないこと,mdxマウスにおいてジストロフィンの回復や血清クレアチンキナーゼ活性の低下,筋機能の改善が見られること,#2については患者由来培養細胞系におけるジストロフィン発現等を確認し,一定の治療効果を認めたことから患者に負担を掛けない経口薬として有望であることがわかった。また特許申請中のネガマイシン類似リードスルー惹起低分子化合物5種以外にも,ネガマイシン誘導体N3やアミノグリコシド系抗生物質A等がmdxマウス骨格筋にジストロフィンタンパク質を回復させたことから,更なる構造活性相関研究を実施することで,より臨床現場に近い薬物候補の提案が期待できる。
結論
 リードスルー薬物治療の臨床応用基盤の確立に向けた基礎的成果として,特定したリードスルー惹起薬物候補のうち#2,#4,N3,薬剤Aについて疾患モデル動物での薬効の検証を行い,#2と#4について小動物を用いた安全性試験を行い,良好な結果を得た。リードスルー薬物による治療は,ナンセンス変異型遺伝性筋疾患において筋細胞膜でのジストロフィンの機能を回復するための有効かつ迅速な選択肢である。本研究で特定した薬物候補は複数種存在することから,症例に応じて未熟終止コドンの種類とその周辺配列に対する特異性を考慮した活用が期待される。

公開日・更新日

公開日
2010-06-15
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200935019C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 READマウス作出に成功したことにより,これを活用したタンパク質の生合成に関する新しい知の創出や研究効率の向上への貢献が見込まれる。さらに,ヒドロキシアミノブチリル基で修飾されたカナマイシン類・アミノグリコシド類の構造活性相関と毒性結果から重要な知見を得て,リードスルー薬物候補だけでなく毒性を回避する新規誘導体創製の可能性を開いたことは大きな意義がある。
臨床的観点からの成果
 本研究で特定したリードスルー薬物候補は複数種存在することから,症例に応じて未熟終止コドンの種類とその周辺配列に対する特異性を考慮した活用が期待される。
ガイドライン等の開発
 本研究では当該しないため,関連する指針や規範の策定は行っていない。
その他行政的観点からの成果
 リードスルー誘起物質を見出したことにより創出された知的資産は,リードスルーの作用機構や生体反応の制御機構の解明に新たな展開が期待される。またこの薬物候補は,現在知られている2,400種を超えるナンセンス変異型遺伝性疾患に包括的に適用できる応用性があるため,難治性疾患対策の推進に貢献できる蓋然性が高く,大きな社会的成果が期待される。
その他のインパクト
 「日本筋ジストロフィー協会全国大会総会」や「小児神経筋疾患懇話会」,「筋ジストロフィーの臨床試験実施体制構築に関するワークショップ」,「アカデミックシーズ発表会 in BioJapan」において,薬物を用いたナンセンス変異型筋ジストロフィーのためのリードスルー治療について講演し,筋ジストロフィー患児保護者や医師,創薬系企業から反響を得た。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
17件
学会発表(国際学会等)
8件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
4件
日本筋ジストロフィー協会全国大会総会,小児神経筋疾患懇話会,筋ジストロフィーの臨床試験実施体制構築に関するワークショップ,アカデミックシーズ発表会 in BioJapan

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Shiozuka M, Wagatsuma A, Kawamoto T et al.
Transdermal delivery of a readthrough-inducing drug: a new approach of gentamicin administration for the treatment of nonsense mutation-mediated disorders.
J. Biochem. , 147 , 463-470  (2010)
原著論文2
Kikkawa N, Ohno T, Nagata Y et al.
Ectopic calcification is caused by elevated levels of serum inorganic phosphate in mdx mice.
Cell Struc. Func. , 34 , 77-88  (2009)
原著論文3
Shima A and Matsuda R
The Expression of Myogenin, but Not of MyoD, is Temperature-Sensitive in Mouse Skeletal Muscle Cells.
Zool. Sci. , 25 , 1066-1074  (2008)
原著論文4
Allamand V, Bidou L, Arakawa M et al.
Antibiotic-mediated readthrough of premature stop codons leads to the stabilization of laminin 2 chain mRNA in congenital muscular dystrophy myotubes.
J. Gene Med. , 10 , 217-224  (2008)
原著論文5
Hayashi Y, Regnier T, Nishiguchi S et al.
Efficient total synthesis of (+)-Negamycin, a potential chemotherapeutic agent for genetic diseases.
Chem. Comm. , 20 , 2379-2381  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
-