地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制における入院医療による支援のための研究

文献情報

文献番号
202317039A
報告書区分
総括
研究課題名
地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制における入院医療による支援のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23GC1017
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
村井 俊哉(京都大学 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 笠井 清登(東京大学 医学部付属病院)
  • 藤井 千代(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
  • 柑本 美和(東海大学 法学部)
  • 櫛原 克哉(東京通信大学 情報マネジメント学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
13,987,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、本人の同意がない入院の実態とその課題を把握し、法学・社会学的な観点から同意のない入院に関する法整備の歴史や本邦の文化的背景について検討することにより、精神科における入院制度のさらなる適正化を図るための基礎資料を提供すること目的としている。
研究方法
上記の目的のため、本研究班は下記の3つの分担班を組織した。
非自発的入院に関する実態調査(研究分担者:藤井千代)
非自発的入院に関する法学的検討(研究分担者:柑本美和)
非自発的入院に関する社会学的検討(研究分担者:櫛原克哉)
藤井班では、当事者、家族、専門職に対しインタビュー調査を実施し、非自発的入院に関する課題を整理した。また、医療保護入院に関係する判例からの課題分析および、英国、ドイツ、カナダ、フランス、韓国、台湾の制度について調査した。柑本班では、本邦における精神保健法制の歴史を振り返り、ドイツ、台湾、韓国を対象とする比較法研究を実施した。櫛原班では、非自発的入院に関する文献および社会学の関連研究を調査した他、当事者及び家族を対象にインタビューを行い、社会学的分析を開始した。
結果と考察
非自発的入院に関する実態調査(藤井分担)では、インタビュー調査の結果から、現在までのところ、精神保健福祉法における入院に関する論点として主に「制度・手続きのあり方に関する課題」と、「医療の質に関する課題」の2つが見出された。制度・手続きのあり方としては、家族等同意に関する課題、医療保護入院の適用基準の広範性に関する課題があることが確認された。判例研究では、医療保護入院が関係する12例より、患者と家族の利害関係が対立している場合の課題等、制度・手続きのあり方から派生する問題があることが確認された。英国、ドイツ、カナダ、フランス、韓国台湾について、精神科の入院形態とその課題、障害者権利条約への対応等につき調査し、日本との相違点を明らかにした。
非自発的入院に関する法学的検討(柑本分担)では、令和4(2022)年精神保健福祉法で、対応が図られた課題と未解決の課題について整理した。比較法研究において、ドイツでは、「世話人」がキーパーソンになって同意によらない民事入院が広く行われているという点で、本邦と類似する法状況にあることが明らかになった。台湾、韓国では、わが国の精神保健法制を参考に精神保健制度を創設したものの、障害者権利条約の影響を受け改革が進みつつあった。台湾では、2024年12月に改正法が施行される予定であるが、改正法はより人権的と評される一方で、理想化されすぎて現実では克服しがたい課題がいくつもあり実現困難との意見もある。韓国では、旧精神保健法について、強制入院等の法的根拠となってきた旧法24条「保護義務者の同意による入院」の規定する要件について、「違憲」ではあるが、違憲決定をすれば当該条項の法的効力が直ちに失われ、それによって社会的混乱が生じ得るため、改正されるまで暫定的に当条項の法的効力が維持される「憲法不合致決定」がなされた。
非自発的入院に関する社会学的検討(櫛原分担)では、精神疾患を有する患者および家族へのインタビュー調査においては、症状の増悪やトラブルの発生時に病識がなかったことから、非自発的入院は自身にとって必要だったという解釈や評価が一定数みられた。一方で、入院後の処遇については肯定的なもののほかに否定的なものもみられ、後者には患者の家族との関係性を考慮しない処遇が行われた、虐待等のトラウマ体験を刺激するような処置がなされた、入院時に十分な説明や今後の治療方針の提示がなされなかったことが挙げられた。家族を対象とした調査においては、家族の精神障害の露見による差別や偏見に対する危惧や、扶養やケアの義務を家族が優先的に担うべきであるという規範意識や義務感は、家族の「抱え込み」につながり得るという課題が認められた。
非自発的入院をめぐる課題については医療的な側面からの検討だけでは不十分であり、わが国の歴史や文化的背景といった社会学的な側面からの検討が不可欠である。また、精神保健福祉法単独で制度のあり方を検討することには無理があり、医療法、民法その他の法律との関係性を踏まえて課題に取り組む必要がある。来年度は各分担班が課題を共有しつつ多角的な検討を行うこととする。
結論
研究はほぼ計画通り進行しており、本研究により、現状の非自発的入院に関する制度に内在する課題の整理をすることができ、精神保健福祉法附則第3条に基づく制度の見直しにあたり、有用な基礎資料となることが期待できる。

公開日・更新日

公開日
2025-08-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2025-08-13
更新日
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研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202317039Z